表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

誰にも送られない手紙

 


 私のことを好きな貴女へ


 えっと……なんか、好意を向けられている気がする……。そうだよね、夢乃(ゆめの)

 何にも言われないけど、こんな私だけど、それでも気付いてる。……ある時、気付いちゃった。私を見つめるその視線が、ただの親友に向けるそれではないことに。こっそり、カメラやスマホで私の写真を撮っていることも。私のスケジュールを把握しているのも、私のことを好きだから。

 ……でも、ごめんね。私が好きなのは別の人なの。同じ文芸部の、柿木(かきのき)葩月(はづ)なの。……ごめんね。

 私のために、色んなことしてくれてるのも知ってる。テスト勉強、頭の悪い私のために一所懸命やってくれて、教えてくれるってこと。隠し撮り、してるのも知ってる。でも、どんなに夢乃が私のことを好きでも、例えばそれを告白したとしても、私は葩月(はづ)のことが好き。他の何よりも、他の誰よりも。

 貴女のことを、愛しい気持ちで、激しい恋心を持って見ることは出来ない。貴女のことは、永遠に友達としてしか好きになれない。だって、それらの気持ちは葩月(はづ)に向いているから。



 ……だから。

 だからね、夢乃。一緒に登下校の道を歩いたり、勉強教えてくれたり。お昼ご飯を二人で屋上で食べるのも、せめてもの償いなの。こんなに好きでいてくれるのに、その気持ちに答えられないことへの償い。

 いつまで気付かれないように出来るかはわからない。

 今は私のことを気遣って、お昼休みにしかクラスに来なかったり、文芸部の活動に介入したりしないけど、けどそのうち、気付くときが来る気がするんだ。

 ……なぜなら、この間葩月に好きって言っちゃったから。友達としてじゃなくて、恋愛の、っていうことも伝えた。そしたら葩月が、私もだよって言ったから。

 ……私と葩月は、その日、……。……その日、初めて口づけを交わした。やわらかくて、温かい唇に、そっとこのキラキラした気持ちをのせるように。恥ずかしくて、でもぽかぽして、ずっとずっとこの幸せが続けば良い、このまま時間が止まれば良い、って思った。

 よく漫画や小説でみる、世界が輝いて見えるっていうのは、本当だった。



 ……もう、この世界には私と葩月しかいないんだって思えた。その時、貴女のことは、微塵も思い出さなかった。



 私はもう、葩月がいなくては生きていけないから。葩月だけが私の全てだから。

 ……ごめんね、夢乃。自分勝手で償うことしか出来ない私で。何故、そして何時、私のことを好きになったのかは知らないけれど、夢乃のことは、好きだから。親友として。だから、ちゃんと幸せになって欲しい。私なんかで、苦しい気持ちにならないで欲しい。





 どうか、お互いでお互いを幸せにできる、永遠に寄り添っていける人に、出逢って。



  叶楽(かなた)




 ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼




「ふぅ……」

 書けた。一通の手紙を書き終わった私は、椅子の背もたれに背を預けた。きっとこの手紙は、自分の机の奥の奥に仕舞ってそれっきりになるだろう。誰に見せることも、誰の手に渡ることも、無い。

 それでも、書きたかった。何となく、書いた方が良いのかなって思った。

 ……ごめん、ごめんね夢乃。本当に。

「辛いなぁ……」

 もう家の中は静まりかえっていて、起きているのは私しかいなかった。

 ピロン。

 静かな部屋で、手紙を書き終わって力を抜いていた私はとても驚いた。携帯の通知音だ。跳ねた心臓の音を聴きながら、携帯に手を伸ばし、画面を見る。

 ……あ、メッセだ。……葩月(はづ)からだ!!!えへへ、嬉しい。


 “明日、一緒にお昼ご飯、食べない?”


 メッセージには、一文、いつも通りの素っ気ない文面でそんなことが書かれていた。まさか葩月から、誘ってくれるなんて。ドキドキした。頭が良くて、ちょっとクールな彼女から、そういうことを言ってくれるのはあまり無いから。いつも私から甘えちゃうから。

 顔が熱いなぁ、なんて感じながら、私はスイスイと指を滑らす。


 “うんっ、良いよ、嬉しい!(*´∇`*)”


 ほかほかとした気持ちで布団に潜り込む。

 そしてふと思った。

 あれ、夢乃への償いは?お昼ご飯、一緒に食べるのは、夢乃へのせめてもの償いだったのに。

 でも。

 私は、葩月がすき。だいすき。葩月と一緒にいたい。ずっとずっと、この先、おばあちゃんになっても。

 私はもう一度、携帯に手を伸ばし、今度は夢乃とのトーク画面を開いて文を打った。


 “ねぇ、明日はお昼ご飯、一緒に食べれない。ごめんね。クラスの人と、食べる約束しちゃったんだ”


 私は少しの嘘を混ぜた。クラスの人とだったらきっと、夢乃も納得してくれると思って。

 明日、バスに乗ったとき、夢乃はどんな顔をしているのだろう。少しだけ、顔を合わせるのが怖いな、なんて考えながら、私は瞼を閉じた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ