日常と変化 8
俺は逃げる様に電車へと乗り込んだ。
電車はすぐに出発し、駅を出る。
なんなんだあいつ。
なんで俺を尾けてるんだ。
今日の体調不良が、ババアと関係が無いとは思えなくなってきた。
そんな中、電車はドンドン進む。
バイト先のある駅に着くと、俺はバイト先である居酒屋に急いだ。
自宅近くの駅よりもかなり人通りの多いその駅からは徒歩5分。
すぐにバイト先に着き、従業員口から店内に入ると、店長が急いで仕事をしていた。
「おう!コウタ!さっき団体さんの予約が入ったから、悪いけどすぐに着替えて手伝ってくれ!」
中年で短髪、筋肉質な気さくなおっさんの店長が張り切っている。
……体調が悪い日に忙しい事が確定か。
最悪だ。
俺は急いで着替えを済ませ、ホール業務についた。
人が多く出入りする駅そばの居酒屋とはいえ、店内で働く従業員は少ない。
人件費を削るためだろう。
今時の飲食店は、どこも同じように人件費を削っているからか、特には誰も文句は言わずにみんな走り回っている。
案の定お店は忙しく、全員が走り回る中ーー
ーーガシャーン!!
「失礼しました!」
俺がお皿を落とし、割ってしまった。
「おいコウタ。お前、今日何枚目だ?」
「すいません」
店長が俺に声をかけてきた。
「お前、体調悪いだろ?熱でもあるのか?」
そう言って、店長が俺のおでこを触る。
「おわ!お前高熱だろこれ!控え室に体温計あるから、熱計ってこい!」
「いえ、大丈夫なんで」
「いいから行ってこい!」
俺が割ったお皿の破片を、店長が片付けてくれている。
すごく心苦しいが、俺は控え室に向かう事になった。
3人程しか入れない狭い控え室に入り、薬箱中から体温計を取り出し、脇にさして1つしかない椅子に座る。
バタバタと動き回っている時は意外に平気に感じたが、ジッとしていると体がダルい。
しばらくすると、体温計が ”ピピピッ“ と鳴った。
その音を聞いたのか、店長が控え室に入ってきた。
「何度だ?」
俺は自分で体温計を見る事もなく店長に体温計を渡す。
「おいおいおい!お前もう帰れ。あとはやっておくから!な? おい!みんな!今日はコウタ帰らせるから!あいつすごい熱がある!」
俺に声をかけた後、店長は控え室を出て、大声でみんなに俺の事を伝えた。
俺の目の前に置かれた体温計に目を落とすと、39.4度。
事実を知ったら辛さが倍増した。