日常と変化 3
ユウが買い出しに行ってくれるのを見送った後、俺は大きく溜め息をついた。
なんか……何しても周りに迷惑かけてるなぁ……俺。
ユウはいつでも明るくて、周りにも気を使えて、人に囲まれて……俺とは大違いだ。
「正社員か……あいつの言う通りにしてたら、全部上手くいくのかな……」
そんなネガティブな考えがずっと頭に過ぎる。
周りを見渡せば、恋人同士や、仲良しグループ、犬の散歩をしている人。
自分以外が輝いて見える。
なんだかそれぞれが楽しそうだ。
「ちくしょう……!」
つい不満の気持ちが口から出てしまう。
なんだかモヤモヤした気持ちを落ち着かせるために、深く呼吸をした。
少しずつ、ほんの少しずつ気持ちが落ち着いて来た頃、ベンチに座った俺の後ろから、何かを持った手がヌッと出てきた。
俺の顔の横から出たその手を見ると、干し柿の様な、しかし干し柿よりも艶のある物を持っている。
俺はそれを受け取ると一口食べてみた。
「何これ?コンビニにこんなの売ってたの?……まっず!!何これ?!」
すでに飲み込んでしまったソレは、苦味の中に酸味の混じる、とても美味しいとは言えない味だった。
「ユウ!これ多分腐ってるよ!なんかヌルっとするし!」
そう言って立ち上がり、後ろを向くとーー
そこには、知らない老婆がいた。
絶対にユウだと思っていた俺は、知らない老婆の姿を見て絶句した。
髪は白髪、腰は曲がり、杖をついた老婆が俺を見つめてニヤついている。
どれだけ考えてもこんなババア知らないねぇぞ……!
誰だ、誰だこいつ!って言うか、知らないババアが渡してきた、わけわかんねぇ物食っちまった!
湧き上がる恐怖を堪えーー
「どちら様ですか?」
少し震えた声で聞くが、老婆は何も答えない。
怖い。
とにかく怖い。
背筋が凍りつき、声も出なくなった俺は立ち尽くし、何も出来ない。
恐怖の中にいる俺には、この時間が永遠にも感じた。
「コウター!次は酎ハイにしたけど、よかったー?」
ユウの声が聞こえる。
フッと正気に戻り、俺は逃げる様にユウのもとに走る。
「ユウ!ここやべぇ!やべぇババアがいる!」
「やべぇババア?なにそれ?」
「あそこ!あいつやべぇ!」
先程老婆がいた場所を指で示し、そちらを見るとーー
そこに老婆の姿はなかった。