冒険と決意 3
全速力でロップ村に向かうと、村の前には先ほどのダチョウ車が停まっていた。
もしかしたら、まだあの中にいるかもしれない。
見つけ出して説教だ。
ダチョウ車のそばに行くと、ダチョウが俺を睨みつけてくる。
なんだこいつ。
俺は気にせず屋形に近付き、中を覗こうとする。
が、ダチョウに突かれてなかなか近づけない。
番犬のような役割りまで担ってるのか。
賢い奴め。
でも、今は通してもらおう。
「ちょっと通してくれる?」
スライムに言葉が通じたんだ。
この世界ではどんな奴にも言葉が通じるに違いない。
ダチョウは俺をジッと見た後、前に向き直った。
ほら、言葉通じた。
ダチョウが許可してくれたので、俺は迷わず中を覗く。
ーーはずなのに、ダチョウに突かれて進めない。
なんでだ。
意味がわからない。
「さっきお願いしたよね? 通してよ! 君の後ろに付いてる立派な入れ物に入りたいの!」
ダチョウは鼻から息を大きく吐き、睨みつけてくる。
「なんでだよ! さっき会ったよね?! 怪しくないって!」
すると突然、ダチョウは穏やかな表情で前に向き直った。
どんな相手でも、話せば分かり合えるんだ。
「良い子良い子」
やっと中を覗ける。
俺は屋形の扉に手を伸ばす。
そして、ダチョウに突かれる。
「なんでだーーー!!」
ダチョウは俺を見て、プイっとソッポを向いた。
なんなんだこいつは!!
なにがしたいんだ!
「そのままだ。 そのまま向こう向いてろ!」
俺は再び扉に手をかけるとーー
突こうとしてきたダチョウを躱した!!
「バーカ! 何度も同じ手は食わないんだよ!」
俺の挑発に腹を立てたのか、ダチョウが飛びかかってくる。
とんでもない脚力のキックに怯みながらも、俺は首に掴みかかった。
ダチョウはバタバタと暴れ、俺は振り落とされないように必死にしがみつく。
負けてたまるか! 人間様をなめるなよ!
「なんだこのやろう! お前が悪いんだろ!」
俺は振り落とされるが、すぐに起き上がり、ダチョウに向かって行く。
しかし、何度もお得意の突っつきを食らい、今度は近付けない。
俺は肩で息をしながらもジリジリと距離を詰めて行く。
お互いの間合いに入らない距離での睨み合い。
絶対に負けられない戦いがここにはある!
「あ! お帰りー! もう帰って来たの? と言うより、何やってるの?」
村の中からリャムが声をかけてきた。
そうだ。
ダチョウに構ってる暇なんてないんだ。
ついついムキになってしまった。
「リャム! バチェロとディオネ知らない?!」
「さっき村の奥に誰かを連れて行ってたよ?」
「ありがとう!」
俺はダチョウにひと睨みかまして、村の奥へと急いだ。
ダチョウから離れる際に、ダチョウに唾を吐かれた気がするが、俺は気にしない。
3人で奥へ行ったって事は、きっとバチェロの家だ。
俺は確信を持ってバチェロの家に走った。
一心不乱に。
全速力で。
文句を言ってやるために!!
バチェロの家の前に着くと、家の中から話し声がする。
やっぱりだ。
やっぱり俺を置いて帰宅してやがる。
身体がワナワナと震えた。
この1週間の怒りの蓄積もあり、身体が震える程苛立った。
俺は怒りに任せるように勢いよく入口の扉を開ける。
「お前ら頭腐ってんのかこの野郎!!」
しかし、3人はとても楽しそうにしている。
「なんじゃお主。 慌てて何をしとるぞい」
「ディオと座ろ」
「お邪魔してます」
穏やかに御歓談中だった。
その姿があまりに穏やかな雰囲気だったため、俺は思わずーー
「あ、すいません」
「ディオのお茶飲む?」
「いや、いいよ。 自分で淹れるから」
ーー参加した。
なんか悪い気がして。
空気的に。
キッチンに向かい、コンロの様な場所にある魔晶石を叩くと、その上にヤカンを置く。
しばらくすると湯が沸いた。
魔晶石は、物によって効果が違うらしい。
急須のような物に乾燥した茶葉を入れ、お湯を入れたらしばらく蒸らす。
俺は急須のような物と、カップを持って、ローテーブルの前に座った。
「はじめまして……ですよね? 私はローズ。 王都で野菜や果物を売ってるの」
「はじめまして。 俺は山本コウタっていいます。最近この村に来たばかりです」
「知ってますよ? 男の子がいるなんて珍しいから、さっきバチェロさんに聞きました」
ショートカットでスレンダーな体型のローズさん。
クスクスと笑うその姿はとても素敵で、ほんわかしている。
思わず俺も一緒に笑った。
それにしてもこの世界には美人が多い。
視界に入る人達みんなが美人だ。
男がなかなか産まれないから、美人以外は遺伝子を残して来れなかったんだろうか?
素敵な世界だ。
「お兄ちゃん、お茶」
いつのまにか俺の膝の上にいたディオネに促され、俺はお茶をカップに注ぎ、1口啜る。
みんなでティータイムだ!!
「って、ちがーーーーう!!」
俺は、伝家の宝刀『ちゃぶ台返し』を炸裂させた。
「王都に行くんだよ! 何やってんの! ローズさんも! 買い付けの仕事は?!」
「忘れてました」
どいつもこいつも! なにやってんだ!
俺は嫌がる3人を家から引きずり出し、ローズさんが仕入れた荷物をダチョウ車に積み込んだ。
そういえば、みんなで積込みをしている時は普通に屋形に入れた。
不思議に思い、ダチョウを見ると、御者の席に座るローズさんに撫でられ、デレデレしている。
ただの甘えん坊かな。
しばらくデレついているダチョウを見ていたら、突然、ダチョウが俺の方をチラっと見て “フッ” と笑った。
こいつ……!
羨ましくなんてないんだからね!
美人によしよしされるの、羨ましくなんてないんだからね!
なんだか悔しい思いのまま、俺たちは王都へと旅立った。