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勇者の従者は秘密のアサシン   作者: SHO-DA
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終章 従者の誓い

 でも、これって結局勇者様お一人で勝っちゃって、人族に勇気って戻るのかな?ただの勇者様頼みにならないかな?そう思った俺は、コルンさんに聞いてみたんだ。

「勇者様お一人?そうならないように手を打ったし、実際、旗には声援を力に再変換して勇者様に届ける仕組みもある・・・そうみんなにも伝えてる。でも、そう。それを体感できたのはホルゴスにいた人たちだけ。その人たちもいつまで勇気を持ち続けるかまではわからない。そういう意味では、これからが本番。人族の巻き返しは、始まったばかりよ。」


終章 従者の誓い


 堀の外で西門を守る護姫様。その後方で、城主ギルシウス様が率いる500騎の装甲騎兵が陣を組んだ。それが突撃する時は、実はもうかなり味方が優勢だった。それでも、完全に決する前に出撃し、敵の前衛ににとどめをさしたことで城主様はかろうじて面目を保った。その側近の一人はいつの間にか消えていたけど・・・俺じゃないよ。

 ギルシウス様は、戦場で、護姫様に今までの非礼を詫びた。護姫様もそれを受け入れた。そしてオーガ軍が退却した後は、コルンさんが廻船ギルドに依頼していた食料がエムズ川の上流から運ばれ、その請求書は直接城主様に渡された。どんな顔で受け取ったやら。


 俺は、戦いの後、意識を失い。勇者様におんぶされて帰ってきたらしい・・・そりゃ、どんな羞恥プレイだ!勇者様も起こしてくれればよかったのに・・・。

 で、『黄金の峰』の従僕の部屋でようやく目が覚めて、ドアを開けて・・・。なんだ、この張り紙は?「勇者エンノの従者パルシウス、ここに眠る」って!

 そりゃ、俺の部屋で俺は寝てたさ・・・しかし悪趣味だな・・・コルンさんだな?

「あら、親切でしたのよ。みんな、あなたがいつ起きてくるか心配で。戦姫様なんてたたき起こしてくるって言っては勇者様や護姫様に何回止められたやら。だからまだ起こすなって意味で。」

 他にやりようも書きようもあるでしょうに。この性悪眼鏡美人凄腕陣法師!

「すごい褒め言葉の連呼ね・・・それ、愛してるってこと?」

 だめ、俺、この人に全然かなう気しない。しかも・・・

「パ・・・パシリ、コルンさんが好きなの!?」

 どう聞けばそうなる?このドジでのろまな亀スカウト!・・・でも今回街で兵や民衆を誘導して、その戦意を引き出し、最後に城主様が出陣を決意するほどの士気に高めたのは、この子の働きだ。それに・・・俺はつい左手で自分の右の頬に触れてしまった。気づいたミュシファさんが真っ赤になる。

「あ・・・あの、あれは・・・だから、頑張ってって・・・おまじないみたいな感じで・・・。」

 そう言って走り去ってしまった・・・。

「青春ね。」

 コルンさんもまだ若いと思うんだけど?

「あら、やっぱり私も守備範囲なのね、パシリくんの。お姉さん困っちゃう~。」

 ・・・ゴメン、俺。も一回寝るわ。何か疲れてきた。

「おっパシ公!ミの字がすげえ勢いで走って来たから何かと思えば。生きてやがったか!」

 あなたもお元気そうで・・・あの北の衛兵生きてるかなぁ?ファザリウスさんも。

「パルシウス殿。お見事でした。あの旗は拙僧らの誇りですぞ!」

 痛い痛い。手を握りつぶして振り回すってどんな虐待ですか。キーシルドさん。

「今宵は城主に招かれたが・・・お主も来い。遠慮するな。」

 いや、それはどうしよう。『従者』って『従士』じゃないんだよね。でも勇者様がいかれるならお供します・・・勇者様?姿が見えない・・・俺如きが目を覚ましても・・・そうだよね。

 ポカ。え?勇者様!そこに!・・・なんでプンプンしてるんですか?

 え~と?

 俺を指して、目を開けて、何か探して・・・自分を指して・・・。

「目が覚めたら、真っ先に自分の所に来い・・・っておっしゃってるんですか?」

 ウンウン。

「すみませんでした。勇者様!」

 俺は慌てて土下座した。その有様を見て

「・・・エン姉?そりゃ、どんだけわがままだ?いくら従者でも。なぁ?」

「あぁ。エンの身振りをこれだけ即座に理解できるのも、なんだか哀れな気もするが。」

 なんかいろいろ言われたけど、勇者様が俺を気にかけてくだされば俺はそれでうれしい。もちろん気にかけてくださらなくても、俺の忠誠は変わらない。

「あ、お腹へった?今おやつ準備しますね。」

 ウンウン。戦いの時のように会話はできない。でも、あまり変わらない。俺はそう思うことにした。だって、言葉がなくても、伝わるものはたくさんある。勇気も、そうでないものも。

「お茶は、ミルク入りがいい?わかりました。このパシリにお任せを!」

 わがままは何でもきく。それが約束だ。意外に小さくてかわいいわがままばかりだけど。


 みんなとお茶して、片付けて・・・俺はセウルギンさんの部屋に行った。

「そうですか。兄は、生きてますか。」

「すみません。俺、セウルギンさんの想いを伝えることも、ヤツを倒すこともできませんでした。」

 セウルギンさんの紫の瞳に憂いの色が見える。それでも、こう言ってくれた。

「いえ。兄に言わせればそれも仏縁・・・2,3回死ぬような目にあわせてくれたんですから、少しは・・・ウサが・・・晴れました。」

 なんか、無理に自分に言い聞かせているような、そんな気がした。

「むしろ、パルシウスくん。残念ながら、キミと兄に奇縁ができてしまったようです。これから、厄介をかけるかもしれません。」

 そう言って、セウルギンさんは、双子の兄、滅空のことを俺に話してくれた。聞いてるだけで、けっこうつらかった。普段あんなセウルギンさんなのに、こんな重いものを秘めていたのか・・・今まで自分一人不幸な気になっていて、俺は情けなくなった。


 まだ夕刻には余裕があったが、俺たちはデリウエリさんの助言に従って早めに、しかもわざわざ遠回りして城館に向かうことにした・・・どうも勇者様が都市内にいることが広まって、見つかると、とんでもないことになるらしいって。

 ・・・これが罠だった。やられた。だまされた。ひっかかった・・・何やってくれるんですか!デリウエリさぁん・・・。

 沿道には、街中の人が押し寄せていて、すごいパレード騒ぎになっていた。ご丁寧にわざわざ告知まであったらしい。

 ホルゴスの人たちが、大きな歓声をあげてくれて、きれいな花がたくさんまかれた。

 勇者様の従者としてユニコーンをひいていた俺は、ついフードを深くかぶって、顔を隠した。

『そんなことをしていると、ただの怪しい人にしか見えません。主の従者としてもっと堂々としてほしいのですが。わたしにしても、そんな怪しい人に轡を取ってほしくありませんし。』

「わりぃ。俺、今ちょっとコミュ障気味で・・・人前で顔出す気分じゃないんだ。」

『あなたはいつもそう言ってますね。不甲斐ないことです。』

 実際、俺はホルゴスじゃまあまあ顔は売れてる方だ。でも、それはチャラい従兵パシリであって、勇者の従者としてではない。恥ずかしくて顔なんて見せられない。

 そして、何よりも場違いだ、と思う。自分のやってきたことを考えると、いくら仲間が赦してくれたとしても、人前で歓声を浴びるわけにはいかない。本気で逃げたい。

 人々の歓声は、もちろん勇者様に一番多く捧げられた。ただ、子どもたちは戦姫様、若い男や衛兵たちは護姫様やコルンさん、女性はセウルギンさん、年配の方々はキーシルドさん、という具合に、みんなそれぞれ固定ファンがいるらしい。俺やミュシファさんは従者で従士で影働きで馬にも乗ってないから、当然声援も何もないけど、当たり前で、別に悔しくもない・・・あ、今、護姫様の乗馬の轡をこわごわとってたミュシファさんに、若い男が近寄って何か手渡した・・・そういや、あの子、今回街で顔売ったもんな・・・いや、いいんじゃないか、別に。

 俺は、街の人たちの歓声にいたたまれなくなって、いつの間にか、歩きながらうつむいていた。そんな俺に、小石が投げられて、つい俺はむっとしてそちらを見た。

 顔を上げた俺の近くには、俺よりむっとして、不機嫌な顔をした女の子が立っていた。

 明るい空色の髪をしたその少女と俺は、しばらく見つめ合った。

 立ち止まってる俺をユニコーンが小突いて。

 ハッとしたときは、もうその子はいなくなっていて・・・。

 そして、俺は再び歩き出した。


 俺がそいつと再び会うのは、そいつの成人式で、これから何年も後だ。だから、この時はホントのホントのホントの最後だって思ってた。


「勇者様、俺、いつか、勇者様にお話ししたいことがあるんです。」

 俺があなたにお仕えできるのは、ある女の子が夢見たおかげで・・・。

 そのためにその子と俺は、もう会わないことになって・・・。

 でも、それがなかったら、今頃、俺なんか・・・。

 そう言えば、勇者様は、あの後、何も聞かなかった・・・いや、一回だけ聞いたか?

「え?俺の名前・・・俺はパルシウスですけど。え?あの時?違う名前だったって?ユシウス?違いますよ。パルシウス・・・でもちょっとかんじゃって・・・パル、パリュ、パリュシウスって!そんな感じで。」

 勇者様は、冷たい目で俺をにらんで・・・でも、後は突っ込まなっかった。 

「勇者様、今はまだ話せませんけど、いつか、きっといつか、いろんなことをお話ししなければいけないかもしれません・・・だから、その日まで、俺を従者としてお側に置いてくださいますか?」

 ポカ・・・え?何ですか?ダメなんですかぁ!?・・・え?違う・・・。勇者様・・・右手を指して?あ!

「・・・そうでした。俺の忠誠は永遠にあなたのものです。俺は勇者エンノの従者パルシウスです!」

 その時の勇者様は、この上ない笑顔を俺に向けてくれた。


 完


第一部 完結です。お読みいただいた方、ありがとうございました。

自分が、始めてまともに完結(一区切りですが)させられた小説になります。

いろいろいたらない所はありますが、今後の課題とさせていただきます。

多くの感想、ご意見をお願いいたします。

なお、第二部 勇者の従者は泣き虫アサシン 北方篇の連載を開始しました。2019 6/13~

興味のある方は、ぜひ、ご閲覧お願いいたします。



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