普通に、普通に。
今日の朝、あんな夢を見てしまって、正直どんな顔をして会えば良いか判らなかった。
夢の中で感じたあの鼓動の高鳴り。そうして紅潮する頬の熱。
思い出す、あの唇の柔らかさ。
どうしよう。いや、落ち着け私。今まで隠し通してこれたじゃないか。ここで失敗したら、今までの努力が全て無駄になってしまう。夢の中みたいに、あんなに簡単に行くわけがない。現実世界では、あんなこときっと許されない。ずっと、秘めておかなきゃ。
そうだ、深呼吸をして落ち着こう。
す━━。は━━。
落ち着け、私。
「あ!」
と、後ろから嬉しそうな声。その声が、私の名前を呼ぶ。私が後ろを向く前に、後ろから飛びつかれる。
「おっはよっ!」
「うひゃああぁ!!!」
考えていたことが考えていたことなだけに、とてつもなく驚いた。心臓が口から飛び出るくらいに。バクバクと脈打つ心臓。
後ろから聞こえる声。
「酷いなー、そんなに驚かなくてもいーじゃん?」
そう言いながら背中を離れ、隣を歩く。
「ご、ごめん……。」
跳ねる心臓を抑えながら、私は謝る。その後で、
「おはよ、叶楽。」
改めて朝の挨拶をする。
あ、なんか、大丈夫な気がする。いつも通り、いつも通り。
「……なんか、顔赤いね?大丈夫?熱でも出たの?」
呼吸を整えているところでそう聞かれる。
「!?ぇ、あ、いや、大丈夫だよ。……そんなに赤いかな……。」
「うん、結構赤いよ。大丈夫なら良いけど……。」
「ごめん、……。」
「うぅん、大丈夫なら、このまま学校行こっ!」
「うん。」
そうして、いつの間にか止まっていた歩を再び進める。
いつも通り、談笑しながら学校の門をくぐって、階段を登り、
「じゃあ、また後で。」
と、手を振り別れる。そう、いつも通り。
…………ちゃんと、普通に話せてたかな。……普通に、笑えてたかな。
そうして今日も、あの子への想いを胸に秘め、誰にも悟られないように写真を撮る。