昼休み、屋上でお弁当を。
お昼休み
休み時間毎にあの子のクラスに行って、他の人たちに不審がられるといけないので、お昼休みにしか遊びに行かないようにしている。それに、叶楽には叶楽の、クラスでの人間関係というものがある。そこはきちんとわきまえているつもりだ。そして今日も、お弁当を持って叶楽のクラスに向かう。
「叶楽!一緒に、ご飯食べよう?」
いつも、私が彼女を呼びに行く。私の呼び掛けに反応して、
「わかった、今行く~!」
と、お弁当袋をぶら下げて、小走りにやって来る。その仕草が、またかわいいのだ。
さて、今日は何のお話をしようか。
二人で、いつものように屋上への階段を登りながら、そんなことを考えた。
屋上に着いて、私たちは少し離れたところにあるベンチに座る。膝の上にお弁当を広げ、昨夜観たドラマの話しなどをしながら箸を進める。
正直、あまり面白くないのだが、叶楽が好きなのだ。好きな子の話しには、出来れば付いていきたい。だから、観ているのだ。そうでなければ、このドラマの題名すら知ることはなかっただろう。
私は、叶楽が気の済むまで話したらしいところで、話題を変える。
「そういえば、あと2週間ちょっとで定期試験が待ってるね。」
そう言うと、ピタッと、叶楽の箸を進める手が止まる。そしてふるふると肩が震え出す。
「……どうしたの?」
何となく理由は察せられるが、それでも一応聞いてみる。
「~~~~~っもう!!そういう話はしないでよぅ!」
……やっぱり。この子は、あまり頭が良い方ではないのだ。だから、試験というものも好きじゃない。そんなところも、かわいい。
「あははは、やっぱり?今回も危ないんだ?」
笑いながら、私は訊く。
「そうだよ、ヤバいよ!特に数学と英語と世界史A!」
と、焦ったように言う。
「と、物理基礎」
ヤバい教科リストにひとつ加えられる。
「と、古典」
また追加。
「と、それから~……。」
また追加される前に遮る。
「ちょっ……と待って、多いよ!」
「だって……。」
と、口を尖らせる。
「解んないんだもん……。」
そう言って、頬を膨らませる。そんな様子を見た私は
「も~、放課後教えてあげるから、解らないとこは遠慮無く訊いて?」
と、仕方がないなぁ、という風に言う。内心では下心いっぱいで。それを聞いて叶楽は、
「ありがと~!」
と、目に少し涙を浮かべて、言った。
私は、学校の試験でも模試でも、常に上位を維持している。何故なら、叶楽に教えるため。放課後に、誰もいない教室で、つまるところ二人きりで、最終下校時刻までいることが出来る。その為に私は、授業を真面目に受け、課題も必ずすぐに終わらせ、解らないところは先生に訊いている。
と、そこで叶楽がハッとして口を開く。
「あ、でも今日は、文芸部があるんだ!ごめん、今日は残れない……。」
それは知っている。叶楽のスケジュールは大体把握している。
「大丈夫、わかってるから。確か、明日は無かったよね?明日にしようか。」
と言うと、
「流石、わかってる~!ありがとう!」
と、向日葵が咲いたような笑顔を見せる。うん、かわいい。
「じゃ、私、図書室で勉強したいし、部活が終わるまで待ってるね。」
私はあくまで叶楽と一緒に帰りたいので、待っている、ということを伝える。
「うん、わかった!」
よし、承諾は貰えた。安心して、私はまたお弁当箱の中身を空にしていく。
すっかりご飯を食べ終えた私たちは、お弁当袋を持って階段を下りる。
「じゃあ、また後でね。」
そう言って、手を振りながら、背を向けて歩く。それぞれの教室に向かって。
あぁ、試験期間という最高のイベントが、あと少しで始まる。