救いの一矢
―――逃げろ!
強大な捕食者たる竜を眼前に、俺の本能は叫ぶ。
生死に関わる極限的な状況下では、やはり理性より本能の方が素早いのか、気付けば俺の脚は竜から逃れんと疾走した。呼吸は荒くなり、より多く酸素を取り込もうと肺が痛みだしてくる。そんな痛みすらもこの迫りくる死の恐怖の前では取るに足らない。
木々がより深い場所へと逃げている筈なのだが、竜はその大きな躯体で木々を悉く圧し折り、突き進んでくる。
全力で逃げているのだが、距離を開くどころか徐々に竜は迫ってくる。
ガツッという音と共に視界が揺らぎ、俺は
「うわっ!」
と声を上げながら倒れ込む。どうやら木の根に足がぶつかり転倒した様だ。すぐさま起き上がり走ろうとするが、鈍い痛みが両脚の筋に襲いかかる。やはり痛めた箇所だ。
何とか逃れようとするも時、既に遅し。
竜はジリジリと詰め寄ってくる。
捕食者はそのアギトを大きく拡げると、俺目掛けて飛び込んできた。その先に広がる闇に呑まれそうになった、
その時。
何かが突き刺さる様な鈍い音が聞こえた。
竜は悶えるように咆哮し、その怒りの声は木々をまた揺らした。
恐る恐る目を開けると、彼の右眼は何者かが放った矢によって貫かれ潰えていた。
状況が狩られる側に転じるかもしれぬと察したのか、俺を忌々しく睨むと、グルルと喉を鳴らしながら踵を返し、地鳴りを伴う足取りで捕食者は去った。
俺の意識は自分が何とか助かったと理解すると、すぐさま暗転した。