小学三年生の夏 友達になってよ
夜の蒸し暑い中、ダッシュで神社からお祭り、そして神社へと駆け続けた私は体中汗びっしょりになっていた。
息を切らしながら、お堂へと続く階段を駆け上がる。両手にはお祭りを知らないと言う変わった男の子の為にお土産をたくさん持って来た。
「はい! お待たせ!」
「あ……」
退屈そうに頬杖を付いていた男の子を見つけると、私は息を整えることもしないで戻ってきた事を告げる。
荒い呼吸を繰り返しながら、私は得意気に両手に持った袋を差し出した。
「戻ってこないと思ってた。なんだい、これは?」
待っててと言っておいて、戻ってこないわけあるかいっ! と突っ込みたかったが、それより想定通りに聞き返してくれて私はにんまりする。横に腰掛けて、とりあえず顔を伝う汗を拭う。
「これはね、チョコバナナとりんご飴よ。お祭りに行ったことないなら食べた事ないんじゃない?」
目を真ん丸くして興味深そうにチョコバナナとりんご飴を覗き込む男の子。その姿に何だか私は嬉しくなった。
「食べる?」
「食べられるのかい?」
「ちょっと……当たり前でしょ。見たことないからってその質問はやり過ぎよ」
やっぱり変な子。と思ったが、渡したチョコバナナとりんご飴を最初は恐る恐る、二口目からは顔を輝かせて食べるその姿に思わず笑ってしまう。
「これすっごく美味しいね!」
「でしょう? たまにしか食べられないのがまたいいのよね。そうだ、こっちもどう?」
私はぶら下げたもう一つの袋の中からパック詰めされたたこ焼きと焼きそばを取り出した。
「珍しいものじゃないけど、不思議とこのパックに入ってると美味しいんだよね」
「へぇ、そうなんだ! これは何て言うんだい?」
「ちょっとぉ……。これはどう見たってたこ焼きと焼きそばでしょ!」
むくれて言い返す私に男の子は「あ、そうだよね」と言って笑った。男の子の笑顔を見て私も笑う。
何だかこんなに笑ったのはとても久しぶりに思う。親しい友達が少ないせいもあって、学校では殆ど本を読んで過ごしているし、夏休みも家にいるか図書館にいることが多かったから。
美味しそうに食べる男の子の横顔を眺めながらそんな事を考えていた。
「ねえ、君の名前はなんていうの?」
私の問いかけに焼きそばを頬いっぱいに詰め込んだ顔をこちらに向ける。とてもすぐには喋れそうにないその様子にまた笑った。
「私は堤あずみって言うの。東小の三年二組よ」
名前と一緒に通う小学校と学年クラスを告げたのは、男の子の事を知らなかったから。見た感じ同い年くらいだけど、たぶん同じ学年じゃない。男子と話す機会なんて殆どないとはいえ、たった二クラスしかないのだから顔を知らないことはないはず。
たぶん他校生だろう。それか上級生かはたまた下級生か。
咀嚼し終えた男の子はまたまた不思議そうな表情を浮かべ首を傾げた。
「ふーん、君、あずみっていうんだ。ところで、『ひがししょう』って何?」
「東小は、九十九東小学校のことよ。……もしかして引っ越してきたばかりとか?」
「へぇ、つくもひがししょうがっこうね。……うん、実はそう。引っ越してきたばっかなんだよね」
「やっぱり! こんな狭い町なのに全然知らないなんておかしいもん。で名前は? 何歳?」
困ったように頭を掻く男の子。そんな変な質問はしてないはずなのに、言えない事情でもあるのだろうか。
「名前かぁ……。名前は無いんだよね。歳は確か二五〇歳くらいだったかなぁ?」
「ぷっ! 君、本当に変な子だね。名前がないわけ無いじゃん。歳もいい加減だし」
「本当だって」
「本当に名前ないの?」
小さく顎を引く男の子の顔は真剣だった。嘘をついているようには見えないけど、いやいや。どう考えても嘘だ。
だけど、引っ越してきたばかりだと言うし、あまり言いたくないなら、まあいいか。
「じゃあさ、私と友達になってよ」
「うん、いいよ。あずみは面白いから」
即答で了承してくれた。躊躇いもなく私の名前を口にした男の子は、ドラマにでも出そうな子役ばりの整った顔を綻ばせる。
こうして、私はその子と友達になった。
真っ白な肌と銀色っぽい髪、それと対比する真っ黒な大きな瞳が印象的な男の子。
お祭りを知らなくて初めて食べたチョコバナナとりんご飴をとても気に入ってくれた。
通う小学校どころか、歳も名前すらもまだ知らない不思議なお友達との出会い。