ファーストキスは夢の中
放課後。
私は、図書室で勉強をしていた。疑問に思ったことはすぐに調べ、それでもわからなければ先生に訊く。ここまで準備しないと、後で質問に答えるとききちんと納得した上で疑問を解消してもらうことが出来ない。自然と、私にも知識が付く。
そうして三時間くらい経った頃。
ガラッ。
私が図書室に来てから何度目かの扉が開く音。
足音が、私の座っているところの机の近くまで来る。
小声で、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。その声に顔を上げる。
「お待たせ、帰ろ?」
目の前に立つ叶楽が、にっこり笑ってそう言った。その言葉に私は頷き、
「おっけー、今から準備するから待ってて。」
と小声で返した。
少しして、私たちは図書室を出、それから校門を出た。
今日も二人で帰路につき、
「また明日ね。」
と手を振り、それぞれの家に帰る。
そして、今日もまたいつものように、隠し撮った叶楽の写真が増える。付箋に今日の日付とどんなときの写真かを書いて貼る。
晩御飯を食べたり、お風呂に入ったり、全ての事を終えパジャマに着替えた私は、電気を消して布団に入る。私はすぐに眠りに就いた。
──────
「…………あれ、学校?あ、叶楽だ。」
私はいつの間にか、学校にいた。少し遠くに叶楽を見つけた私は、
「おーい、叶楽~!」
と、呼んでみた。その声に気付いた叶楽が振り返る。そして、小さく手を振り駆け寄ってくる。
「どうしたの?」
私が訊くと、不思議そうに、
「……?今から帰るんでしょ?」
と言った。
あれ、そうだっけ……。しかし、私は二人とも荷物を持っていることに気付いた。そっか、帰るのか。そうだ、うん、何であんなこと訊いたんだろう。まぁ、いっか。
そうして私たちは、他愛もない話をしながら道を歩いた。少し前を歩いていた叶楽が、突然振り向いた。
車が入るために少し歩道が凹んでいるところで私は立ち止まる。おかげで、いつもよりも目線が高いところに叶楽が立っている。
「私ね、このくらいの身長差が好きなんだ。」
そう言って、叶楽が私の首に両手をまわす。肩に置かれた腕の重みがとてつもなく愛しい。
あぁどうしよう。気持ちが込み上げてきて、抑えられる気がしない。……抑えなくても良いかな。この際、言ってしまおうか。
横から差す夕日が眩しい。あんまり眩しくて、私は目を細める。
……今なら。もしかしたら。
気付いたら私は叶楽に顔を近づけていた。唇に、温かくて、柔らかい感触。それが、叶楽の唇だということに気付いたのは数秒経ってのことだった。
ゆっくりと、唇を離す。鼓動が一気に高鳴っていくのを感じる。
「……ごめん。…………でも、ずっと前から、出逢ったときから、叶楽のことが、好きだった。……受け止めて、……くれる……?」
と、紅くなった顔を隠すように下を向いて、そう言った。
「……うん。いいよ。」
思いがけずそう言われ、顔を上げる。するとまた、唇と唇が重なる。
ばくばくと鳴る心臓を抑え、口を開きかけた、その時。
──────
目が、覚めた。
ドッドッと元気に脈打つ心臓の音が、自分でも判るほどだ。
……吃驚した……。
「夢、か……。」
現実だったら良かったのに。まぁでも……こんなに簡単にはいかないか。
私は布団から起き上がり、服を着替えてリビングへと向かった。