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勇者の従者は秘密のアサシン   作者: SHO-DA
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勇者 対 アサシン

 俺はパルシウス。村で狩人の息子として育てられた。その時から、この名前だ。その前の名前は、まあ、普段は使わないし思い出しもしない。さらに言えば、街では通称の方が通りがいい・・・パシリ。俺はホルゴス北門の従兵、下っ端パシリ・・・表向きはこれで通じる。従兵だから副業もやれるんで、暇な時は宿屋で雑用パシリをしてる。

 裏は・・・実は裏でも知ってるものはそれで通じる。二人しかいないけどな。


第1章 勇者 対 アサシン


 昨夜は遅くまで『仕事』をしていた。なぜか最近翌日の目覚めが悪い。

 でも、ちゃんと起きて、いつも通りに笑って元気に・・・おっと今日は副業の方か。

 そう思っていた俺に、デリウエリさんが、告げる。

「パシリさん・・・主が娘のことで話したいことがある、といってるけど・・・都合いいかな?」

 ここは『黄金の大山塊亭』という宿屋である。俺は三か月ほど前からここで雑用係・・・通称パシリとして働いている。ついでに、ここの主の娘の遊び相手をさせられている。一年前、娘を救ったのが縁だ・・・そういう設定になっている。ほとんど事実だけどな。

 そしてフロントにいるハーフエルフの超美人がデリウエリさん。この宿の影の支配人であり・・・俺の上司でもある。しかし、俺に『都合』を聞く?らしくないよ?

「はぁい、デリウエリさんっ!今、行きまぁすっ・・・今日もおきれいですね。」

 ひょっとしたら俺が疲れ気味のことを察して、上司として大丈夫か聞きたかったんだろうか。

 だから、できるだけ、いつも通り、訓練通りに、明るく、軽く、笑顔で返す。

「・・・ありがとう。じゃ、奥の間へ。」


「パルシウスくん。おはようございます。来て早々にすみません。」

「おはようございます。アルデウス様。お呼びにより参上いたしました。」

 アルデウス様。直接俺に仕事を指示できる唯一のお方だ。この組織の頭領でもある。あと一人連絡係がいたらしいが、会ったこともない。

「実はリュイシュシアなのですが・・・最近上位古代語を習得したそうで」

 しばらく俺はアルデウス様の、殺伐とした組織の頭領らしからぬ親バカに付き合った。リュイシュシア・・・俺の親友リュイのことだ。実は、アルデウス様の娘に関する情報のほとんどは俺発信である。が、まあ忘れたふりをして相槌を打ちながら聞く。これも訓練の成果だ。

「・・・それでですが・・・『処理』してほしい者がいます・・・お願いします。」

 直属とは言え、最下級の俺に依頼という形を使ってくださる。これは一種の礼遇だ。もちろん、依頼じゃなく命令だが。命令を受け、標的の情報を聞くと、俺は部屋を辞した・・・相変わらず、ここを出るとアルデウス様の顔が浮かばない。徹底した認識阻害や感覚鈍麻のせい。

 依頼は急ぎだが、まともな方だった。最近多いなぜこいつを?と考える必要がない。もっとも難易度は高いAランク。運送ギルドの幹部の一人・・・不正に街の物資を横流しをしていた。それを・・・今は始業前で、午前中は主業に行く。午後のうちに下調べを終えて、今日中、遅くても明朝までには『処理』を終えなくてはならない。


 そして、深夜。俺は『仕事』の準備を終えていた。格好は暗灰色のフード&マントに黒ガエルの皮で作ったブーツ。鎧はなし。主な道具はイアードダガーだが、それ以外の隠し武器や各種「薬」に侵入用のマジックアイテム・・・。高価なスクロールもあるが、使ったことはない。

 一年前のあの夜に身についていた俺の潜入術や、格闘術、短剣術は組織でも俺に教えられる者はいなかった。それくらいの腕だ。それ以外のことはだいたいデリウエリさんから教わったが。きっと俺は前世でも殺し屋だ。

「魔力検知。」

 俺が、指輪に魔力を送ると、屋敷の数カ所が不自然に光って見える。魔術の種類まではわからない低位のアイテムだが、俺にはだいたい光る場所で何を呪符しているか推測できる。

 おそらく精霊魔術の土系「結界」だ。やっかいだが、慣れたものである。『敵意消散スキル』によりまず俺自身の敵意や害意、そう言うものを消す。続いて『気配消絶スキル』で気配そのものも絶つ。念のため・・・いらないと思うのだが・・・囮として連れて来た猫を、魔術の範囲に入ると同時に起こして放す・・・。微かな俺の気配は猫によって完全にかき消され、警護の者は猫を追う・・・。ふん。あんなガラの悪い警護を雇うとは、後ろ暗いんだな・・・。

 俺は完全に気配を消したうえ、「無音動作スキル」で音もたてずに屋敷に侵入する。建物の作りは、下調べをしたが多少変わっていた。「建造物知識」で照合する。いろいろ仕掛けがあるんだろうが、「罠検知スキル」でわかる。ま、純粋な罠は専門家なんだがな。

 

 寝室にも「警報」があったが、あいにくこの低位の呪符物くらい、素で無視できる。俺自身に「検知妨害スキル」がある。俺は標的が眠ったまま心臓をイアードダガーで刺した・・・。自分が死んだことにも気づくまい。終わった。俺は、誰にも気づかれないうちにこの場を去ろうとした。

 が・・・遠くで物音、争う音。そして、近づいてくる音。早い。速い。疾い・・・。

門でもめた音がしてからここまで、一分かかってないだろう・・・。油断、というよりむしろ呆気に取られて、俺は処理した『標的』の寝室で、そいつらと鉢合わせすることになった。我ながら間抜けだ。

ドアが蹴り破られ・・・こいつら、「罠」や「仕掛け」をどうやって越えて来た?・・・小柄な影があかりのない寝室に飛び込んでいた。

「エルジュウエス!てめえ、覚悟しやがれ・・・ん?」

 女・・・少女と言っていい小柄な影は、しかし不似合いなほど大きな大剣を両手で振りかざし、暗闇の中の俺を見つけ、構えを取った。そして、エルジュウエス・・・運送ギルドの幹部・・・がもう覚悟すらできない身の上になったことをすばやく確認したようだ。場慣れしてる。

「てめえ・・・てめえがやったのか?何者だ!」

 通りすがりのアサシン・・・何て答えるわけにもいかない。しかし、向き合ったこの少女から向けられる獰猛な殺気は、正直、骨まで沁みる。常人なら気死するレベルだ。俺だから受け流してはいるが。それが気に障ったのだろう。少女は完全に俺も「得物」と認識したようだ。

「へっ・・・これは本命がいなくなって、むしろ本望かな・・・。」

 ち。ソードハッピーだ。人食いの猛獣だ。目標が死んだんだからあきらめてくれればいいものを、こいつは戦うのが目的っていうタイプだ。仕事優先の俺と真逆・・・。

 一気に距離を詰めた少女は大剣を振り下ろす。が、俺もまた間合いを詰め、大剣を持つ少女の手に左手を当て剣の動きを止める。少女は必殺の一撃を片手で抑えられ、驚いている。俺は、更にその首元に右手のダガーを突き立てようと・・・暗い中で女の子・・・近くで見てしまった・・・13歳くらい、か?・・・なぜか右手が動かなかった。その一瞬で、少女は俺を力づくで振り払った・・・嘘だろ?

 大剣がでかければでかいほど、剣先は遠心力で強く速くなるが、その反面、柄や握りの部分は支点で力が入らない。そうだからこそ片手でそこを抑え動きを止めたはずなのだが、こいつは力を入れなおし、柄の勢いだけで俺を振り払い・・・あろうことか俺を壁に叩きつけていた。

「あぶねえ・・・危うく一瞬で殺されるところだったぜ・・・おめえ今、ためらったな・・・。」

 危ないのはこっちだ。化け物め・・・しかも・・・まだ子ども・・・。

「女子どもと思って手を抜きやがったな・・・なめやがって!」

 女で子ども。手を抜くつもりはないが、苦手分野がダブルだ。やってられっか。さっさと逃げよう・・・そう思った俺は侵入した裏の通路に抜けようと身をひるがえした。背後から

「てめえ、逃げるな!」

「ソディ、どうした?」

 という声がした。わかっちゃいたが複数だ。あんなレベルの化け物を複数相手にして生きてられる自信はない。ようやく建物を出て、庭に入る・・・!!

 ・・・ざああつ。俺はとっさに後ずさった。飛びのいたと言っていい。殺気ではない。しかし、何か強烈な存在感を感じとった本能がそうさせた。

 

 目の前に、虹の光が降り立った。

 その光は、人の形をしていた。

 その人は、俺を見つけて、凛々しく笑った。


 俺の背筋が凍る。だめだ。相手にしちゃいけない。あの子を相手にしては・・・あの子?

 頭の中の疑問を打ち消し、遁走術を使う。閃光火に闇煙幕、検知妨害スキル、跳躍、疾走。

 精霊も驚く音と光、煙が彼女を苦笑させたのが一瞬見えた。無理に追う気もなかったのだろう。俺は無事逃走に成功した・・・『仕事』も成功か。Aクラスの『仕事』がついでになるような、トラウマになるような、そんな一夜だった。尾行がないことを十分に確認し、黄金の大山塊亭に戻り、デリウエリさんに報告する。

「デリウエリさぁん・・・今日、ひどい目にあっちゃったぁ。」

 疲れていても、いつものように、訓練通り、明るく、笑顔で。報告後は兵舎に帰る。夜こっそり出入りするのは、もう慣れた。後は、一晩寝れば、全然大丈夫。


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