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勇者の従者は秘密のアサシン   作者: SHO-DA
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アサシンガンナー


 デリウエリさんは、超美人だが、機転も利いて、情にも厚い・・・『仕事』が絡まない限りは、だけど。

 ご存知『黄金の大山塊亭』の影の支配人にして、御年不明の(探ろうとすればきっと殺される、イヤ、マジで)ハーフエルフ。ちょっとだけとがった耳がキュートです。そのせいか緑の服がよく似合う。でも、一度だけ、ゆったりして白い普段着姿を見たけれど、それもすごい似合ってって、見とれちゃったね。

 だけど、俺の『仕事』仲間・・・ていうか実は上役だったりするし、俺にいろいろ仕込んでくれた師匠である。まぁ、普段気軽に接しているけど、正直それはストレスだ。上司としては悪くないけど実は怖い。でも、ほんの時々褒めてくれる。へへ。


第5章 アサシンガンナー


 それから俺は一人で、かつての村跡に行くことにした。実は今の俺は移動速度がかなり速い。

 短距離なら馬より速い。だから急げば一日という距離も、人目を気にしなければ数時間である。思い立って早速移動を始める。が2時間ほどたったころ遠くに馬車が見えた・・・止まってる?

 休憩だろうか?俺は少し離れたところから、静かに二頭立ての馬車に近づいていった。馬車は街道わきの空き地・・・旅人の宿泊や休憩用につくられた・・・に停まっている。

 ふと、イヤな予感がした。護衛らしい男4人の雰囲気が、荒んだ傭兵の感じだった。一方傭兵を雇いそうな商人の姿がない。近くに雇い主がいない?こんな信用できなさそうな連中なのに?ありえない、と言っていい。俺はフードとマントに身を包み、敵の一人を無音無気配で近寄り気絶させた。そして軽々と運び、少し離れたところで『薬』を使って尋問する・・・。

 運がいいというべきかどうか、この馬車は、かつての俺の村を目指していた。ホルゴスに到着したばかりの難民を乗せて・・・荷物として。俺は他の3人の護衛も気絶させた。はっきり言って、全く苦労しなくて済んだ。護衛の一行はシーフとウォリャーで、うち、二人は中級のシーフとウォリャー。が、とりあえず意識を奪い、『薬』をかがせる。細かい尋問は組織に任せる。うかつに聞くと自害するような暗示をかけられているかもしれない。

 で、8人の別行動組の所に向かう。ありていに言えば、こいつら8人は昼間から捕まえた若い娘と『ご休憩』する予定で馬車を止めていた。で、まず勝ち組4人が娘を森に連れて行ったということだ。ち。そちらに向かうことにした。


「やめて、やめてえ。」

 女たちの悲鳴に布を引き裂く音・・・そして下卑た男の声。

「どうせお前らは食われちまうんだ。今のうちに楽しもうぜ。」

「いや、いやあっ。」

 ・・・残念ながら予想通りのことが起こっていたようだ。

 悲鳴を聞いていると、暗い殺意が、俺の意識を侵食していく・・・下劣な裏切者どもめ。


 カチッ。その時、俺の頭の中で、撃鉄の起きる音が響いた。


 俺の周りだけが暗くなる。左手が輝いて模様が浮かび上がる。そして口が勝手に唱える。

「大いなる精霊ワルドガルドよ。その御名のもと、我に力を示したまえ。エン・ゲイル・アズ・ゴウンフォルド・・・武具召喚!我が名はユシウス。我が武具よ。我が元へ来れ!」

 左手の輝きが消えた後、俺は左手に拳銃を握っていた。そして、感情の大部分が凍っていた。


 ハッシュパピーかよ・・・まあ三か月前のスタームルガーMK2の22LRよりは、馴染む。一年前に呼び出したモデル500はここでは論外だ。

 相変わらず、そんなふざけた述懐が自然とでる。口元には冷笑だ。


 スミス&ウェッソン MK22 Model-O。


 その特徴を一言で言えば暗殺銃。

 その原型は、同社が初めてアメリカで作ったダブルアクション式のピストル・・・セミオートマチックハンドガンのことだ。だからホントはリボルバーをピストルとは呼ばない・・・のMK39だ。1954年当時としては軽量で安全面も配慮されて、よくできている。その後の同社ピストルの基本となった、名銃と言えなくもない。しかし9mmパラベラムを使用するのが、大口径主義のアメリカ人に馴染まず、商業的にはイマイチというやつだった。

 これをベースにして、ベトナム戦争中、アメリカ海軍の特殊部隊SEALのために消音装置を付けた特殊任務用として限定生産されたのが、このMK22-M-Oだ。

 専用のWOX-1Aスプレッサー(消音機)装備に加え、スライド音を抑えるスライドストップ機能、更には専用の亜音速特殊弾Mk.144 Mod0を利用するため、えさを与えられた猟犬のように標的も静かになるっていうことで「ハッシュパピー」ってあだ名がついた。ハッシュパピーそのものはトウモロコシの粉を練って油で揚げたドーナツみたいなモンだが。

 おっと、俺の感慨はともかく、目的からすればあまりのんびりもできまい。

声の聞こえる方へ静かに俺は接近した。しかし、男どもは目の前の娘をいたぶるのに夢中で周囲なんて気にもかけていない。ばかばかしくなった俺はゴーストウォークなんてやめてさっさと近づくことにした。ダガーでも充分だが、せっかく久々の拳銃だ。次はいつ撃てるかわかったもんじゃない。おっと、顔はマスクで覆う。三か月前のような面倒はもうこりごりだ・・・。


 俺は4人の男を気づかれることなく射殺し、4人の娘を助け馬車に乗せた。4人の捕虜も積み込んだ。実は馬車には密かに魔術が仕掛けられていたらしく、荷台にいる者は意識がマヒしてしまうらしい。しかし、御者の位置には魔術の効果がなかった。俺が御者をやって全員寝たままテイクアウトすることにする。

 正直、直接村の跡を見届けたい気もするが、証拠は十分だ。4人の捕虜から詳しい情報をとるには、こいつにかけられているであろう呪術かなんかを解除しなければならない・・・。ここは、アルデウス様への報告が最優先、そう決めた。当たり前すぎだけどな。


 カタカタカタ・・・。馬車は、着実に進んでいる。俺は御者をやりながら、物思いにふけっていた。

 オーガ18体。人間61人。俺が今まで始末した人数だ。オーガよりもとっくに人間の方を多く殺してしまった。まあ俺が殺した人間のほとんどは、オーガ並みに生かしちゃおけない奴らだから、殺して当たり前。今日の奴らみたいに。

 ・・・ただ、中にはそうじゃない人もいた。影守に不都合だ、と言う理由・・・。

 なぜか気分は暗い。

 近々オーガが大挙してやってくるとコルンさんが言った。ホルゴスが突破されたら族長連合全体が危うい。そうなると当然、王国も帝国も一層の圧力に抗わなければならなくなる。そんな情勢なのに、人間同士で何をやってるんだろう。

 この一年、時々感じていた。影守になって、考えていた。

 みんな、本当にわかっているんだろうか。

 今のままじゃ俺たちが滅びるってことに。

 普通に暮らしているのは、ただの現実逃避じゃないかって思う時がある。

 なんでくだらないことに喜んで、泣いて、ケンカして・・・人間同士足引っ張って争って。

 俺たちは何から何を守ってるんだろうって。

 気がつけば俺だって、敵より同族を多く殺している。

 ホント、何やってるんだろう。

 やっぱり、もうダメなのかな、俺たち人族・・・。

 ふと空を見上げるが、当然、雲は我関せずに流れているだけだ。


 馬車は夕刻前に北門前に着いた。馬車は近くの森に隠した。俺は変装を解き・・・と言っても暗灰色のフード&マントをしまいマスクを取っただけだが・・・一人馬に乗って西門へ行った。入城のため、何人かは並んでいたが、すぐ俺の番だ。

「・・・なんだ。北門のパシリじゃねえか?どうしたんだ。」

 俺は自然に聞こえる程度の大きめの声で答えた。

「街で行方不明が出て、少し探してたんですよ・・・でも、手がかりはなくて、今、戻ってきたんです。まったく子どもを誘拐するなんて最低なやつらですよ。全員縛り首にしてやります!」

「物騒だな・・・行方不明?そんな事件があったのか?」

 ・・・目を凝らす。不自然に表情が変わったヤツ、敵意や殺気を出したやつ・・・。あいつとあいつ。あいつも。ち。隊長、あんたもか。後で裏付けが必要だが、馬車が出た時も西門だろう。ここには内通者が何人もいる。俺はそのまま「黄金の大山塊亭」に向かった。


「パシリさん!」

 宿に入るとデリウエリさんが、俺を見つけてくれた。彼女が何か言う前に俺が先に告げた。

「親父さんに。」

 デリウエリさんは、一瞬だけ表情を消し、うなずいた。

「奥の間へ。」

 俺はその場を無言で去り、「そこ」へ向かった。

「アルデウス様。難民を中心に誘拐された者20名、捕虜4名を西の森に隠しました。」

 報告を聞き終えると、アルデウス様は珍しく安心した表情を見せる・・・もっとも認識阻害のスキルか魔術のせいだろう、この場を離れればすぐにまた忘れるのだが。

「余計に内通者が城の中、という疑いが増しました・・・捕虜は慎重に扱います・・・パルシウスくん、よくやってくれました。」

 情がこもった言葉だった。アルデウス様は名もない街の人も大切になさる立派なお方だ。


 少しして俺は北門に向かった。折よく『仲間』が手配した旅人から、西の森に不審な馬車が放置されているという通報があった。手はず通りだ。北門の衛兵隊には、当然俺も随行して、森に向かった。隊長ファザリウスさんは抜かりなく、衛兵のヤザレクさんやマクドさんも日ごろの訓練通り見事な衛兵ぶりだった。北門の衛兵隊は精鋭ぞろい。ちょっとしたもんで、誘拐された人たちを救出した。難民だからって軽く扱う人もいない。安心した。でも半裸の女の子たちを俺に預けるのはやめてほしかった・・・鼻血が・・・ぷっ。


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