日常と変化 7
準備を終わらせ、家を出ると、外は見事に晴れていた。
昨日の不気味さが嘘の様に、穏やかな住宅街だ。
子供を連れたお母さん、主婦の井戸端会議。
のほほんとしたこの雰囲気が気に入って、入居した事を思い出す。
バイトは17時から。
まだ時間に余裕があるが、正確な時間を見るためにスマートフォンをポケットから取り出す。
14:18。
バイト先の居酒屋は、最寄駅から2駅。
「まだまだ余裕だな」
フと着信履歴と、メールが1通届いている事に気づいた。
それは、ユウからだった。
ちゃんと電車に乗って帰れたのか? という内容。
「心配しすぎだよ」
そういえば、昨日、タクシーに乗る前に着信があったなぁ。
そんな事を思い出すと、昨日の公園での出来事も鮮明に思い出し、ブルっと身震いがした。
その気持ちを忘れるためかの様に、俺は駅へと速足で向かった。
途中、コンビニに寄り、マスクとスポーツドリンクを買い、コンビニを出た所でマスクを着ける。
単なる風邪だった場合、周りの人達にうつすのは良くないからなぁ。
まず、咳をしてる人が同じ電車に乗ってたら嫌だろうし。
そんな事を思いながら歩いていると、俺が歩く大通りを大型トラックが通り抜ける。
俺を追い抜く様に、猛スピードで進むトラックからは、大量の排気ガスが。
ゲホッ!ゲホッ! っと反射的に咳が出て、それ以降は頻繁に咳が出る様になった。
交通量の多い大通りの歩道を歩いているから、こればっかりは仕方がない。
ーー最寄駅
昼過ぎという事もあり、人は疎らだ。
まだ時間があるので、駅前のカフェで寛ぐ事にした。
そこは全国に展開するチェーン店。
入口そばに注文カウンターがあり、注文後、支払いを済ませてから商品を受取り、空いている席に着く。
俺は1杯のカフェオレを手に、外が見えるカウンター席に座った。
室内にいても、陽射しの入るその席は、妙にポカポカしている。
しばらく外を眺めながら、カフェオレを啜る。
駅に入って行く人達は、スーツを着たサラリーマンやOLが多い。
駅の周りにはいくつかビルが立ち並んでいる。
きっとそこで働く人達だろう。
せかせか真面目に働く人達を見ていると、自分とくらべてしまう。
一体いつまでこんな生活を続けられるんだろう。
アルバイトをしているとはいえ、体調崩す様な生活をして、周りに心配ばかりかける。
何のために生きているのか?
自分の人生が大きく変わればいいのに。
なんの行動も起こさずにいるくせに、なにも変わるわけないか。
そんな不満にも似た事を考え、ただただボーっとしていたら、いつのまにかバイトの時間が迫ってきていた。
「やべっ!そろそろ行くかぁ」
俺は電車に乗るために店を出た。
店から改札までは、細い道路を渡るだけ。
信号を渡ろうとした時、視線を感じた気がした。
しかし、もう時間が無いので気にせず改札へと向かう。
改札を通った後も視線を感じる。
なんなんだ一体。
俺が乗り込まなきゃいけない電車がホームに入ってくるが、俺は振り返って後ろを見てみた。
振り返った俺は、その姿を見つけて固まった。
さっきまでいたカフェの前に、昨日の夜見たババアがこちらを見ながら立っている。