狩人
―――涎が滴る竜のアギトに呑まれる…!
「うぉわっ…!」
迫りくるアギトの先の闇に向かって叫び、跳ね起きると、俺の眼に写ったのは、年季の入った緑色のテントの幕だった。
「ここは…?」
テントの幕ごしから、小気味良くパチパチと焚き火の薪が燃え、弾ける音が聞こえる。そこでふと、我に返った。
そうだ、あの竜に呑まれそうになった時、誰かが放った矢が木々の間を縫ってアイツの眼を穿っていた。じゃあ、俺は…
「おお、起きたかよ。」
ハッと声の方に振り向く。
これもまた、年季の入ったテンガロンハットを被り、数々の死線を潜った事を物語るズタズタになったマントを羽織る、筋骨逞しい大柄の男がテントの膜を屋台の暖簾の様に捲りあげて物珍しいものでも見るかのように笑みを浮かべながら様子を伺っていた。
「…なあ、もしかして、あの矢はあんたが…」
「どうだ?俺の弓の腕前は?シビれただろう?」
葉巻の煙を燻らせ、矢を射った男は拳銃で狙い撃ちをしたようなジェスチャーを見せると、キザに笑い、こう、聞いてきた。
「なあ、お前さん。何だってあんな深い森の中に居たんだ?グラートなんぞに追われながら?」
彼から耳馴れない言葉が聞いた。話からすると、そのグラートとは恐らく、あの竜の固有名詞…なのだろう。
「…上手くは言えないけど、気が付いたら、あの森の中で気を失って倒れてて…起きて、何気なく落ちてる石を投げたら…」
「当たっちまった、てか?」
「そういうこと…」
男は腕を組み、右手を顎に当てながら首を捻り、何やら唸っている。彼は俺の姿を改めて見て、少し考える素振りを見せると、考えが纏まったのか、「よし」と呟く。
「その見慣れない服装、「キケン」の「き」の字も知らんような丸腰ぶりから察するに…あんた、他所者だって事は間違いないな?」
その問いかけに大きく頷く。
俺がこの辺りの人間じゃないと言うことは理解してくれた…が、この「辺り」どころか、恐らく、違う世界から来たであろうということを理解して貰えるには時間が掛かりそうだ…そう思った矢先、
「いや…もしかして、お前さんはそもそも「この世界の人間」じゃないんじゃないか?」
――正に的を得た質問だ!…弓使いだけに…
「何で分かるんだ!?」
俺は驚き、彼に聞き返す。
彼は笑いながら、
「風の便りだがな、この世界には他所の世界から度々、来訪者が来るって噂が有ってな。最初は出鱈目だろうと思ってたが、目撃談や記録が後を絶たないもんで、半信半疑だったんだが…まさか本当だったとは…」
と、語った。
「信じてくれるのか…?」
恐る恐る俺は彼に聞いた。
「この森の中で丸腰にズタボロの格好のヤツなんて、そんくらいの理由が無きゃ有り得ねぇさ!」
豪快にガッハッハ!と屈強な男は「らしく」笑った。
ふと、思い出したように、
「そういえば、お互いに挨拶がまだだな。」
と言うと、彼は不敵な笑みを浮かべ、
「俺はギルワーズ・コルト。お察しの通り、《狩人》さ。」
右手を差し伸べた。