冒険と決意 2
あのスライムの戦闘からもう1週間になるが、俺はまだ王都に行けてない。
毎日毎日あの時と同じような日々が続いている。
ある時は大ねずみと徒競走を始め、完全に2人を見失い、見つけ出すのに時間を割かれ。
ある時は、大ナメクジとどちらがゆっくり進めるか勝負をはじめて時間を割かれ。
ある時は王都に行きたくないと駄々をこねて、川遊びをする事になり時間を割かれ。
……もうずっとロップ村にいる。
その中で気付いた事がある。
こいつら仕事してない。
村の人達がせっせと働いてる中、こいつらはとにかく遊び回って顔をテカテカにして帰ってくる。
クソ野郎かもしれない。
今日もダメだったらリャムに頼もう。
こいつらはダメだ。
そして今、俺は眠りこける2人を目の前に立っている。
まもなく昼になる。
もう行く気がないんだろうか。
俺はバチェロの顔に水をかけた。
「ぶぉ! なんじゃい! 洪水か!? 横の川が氾濫か?!」
「洪水じゃねーよ。早く行くぞ!」
俺にはもうこいつらを尊敬する気持ちは無くなっていた。
「ほら! ディオネも! 起きろよ!」
「にゃー? どこで遊ぶの?」
オデコをコツンと叩いて起こすと『遊ぶ』と口にした。
やっぱり遊んでたんだ。
まっすぐ王都に連れってってほしい。
「王都に行くから! 2人とも起きろって!」
「「いってらっしゃい」」
「いってらっしゃいじゃねーよ! お前らが連れてってくれるんだろ?!」
「あぁ……そうじゃったそうじゃった」
「王都ににゃにしに行くの?」
こいつら……また忘れてやがる。
どうしよう。
殴りたい。
だけど俺は連れてってもらう立場だ。
お願いしてる立場なんだ。
王都に行って、職業調べて、戻ってきたら殴ろう。
バチェロだけ。
俺は嫌がる2人を無理矢理布団から引っぺがし、再度冒険に出た。
欠伸をしながら歩く2人にイライラしながらも、遠くに見える王都を目指す。
ーーしばらく歩いていると、王都の方に土煙が上がっているのが見えた。
それはすごい勢いでこちらに向かってくる。
俺はこちらに向かってくる土煙よりも、2人がアレに興味を示して何処かへ行ってしまう事を警戒した。
ドンドン近づいてくる土煙。
もう肉眼で土煙を立てるそれの正体を確認出来る位置まで近付いている。
それははじめ、馬車にも見えたが、後ろに付く屋形(荷台部分)を引いているのは、ダチョウだ。
俺たちがそれを見ていると、御者の人がこちらに手を振っていくる。
どうやらバチェロの知り合いのようだ。
すると、ダチョウ車が、俺たちの隣で急停車する。
「おぉ! 久しぶりじゃぞい!」
「バチェロさん! お久しぶりです!」
しばらく2人は話をしている。
会話からわかったのは、御者の方は、ロップ村にフルーツの買い付けに来た、王都にあるお店の人という事。
「皆さんはどちらに行かれるんですか?」
「わしらはこやつを王都に連れて行くところじゃぞい」
「だったら、仕入れが終わったらすぐに王都に戻るので、一緒に乗って行きますか?」
「それは助かる! では頼むぞい」
「わかりました! 荷物積み込むだけですぐ終わるので、この辺りにいてください」
「わかったぞい!」
ラッキーだ。
やっと俺は王都に行ける!
しかも楽をして!
ラッキーだ。
俺は遠くに見える王都を見ながら、涙ぐんでしまった。
おかしな2人がなかなか連れて行ってくれないから、目視出来るのにあまりに遠く見える王都。
なんだか先ほどよりも近くに見えるように感じた。
俺は御者の方にお礼を言うため、ダチョウ車に向き直ったが、すでに出発しており、村に向かって土煙だけが上がっていた。
きっと急いでいるんだろう。
お礼はあとで言えば良い。
「ラッキーだね! これで楽に……」
2人に話しかけようとしたが、その姿は何処にも見当たらない。
「まさか……!!」
俺は気付いていた。
あの2人は俺を置き去りにする事なんて、なんとも思っていない事を。
俺は気付いていた。
興味が向いた方へと2人が行ってしまう事を。
俺はもう気にしない。
この1週間でそんなのには慣れた。
……そう、 慣れたんだ。
「この野郎ーー!!!」
俺はロップ村へ走って戻る事にした。