神を崇めよ
茶番劇を終わらせると言うヴォイス団長。
真緒達の潜入捜査はバレてしまったのか!?
「急に呼び出してすまない……」
急遽集められた真緒達。横一列に並べられ、机の椅子に腰掛けるヴォイス団長と向かい合う。
「い、いえ……それは別に構わないのですが……いったいどの様なご用件なのでしょうか?」
「……いや何、君達に聞きたい事があってね……」
そう言いながらもヴォイス団長は目線を合わせず、意識だけを向け、机の埃を人差し指で拭き取る。
「……ここ最近の君達の働きは実に素晴らしい……」
「あ、ありがとうございます……」
「(な、何だかいつもと雰囲気が違いますよ? き、気味が悪いです……)」
「(……ぞれに、いづもの大声じゃ無ぐなっでいるだぁ……)」
「(ま、まさか……俺達の正体がバレたんじゃないか!?)」
これまで何度か雰囲気が変わり、大声じゃ無くなる事はあった。しかし、こうして四人全員が集められ、改まった話をするのは初めての事だった。そんな突然の出来事に、正体がバレたのではないかと、一同に不安が募る。
「(と、取り敢えず、一旦落ち着こう……まだ、バレたと決まった訳じゃ無いよ……)」
「“ヘッラアーデ”…………」
「「「「!!?」」」」
その瞬間、真緒達の心臓が跳ね上がる。全く予測していない言葉に驚きを隠せない。重たくなる場の空気に、息苦しさを感じ始める。ヴォイス団長は、未だに目線を合わせず、意識だけを向け、今度は爪の手入れをしていた。
「……という宗教団体に聞き覚えはあるか?」
「…………えっ、あっ、い、え……聞いた事もありません……」
「……そうか……他の三人も同様か?」
ハナコ、リーマ、フォルスの三人は慌てて首を縦に動かす。各々の額からは、冷や汗が流れ出ていた。
「……端から見れば、私は能天気で“声の大きい”だけの人間に見えるだろう……その判断は間違っていない……そのイメージこそ、私がこのレッマイル13支部の団長として活動する際、思い描いたイメージなのだから…………」
「「「「!!?」」」」
ヴォイス団長の思いがけない言葉に、真緒達は言葉を失った。真緒達だけで無く、ヴォイス団長もレッマイルで活動する時のキャラを作っていた。今現在の落ち着いた雰囲気こそが、ヴォイス団長の本来の姿なのだろう。
「……あのイメージを保つのは、とても大変なんだ。一日中、大声を発して無理矢理テンションを上げて……気が休まるのは、この部屋だけなんだ……」
「……あ、あの……それで結局ご用件は何でしょうか? 今までのキャラが作られた者だった……という事を伝えたかっただけなら、仕事に戻ってもよろしいでしょうか?」
勿体振るヴォイス団長に痺れを切らし、真緒は用件を早く伝える様に催促した。
「まてまて、ここからが大事なんだ……今の話無くして、これからの話は語れない……」
ここで初めて、ヴォイス団長は目を合わせて来た。仕事に戻ろうとする真緒達を、言葉で制止させる。
「……さて、先程私はこの部屋だけが気の休まる場所だと言った……気が休まるとは、具体的にどう言う意味だか分かるかね?」
「「「「…………」」」」
全員答えが分からず、首を横に振る。
「気が休まるとは……つまり“心に余裕が生まれる”という事だ……その場所にいると落ち着ける……その場所にいると時間の感覚が長く感じる……そうした心の余裕が生まれると、人は普段気付かない事に、よく気付く事がある……」
そう言うとヴォイス団長は、腰掛けていた椅子からゆっくりと立ち上がり、横の棚に置いてある書類の上に手を添える。
「……ここ最近、私の部屋に無断で出入りした者がいる……その証拠に、若干書類の配置がずれているんだ……」
「「「「!!?」」」」
一日に何回驚けば良いのだろうか。ヴォイス団長の部屋に侵入した事がバレてしまった。
「(ま、不味いです!! 今すぐここから逃げましょう!!)」
「(お、落ち着いて!! まだ侵入したのが私達だと決まった訳じゃ無い!! それまではここを離れないで!!)」
「(そんな悠長な事を言っている場合か!? 今逃げないでいつ逃げるんだよ!?)」
「ぞれで……誰が出入りじでいだが、分がっだんでずがぁ?」
「「「(ハナコ!!?)」」」
真緒達が酷く混乱する中、ハナコが直球な問い掛けをした。
「……これは驚いた……もっと惚けると思っていたんだがね……君達だろ?」
「「「「…………」」」」
疑惑は確信へと変わった。部屋を出入りしていたのが、完全にバレてしまった。
「まぁ、少し考えれば分かる事だった……君達が入団したその日に、部屋を出入りされた痕跡が見つかった……そしてその次の日から、まるで的を得た様に次々と“条件”満たして行く君達……ふふ、今思い返せば随分と間抜けな話だな……今の今まで気付かなかったなんて……私はまどろっこしいのが嫌いだ。単刀直入に聞く……君達、ヘッラアーデの事を知っているな?」
「………………はい」
もはや退路は断たれた。弁解する事も許されない。ここは下手な事は言わず、これ以上の情報を相手に与えない様にする。
「どこまで知ってる?」
「その存在と……入会する為の条件までです……」
「指揮したのは誰だ?」
「私です」
「い、いえ違います!! 私が指揮しました!!」
「オラだぁ!! オラがやろうっで言っだんだぁ!!」
「皆、俺を庇ってくれてありがとう。だが、これ以上皆に迷惑は掛けられない……俺だ……俺が指揮したんだ」
誰か一人だけが重荷を背負う事の無い様に、互いが互いを庇い合う。
「……素晴らしい友情だな……だがまぁ、“我が神”の御言葉を借りるとすれば、“くだらない”……というのが適切なんだろうな……」
「“我が神”……? それって……「それでだ」……」
ヴォイス団長が口にした“我が神”、それについて詳しく聞こうとするが、途中で遮られてしまった。
「……君達は、何処でヘッラアーデの情報を掴んだ? 何が目的だ?」
空気がより重くなる。ヴォイス団長の言葉に、殺意という感情が含まれたのが原因だった。張り詰めた緊張が、この場を支配する。
「……わ、私達……は……私達は……“光”を見ました……」
「……“光”……?」
突然、真緒が突拍子も無い事を口走る。三人は驚くが、真緒の目が『任せて欲しい』と訴え掛けていた。
「(マオさん……分かりました。私、マオさんを信じます!!)」
「(マオぢゃん、頼むだぁ!!)」
「(任せたぞ、マオ!!)」
「……何なんですか……“光”とは?」
唾を飲み込む。言葉の選択を間違わない様、慎重に選び出す。
「……あの日、一年前のあの日……私達は絶望の底にいました……生きる意味を見出だせず、誰にも頼る事が出来なかった……そんな不幸せな人生に疲れ、私達四人は自殺しようとしました……しかし!! しかしあの時、私達は目にした!! 空を覆う真っ赤な血肉!! そしてその直後、魔王城方面から現れた巨大なお姿!! その人類を超越し、全てを包み込むかの様な偉大な御方は、私達に生きる意味をもたらしてくれた!! 何も無い私達という存在を、あの御方なら受け止めてくれるのではないか……そう思い、私達はあの御方についての情報を、あらゆる手を使ってかき集めました。そして遂に見つけた……私達と同じ様に、あの御方を崇める人達がいる団体を……」
「それが……ヘッラアーデだった……という事ですか?」
「……はい……」
熱の入った演技。いや、演技というよりも本心に近い。真緒にとってエジタスは、親以外で初めて優しく接してくれた人物。異世界という慣れない場所で、親身になってくれた。そう言う意味では、光なのかもしれない。
「…………ふふっ、ふふふ……あはは……あっはははははははは!!!」
「「「「!!?」」」」
真緒の話を聞いたヴォイス団長は、突如笑い始めた。その笑いは、今までの大声とは比較にならない程の音量だった。
「はははは……いや、失礼した。決して君達の事を笑った訳じゃない……只、こんな所に私と同じ境遇の者達がいるとは思わなかった……」
「同じ境遇……という事は、ヴォイス団長も!?」
「あぁ、一年前のあの日……信じていた人達に裏切られ、絶望の底にいた……生きる意味を見出だせず、君達と同じ様に自殺しようとした……だがあの時、確かに目にした!! 真っ赤に彩られたそのお姿は、裏切られ冷たくなった私の心を暖かくしてくれた!! あの御方こそ、私が生涯を掛けて崇めるべき“神”なのだと!!」
「……ヴォイス団長……お願いがあります……」
「…………何だ?」
「私達を……ヘッラアーデに入会させて下さい!!」
真緒は姿勢を整え、ヴォイス団長に向けて深々と頭を下げた。それに続き、ハナコ、リーマ、フォルスの三人も深々と頭を下げた。
「……君達は……ヘッラアーデに入る為、私の部屋を出入りし、入会条件を盗み見た……」
「分かっています……ですが、どうか入会するのを認めて頂けないでしょうか!? 私達には……私達にはもう……あの御方しかいないんです!!」
「…………」
十秒、二十秒、三十秒……長い……深々と頭を下げ続けている為、腰が痛くなり始める。それでも、ヴォイス団長の返答は返って来ない。
「…………」
するとヴォイス団長は、無言で真緒達の横を通り過ぎた。
「(そ、そんな!? マオさんの熱演でも駄目だった!?)」
「(も、もうおじまいだぁ……)」
「(くそっ、ここまでか……)」
「(…………師匠)」
「…………」
通り過ぎたヴォイス団長は、部屋のドアノブを右に9、左に6、右に4、左に3と回し始めた。その瞬間、部屋が大きく揺れ始めた。
「「「「!!?」」」」
真緒達は慌てて振り返る。するとそこには、真緒達を見つめながら微笑むヴォイス団長がいた。次第に揺れも収まりつつあった。
「あの御方を崇める者なら大歓迎だ……さぁ、見るといい……」
そう言いながらヴォイス団長は、ドアノブを回して扉を開ける。
「こ、これは!?」
そこに広がる光景は、レッマイル13支部の教会では無かった。もっと広々とした巨大な場所だった。
「ここが、レッマイル13支部の影で暗躍するもう一つの教会……ヘッラアーデ13支部だ」
真緒の臨機応変な対応で何とか切り抜く事が出来た。
そして遂に真緒達は、ヘッラアーデの潜入に成功した!!
次回、ヘッラアーデ13支部を案内される真緒達。そんな真緒達の前に、新たな人物が現れる!?
次回もお楽しみに!!
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