日常と変化 5
「ホラーかこの野郎!!」
俺は、干し柿の様な果実を地面に叩きつけた。
すぐにでもその場から離れたくなり、急いでタクシーを捕まえ、帰路についた。
道中、あのババアは一体何者だったのか、周りの人達がなぜ見かけていないのか。
そんな事ばかりが頭に浮かんでいた。
自宅マンションの前に着くと、支払いを済ませタクシーから降りた。
俺の住むマンションは、大通りからいくつか小道に入った場所にある。
夜は、ご近所さん達は寝静まっているのか、不思議な程静かな閑静な住宅街。
秋の涼やかな気温の中、ほんのりとどこからか聞こえる虫の鳴き声。
いつも帰って来ているはずのその場所が、なんだか不気味に感じた。
ブレーキランプを何度か赤く光らせ、遠ざかって行くタクシーを見送ると、静けさが強調され、その不気味さは倍増し、部屋の鍵を取り出すその手が震える。
少し急ぎながらマンション内に入り、自室の鍵を開け、力が入ってしまったのか、勢いよくドアを開いた。
全開になったドアの先は、真っ暗だ。
1人暮らしの部屋には、当然誰もおらず、電気も点いていない。
誰もいない……誰もいないはずなのに、何かの気配がする気がする。
俺は息を殺し、ただただジッと暗い部屋を見ていた。
未だ自室のドアよりも外にいる俺は、手を伸ばし、そーっと玄関の電気を点けた。
電気のスイッチを入れる際に鳴る“パチッ”という音に、俺は若干驚き、1歩後ずさりする。
目の前に見えるのは、いつもと変わらない自室の玄関。
玄関のすぐ左手にはキッチン、右手には洗濯機、風呂場の扉、トイレの扉、メインルームに入る扉の順に奥へと続いている。
玄関の真上にある電気を点けただけでは、メインルームい入る扉の前までしか明るくならない。
心細い明かりだが、俺は覚悟を決めて、自室へ入ることにした。
中に入り、玄関のドアをゆっくりと閉め、鍵をかける。
音が鳴らない様にゆっくりと靴を脱ぎ、そーっと進み、2つの扉に手をかけ、息を吐く。
意を決して、勢いよく風呂場とトイレの扉を開け、玄関のドアまで走り、思い切りドアを開けて一旦外に逃げようとした。
が、ドアが開かない。
「うわあぁぁぁぁ!!」
何度も何度もドアを開けようとしたが、ドアは開かない。
ハッと内鍵を見ると、内鍵は閉まっていた。
パニックになって自分で閉めたのを完全に忘れていた。
自分で自分が恥ずかしくなり“フッ”と笑いにも似た声を漏らす。
しかし、未だ自室の安全を全く確認していない事にすぐに気付き、すぐに自室奥方向に向き直った。