Unbelievable Beginning
「努力は裏切らない」
「努力は実る」
いや、努力は必ずしも報われるものでは無い。
結果とは、かなり気紛れなモノだ。
自分の努力が、100%全て力になる、結果になるというなら、スポーツマンが涙を飲む事は無いかも知れない。
でも、そうはならないから、
敵わない壁が立ち塞がるから、
時として残酷な結果を突きつけられる。
━━━━━俺は……結局の所、自分に負けた訳だが。
中学から始めたバトミントン。
小学生の頃にスイミングスクールに通っていた事と、父方の血もあってか、知らず知らずの内に鍛えられた、柔らかく、がっしりとした肩の筋肉はゼロからバトミントンを始めた俺にとって、与えられた強力な「武器」となった。
この肩から撃ち出すスマッシュは同世代の中でも抜きん出たモノで、家での父との特訓もあって、確実な俺の強みになっていった。
━━━努力を重ねて。
学問との兼ね合いとに四苦八苦しながら。
━━━汗を流し続けて。
部内の誰よりもラケットを振って。走り込みを続けた。
気づけば、俺の右手の中指と薬指の下の辺りはマメが出来ていた。それが自分のスウィングスピードの速さと自分の「武器」の強さの証明だと、高鳴る鼓動と共に、またラケット自分の相棒を振り続けた。
未来へと期待を込めて。
努力を重ね続けた。
それが、その努力こそが、
唯一の俺の「自信」を支持する根拠だった。
高校最後の春。
俺は最後の最後で自分に負けた。
両腿靭帯の損傷。
それが俺の敗因。
「────靭帯にダメージ………!?」
陸上部の友人から伝えられて漸く気が付いた、俺自身が気づいていなかった「現実」。
気づけたきっかけは、4月の体力測定、シャトルランの記録会でのことだった。
昨年の記録は、靴が途中で脱げてしまって97回だったので、悔しさがあった。100回の壁を超えられずにいたのだ。
「今年こそは」と意気込んでいた俺はここで知る。自分の「現実」に。
開始のチャイムが鳴った。
早歩きより遅い程度に流しながら、回数をこなす。
69回を超え、70回目に差し掛かろうという頃、異変が起こった。
「ギシン」という歯車が止まるような音を聴いたのは本当に幻聴だったろうか?
俺の脚は錆び付いた歯車の様に動かなくなった。
主たる脳の命令を聞かぬ脚を引きずって体育館の壁まで戻る事に、足枷を付けられたような感覚を覚えた。
友人は俺の脚を見るなり、顔を青ざめさせて、「これ以上はもう、お前の────」と苦言を呈しそうになった彼の声帯を制止させるように、「いやぁ、ボロボロだわ!ホント笑けてくるぜ。ハハハッ……」
と空元気に答えた。
────頼む、もう少しなんだ………あと少し、もってくれ……!
……そんな祈りは勿論、叶わなかった。
溢れる涙を瞼に閉じ込め、重い足を引きずるように進み、JRのホームに着く。
溢れそうになる涙が、時より俺の視界を遮った。
まぁ、メンバー入りは絶望的な訳で。
3年間の記憶が走馬灯見たく、脳裏で駆け巡った。
そんな中、いつもの様に、いつもの帰路へと足を進め、いつも登下校で利用するJRの駅へといつも通りの時間に着いた。
そして、いつもの乗車口の前で待った。
俺はスマートフォン端末をスラックスの大腿部のポケットから取り出し、首に下げていたBluetoothイヤホンを起動させ、スマートフォンとコネクトさせると、狼の被り物を被った5人組という何とも珍妙な出で立ちのバンドの曲を迷いながらも一曲再生した。
「ニュートラルコーナー」
再生した曲はそんな名前だった。
節々に傷心に響く声が、涙腺を緩めた。
インターハイが終われば、いよいよ……大学受験だ。
────解ってる。いつまでも挫けてられないさ。
アナウンスと共に、70m程先からE531系の車両が蒼い線を走らせた銀色のボディを煌めかせ、完全に燃え尽きた俺を迎えに来てくれた。
ホームまで、あと100mと無いくらいまでE531系が迫ってきてのを見て、涙を拭おうとした、
────その時。
突然、俺の視界が急降下した。
俺の体は線路へと落下していたのだ。
何が起こったのか、全く理解出来ない。
…時の流れ、俺の動き………
全てが、スローモーションになっていく。
俺自身の意志で落ちた訳ではない。
誰かが俺を突き落としたとしか考えられない。
だが、左側から後ろを向くと、
そこには誰も居なかった。
真っ白になった頭で、今度は右側を見た。
────E531系の鋼鉄のボディが、俺に殺到する。