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再会 〜昔語り〜

 今から会いに行く不思議な友達との始まりの日を思い出しながら、石畳のお祭り通りを歩く。

 右手にチョコバナナとりんご飴、左手には焼きそばとたこ焼きのパックが入った袋をぶら下げる私は、傍から見ればさぞ食いしん坊な女に映っていることだろう。


 そのまま歩き続け、通りの端まで来ると、出店も疎らになり人混みも緩和される。

『九十九東町会夏祭り』と書かれた看板が掲げられている門をくぐり、賑やかな喧騒から遠ざかると、そこは日常の静寂と暗闇が支配する馴染み深い世界が広がる。


 人口灯で照らされた賑やかな場所からどんどん離れ、静寂と鈴虫の鳴き声が響く田んぼの畦道を進めば、いよいよ私の心臓は高鳴っていった。


 毎年の事だが、会うのは一年ぶりだ。わくわくしないわけがない。

 

 間もなく昼間でも仄暗い林の入り口に差し掛かり、そこを少し進めば例の神社が見える。

 相変わらず立入禁止の看板が立てかけられているが、所々塗装が剥がれ泥に塗れた看板は、私が初めてここに来た時からずっと変わらず置かれている物でボロボロだ。太い黄色と黒が編み込まれたロープも(ほつ)れて千切れそうになっている。


 石造りの階段を上がり鳥居をくぐれば、如何にも管理の行き届いていない廃屋のようなお堂が姿を現す。


 そして、お堂へ続く石段には一人の少年が腰を降ろしていた。

 真っ白な肌と銀色の髪の毛が、暗くて黒い世界に映える。白いTシャツと短パンという素朴な服装は毎年同じだが、今しがたまで回想していた小学三年生当時の外見からは随分変わった顔付き。


 端正なことには変わりないが、あどけない可愛らしさの代わりに凛々しい男らしさが備わった感じ。


「あずみ、遅かったね」


 にっこり微笑むその笑顔に、胸が綻び更に高鳴る。思い出していた当時の声とは違うが、大人びた響きを孕んだその声が耳に心地よかった。


「苦手な人たちが並んでいたから中々買えなかったの。見られると何か嫌味を言われるから」


「そんなに一杯持ってたら、さぞ食いしん坊な女の子に見られただろうね」


 くすくす笑う彼に私はムッとする。


「ちょっと、誰のせいよ。誰かさんが毎年ご要望だから買ってきてあげてるのに。そんな事言うとあげないよ?」


「うそだよ、ごめんね。いつもありがとう」


「もう……」


 彼の横に腰掛けチョコバナナとりんご飴を差し出すと、もう一度ありがとうと言って嬉しそうに受け取った。

 毎年見せてくれるその輝くような笑顔に、私まで嬉しくなるのもまた毎年のこと。


「本当にこのりんご飴は綺麗だよね。紅くてキラキラしてて、まるで宝石みたいだ。それに美味しいし」


 りんご飴を褒め称えるのに余念がないのは結構なことだが、私としては今日の為に着付けた浴衣や綺麗に結い上げた髪の毛や気合を入れたお化粧など、もっと注目して欲しいところは沢山ある。

 そもそも楽しみにしてるのは食べ物だけか! と突っ込みたい。


「あずみ、どうした? 不機嫌そうな顔して」


 知らず知らず表情に出てしまっていたようで、私の顔をじぃっと覗き込むように見つめる彼の黒い瞳。その無垢な表情に何も言う気になれず、少しむくれて「別に」とそっぽを向いた。


「あっ!」


「え、何?」


 急に大きな声を出した彼は何かを見つけたように下を向いている。私もその視線を追ったが、特に何もない。


「あずみ、足の爪が綺麗な紅に染まってるよ!」


「え? あ、ああネイル?」


「凄く綺麗だね。まるでりんご飴みたいだ」


「ちょっとぉ……りんご飴て。食べ物に例えないでよ」


 思わず足を引いてしまう。

 そうだ。このネイルも実を言うと今日の為に仕立てたものだった。少しでも可愛くて綺麗だと思われたい気持ちの表れなんだけど、これは成功なのかな? ズレた彼の褒め言葉だけど、一応綺麗とは言ってもらえた。


「あぁ〜。やっぱり美味しいな。この瞬間の為に生きているようなものだよ」


「そんな大袈裟な。たかがりんご飴で」


「違うよ。あずみと一緒に食べるりんご飴が美味しいって意味だよ」


「えっ?」


 ドキリとした。

 唐突な一言は私の思考能力をストップさせる。


「あずみと一緒にいる時だけだよ。僕が楽しいと思える瞬間は」


「……私だってそうだよ。君に会えるのを毎年楽しみにしているわ」


 言えた。彼の積極的な言葉に触発されて、まだ全然遠回しだけど前向きな一言を言えた。


「相変わらず学校はつまらないのかい?」


「うん……」


「僕と話す時みたくあずみらしさを出せばいいのに」


「今更もう無理。それに別にいいの。一人には慣れたから」


 私の自棄な物言いに口を尖らせる彼。不満気に何かを考えているようだったが、急に笑顔を浮かべた。


「実は今日はあずみを待ってる間、昔を思い出してたんだ」


「そうなの? 私もここに来る間、きみに初めて出会った時の事を思い出していたわ」


「本当に? じゃあさ、今日は昔話に花を咲かせようか」


「ふふ、それいいね」


 虫達の鳴き声とたまに吹く風が木々の葉を揺らす音だけが聞こえる二人だけの空間に、私達の昔語りがぽつりぽつりと始まった。  

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