試験勉強
昨日から、待ちに待った定期試験週間に突入した。
今日は土曜日なので、叶楽の家にお邪魔していた。
私は、叶楽の住むマンションの一室にある叶楽の部屋で、ローテーブルを広げて、解んないよぅとべそをかく叶楽に勉強を教えていた。
はぁ……。叶楽の部屋に来るのは久々だ。嬉しい。今、こうしている時が、二人だけでいられる幸せな時間だ。他の人の目を気にしなくても言い。
…………。
……………………。
……はっ、いけない、何て邪なことを考えているんだ。
何となく、良くないことを考えてしまった。
「ねぇねぇ、ここ、これわかんない。どういうこと?」
叶楽が問題を指差して聞いてくる。それは、生物基礎で習う、適応免疫についてのところだった。
「えっとねー、これはね……。」
出来るだけ分かりやすいように叶楽に教える。時々うまく伝わらないようで難しい顔をするけれど、一旦そこで止まって詳しく教えれば、かかっていた霧が晴れたような顔をして嬉しそうにペンを走らせる。
あぁ、こうして私が予習して身に付けたことで叶楽の疑問を晴らすことが出来る。嬉しそうな顔を見ることが出来る。そしてそれを私だけが独占できる。テスト期間って何て素敵なんだろう。いつもいつも、このときが待ち遠しい。
「ねぇ、ちょっと喉乾いたからジュース持ってくる!リンゴジュースとブドウジュースどっちが良い?」
唐突に叶楽が聞いてきた。
「え、私はいいよ、大丈夫。」
と答えたのだが
「遠慮しなくていいよ!ねぇ、どっち?」
なんて言って迫ってくるので、
「叶楽が欲しい。」
そう言いそうになるのを堪え、
「ブドウの方で。」
と言った。
「わかった!」
叶楽は元気にそう言って、部屋を出ていく。
さて。
前に来たときはまだ春の色で彩られていたこの部屋も、いつの間にか夏っぽく模様替えがされていた。こうゆうところがまた可愛い。私はあまり模様替えとかはしないタイプだ。
鞄から出したカメラを構える。
ジュースを持ってくるのに、そんなに時間は掛からないだろう。つまり、叶楽の部屋の撮影会は迅速に行わなければならない、ということだ。
様々なアングルから写真を撮り始める私。終わらせなきゃ……叶楽が戻ってくる前に……。半ば使命感を感じつつ慣れた手つきで終わらせる。
ガチャ。
扉が開く。
「お待たせ~」
叶楽がお盆に二つのグラスとお菓子をのせ、笑顔で入ってくる。
私は何事もなかったかのように叶楽が出ていったときと同じような体勢で勉強をしていたフリをする。カメラは既に鞄の中だ。
「おかえり」
わたしも笑顔で応じる。
テーブルの傍に座り、早速ジュースを飲み始める叶楽。
「あ、ブドウジュースどうぞ!」
「ありがとう」
グラスを受け取り、私もそれに口をつける。……甘い。甘ったるい。
正直、私は甘いものは好きじゃない。でも……。
「美味しい、ありがと」
叶楽の笑顔を見るためなら、私はどんな嘘もつく。
「ほんと~?よかった!」
叶楽は、想像した通りの可愛らしい笑顔を見せる。
ほんとに、可愛い。
ペリペリとお菓子の袋を開けて食べ始める叶楽。そしてモグモグと頬張る。
はぁ、叶楽が可愛い……。いつまでも眺めていられる。でも、何時までもそうしているわけにはいかなかった。
「ちょっと、恥ずかしいから食べてるところそんなにじっと見ないでよ~、勉強しよ、勉強!」
少し残念に思いながらも、そのために集まったのだから仕方がないと、私もペンを握る。
そうして私たちは、試験に向けて毎日二人で集まって勉強会をしたのだった。