日常と変化 4
先程までいたはずの老婆は、どれだけ見渡してもいない。
「ついさっきまでいたんだよ!なんかこう……小汚いババアがいたんだよ!」
「コウタ、マジで何言ってんの?お前そんなに酒弱かったっけ?」
「違う!本当にいたんだよ!」
どれだけ訴えかけても信じてもらえない。
俺は、近くにいたカップルに聞いてみた。
「今、ここに怪しいババアいたよね?!」
俺が声をかけたカップルは、2人とも小首を傾げ、危ない奴に絡まれたと言わんばかりに、公園の出口へと小走りで向かう。
「すいません。」
小走りで移動するカップルに謝るユウを見て、なんだか自分が悪者になった様に感じ、少しイラッとした。
「お前、疲れてるのか?」
ユウが俺に尋ねる。
「いや、疲れてない!本当なんだって!」
俺が本気の目で訴えかけ続けているのを見て、ユウは軽く溜め息をついた。
「とりあえず座ろうぜ」
俺は渋々ベンチに戻り、ユウと共にベンチに腰かけた。
「そのババアが来る前は、何してたんだ?」
「周り見ながら考え事」
「フワフワした感覚とかあった?」
「そりゃ、酒入ってるからな」
「ちょっと寝ちゃって、夢見たんじゃない?」
「ちが……!!……もういいや」
なんだかムキになっていたが、あまりにも信じてもらえないので、自分でもわからなくなってきた。
「ごめん。寝ぼけてたのかな?」
「はははは。いいよいいよ。自分が思ってる以上に疲れてる時もあるし。もう今日は帰ろうぜ」
「え……でも、せっかく酒買って来てくれたのに」
「大丈夫。次飲む時のために取っておくから」
「ごめん……」
俺とユウは公園出口へと向かい、それぞれ帰路につくことにした。
「また近々飲もう。うちの社員になる話、考えておけよ」
「うん。わかった。……あ、ユウお金!」
「いいよいいよ。今回は俺が奢るから。次はお前が奢れよ?」
「わかった。なんか、今日はごめんな」
「謝るなよ。とりあえず今日はゆっくり寝ろよ」
「わかった」
公園前の大通りで別れの挨拶をして、俺とユウはそれぞれの自宅へと向かった。
1番近くの駅に着くと、すでに終電は終わっていた。
ユウと別れた後、とぼとぼと歩いていたため、数分前に最終電車を逃していたのだ。
どうしようか悩んでいると、スマートフォンが鳴った。
ポケットからスマートフォンを出そうとした時、フと気付く。
俺の手には、干し柿の様な物が未だにある。