強大なる捕食者
飛竜が駆けていく。
「…は?」
蒼く高い空を見上げて、間の抜けた声を上げていた。
暫くして、俺は我に返ると、たちまち混乱してきた。
(…は!?ひ、飛竜!?夢でも見てんのか…?俺は!?)
目を擦り、凝らし、頬を抓っても依然、光景が変わらない。
瞼を閉ざし、再び開けようが、何の変化も起きない。
そして、今、俺の周りに広がっている青々とした木々の姿は、夢にしてはあまりにも鮮明過ぎる。
「…夢じゃ、ない…のか?」
俺は自分の身に起ったことも、現実も飲み込む事が出来ず、
消しゴムで擦られたノートみたいに真っ白になった頭の中で、必死に今の状況を理解しようとした。
(待て待て。頭を整理しろ、整理しろ…俺はあの時、確かに電車に撥ねられた。)
(普通だったら、衝撃かショックで死んでるんじゃねぇか?)
(仮に辛うじて死んでいなかったとしても、重体って所だろう?だが、ここは…?)
地面にあぐらをかいて10分は考えていた。
が…どうにも、
「俺は《死んでない》。」
若しくは、
「今、俺の前に広がる世界は《死後の世界》である。」
今の所、この2つしか考えられない。
(つーか、死んだってんなら何で肉体が有るんだよ!?鼻も効くし、視界も鮮明だぞ!?)
俺の眼は蒼天と周囲の鬱蒼とした樹木を映し、嗅覚は日に照らされた草花の匂いを感じ取る。
俺は自分の両掌を交互に見つめ、握っては開いてを2回ほど繰り返した。本当に気を失っていたかのように、倦怠感や身体の痛みは全く感じない。
立ち上がり、近くに落ちている石を拾い上げ、凝視した。少なくとも、いつも見る様な石と何ら変わりはなく、触感も石そのもの。
(一体ここは何処だ…?)
俺はため息を付きながら何気なしに石を放った。
―――カツン
石を放った先から、まるで金属にでもぶつかった様な音が聞こえた。目の前は木々の陰で仄暗い闇が広がるだけ。
しかし、そこに鈍く光る「ナニカ」が蠢いているのが見えた。
グッ、と心臓が鳴った。そのまま心臓を握り潰さんという様な重圧が陰が鈍重にのそり、のそりとその巨躯の竜の姿を顕にしてゆく。
鈍く銀に煌めくそれは、まるで鎧の如く竜の頭部と腕、背を覆い尽くし、この竜がこの自然における捕食者たる者で有る事を主張する。
彼は木々と大地を揺らす程の咆哮をアギトから流れ出る涎と共に放った。