小学四年生の夏 ウソとホントと冗談と
「はい! お待た……ッせ!」
投げつけ……はしないけれど、少しイライラした態度を隠そうとしないでチョコバナナとりんご飴、焼きそばとたこ焼きをグイッと押し付けた。
「わっ! どうした、あずみ? 何か怒ってない?」
「そりゃ怒るわよ! 暑い中やっと階段登ってここに着いたのに、すぐにお祭りに戻って買って来いだなんて!」
「だって、一年間楽しみにしてたんだよ?」
「自分で買いに行けばいいじゃない!」
「だから、僕はここを出られないんだって」
「なんでよ!?」
「聞きたい?」
「っ――!」
思わず私は口を噤んだ。
もしかしたらこの子は難病に侵されていて、それが理由で外に出られないのかもしれない……。異常とも言える肌の青白さが、その及んだ思考に信憑性を与えた。
「いい、聞かない。……いいよ、来年は買ってから来るから」
「ははっ! 来年も来てくれるんだ?」
「もうっ! 何かバカにしてる!」
ムキになる私を笑いながらあしらう男の子が憎らしかったが、愛嬌のあるその笑顔を見ると「もう……いいわ」と溜息を吐き、私が引き下がるしかなかった。
この時この子のことを深く詮索してはいけないって本能が訴えていた。それが友達でいられる条件なんだって、そう思った。
だから、当時は次の質問も深く意図していたものじゃなかった。
「ねえ、君はここに妖怪が出るって話知ってる?」
一年振りにせっかく会ったのに何時までもぷんぷんしていてもしょうがない。話題を振ることにした私が口にしたのは、母から聞かされた妖怪のことだった。
「妖怪? うん、もちろん知ってるよ」
チョコバナナを美味しそうに頬張りながら、事も無げに答える彼。
「やっぱり有名な話なんだ。その話を知ってからちょっとここに来るの怖くて。どんな妖怪なんだろ」
「どんなって、目の前に居るだろ?」
「目の前?」
「うん」
そう言って男の子は焼きそばを食べるのに割った割り箸で自らを指していた。私は目を細め睨み、呆れて溜息を吐いた。
「本当にきみはいい加減だね。きみのどこが妖怪なの?」
「どこがって言われても」
「お母さんが言ってたけど、ここに出るのは人喰いの妖怪なんだって。百歩譲ってきみが妖怪だとしてもせいぜい座敷童子がいいとこでしょ」
「じゃあ、あずみはどんな妖怪を想像しているのさ?」
「人喰いって言うくらいだから、頭に角を生やしてて大きな口に牙がずらりと並んでて、身体も大きくて」
「ふーん。まるで酒呑童子みたいなやつだね。あんな奴大したことないよ」
「少なくともきみの百倍は怖そうよ」
「ははっ、見た目はそうかもね」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「本当に変な子。きみの印象をそんな風に増々深めたわ」
「ミステリアスだろう?」
「ミステリアスじゃなくて、変人の間違いでしょ。……ねぇ、妖怪だなんて、なんであんな嘘をついたの?」
彼の大きな瞳を覗き込んで訊ねた。優しく私を見つめる双眸がチラと左右に揺れる。
「冗談が好きなだけさ」
一瞬の間の後そう答えた彼。
「ただの冗談だったの?」
「決まってるだろ? 今になって思えば、つまらない冗談だったかなって反省してる」
「本当につまらない冗談」
「ひどいな」
「いっそのこと本当に妖怪なら面白いのに。妖怪とお友達だなんて、素敵じゃない?」
「ははっ、冗談? 人間と妖怪が友達にはなれないでしょ」
彼は困ったように笑い、顔を背けてそう言った。
「あとは……そうね、印象に残ってることと言えば中学ニ年生の時かな」
「ああ、あずみが落ち込みまくってた時だ」
「ふふっ、そうだね。まさかきみにあんな風に諭されるとは思わなかったわ」
「諭されるって? 確かあずみは意固地に受け入れようとしなかったような」
「あの時はね。でも今ならきみの言っていた事が正しいってわかるわ」
「正しいとは限らないよ」
私達の昔語りはまだ続く。