冒険と決意 1
完全に置いていかれた俺だが、なんとか2人に追いつき、今は一緒に歩いている。
外は俺が巨大なねずみに襲われた場所。
俺は警戒しながらバチェロの後ろを歩いた。
「王都はね、あそこにゃの」
相変わらず俺に乗っているディオネが指差した方向には、1度外で過ごした際に見えていた、大きな建物がある。
距離はかなりあるが、その大きさだけはわかる。
ロップ村とは比較にならない程大きい街なんだろう。
「王都まではどのくらいで着くの?」
「疲れるまで歩いたくらい」
バチェロに聞いた方が良さそうだ。
「バチェロ!王都にはどれくらいで着くの?」
「そうじゃのう。3時間くらい歩けば着くぞい!」
「け、結構歩くね」
「その間にモンスターにも出くわすじゃろうから、もう少しかかるかもしれんな」
そうだ。
モンスターとの戦闘があるんだ。
異世界に飛ばされたって事は、きっと俺の立ち位置は勇者。
きっと主人公だ。
全然そんな感じはないが、きっと俺は強い。
そうあってほしい。
単なる願望だ。
目の前にゴリマッチョがいるからか、その願望が叶う気はしない。
明らかにこの爺さんの方が強い。
仕方ない事もあるさ。
そんな事を考えながらバチェロの後ろついて歩いていると、遠くの方にぼんやり滲んだ場所があるのが目に入った。
それはバランスボールくらいの大きさで、所々草や土がくっ付いている。
何かがある。
「バチェロ! あれって何?」
「どれじゃ?」
「あれだよ! あれ!」
俺が指を差して示すが、バチェロには見えない様だ。
「ディオネは見える?」
「うねうねしてる」
「そう! それ!」
「わしは歳じゃからのう、もう少し近付いてみるぞい」
そう言うと、バチェロは進路を変えて、うねうねしているそれに向かって行った。
俺もその後ろをついて行くが、怖いので少し距離を置いてついて行く。
バチェロは恐れる事もなく、ドンドンと進んで行き、ジッとそれを見てーー
「スライムじゃぞい!!」
嬉しそうに叫び、ディオネと2人でスライムの元へ走って行った。
あれが、かの有名なスライム様だそうだ。
2人は声を出して笑いながらスライムに襲いかかった。
バチェロは背中に装備していた長い棒を振り回し、まるでアクションスターかのように立ち回っている。
無駄に棒をグルグル回しているようにも見えるが、きっとなにか意味があるんだろう。
ディオネは素手でスライムをペチペチ叩いたり、周りをグルグル回ったりしている。
その姿は、まるで猫がねずみを追い回す時のようだ。
というより、ディオネはヒーラーじゃないのか。
どちらかと言えば、後方支援とかじゃないのか。
ものすごく元気にペチペチしている。
何かきっと意味があるんだろう。
俺は、とりあえず様子を見ているが、2人がスライムをリンチしている様にしか見えない。
そして、スライムはとくに何かしているようには見えない。
……なんだかスライムが可哀相に見えてきた。
2人に攻撃される度に ”ピチャピチャ“ と水面を叩く様な音だけがする。
そして、スライムはダメージを受けているようにも見えない。
スライムをよく見ると、薄っすらと目のようなものがある事がわかった。
その目の動きをよく見ると、困ったように2人をチラチラ見ているようだ。
その目を無視するように爆笑しながら攻撃する2人は、もうどちらがモンスターなのかわからないほど楽しんで攻撃している。
スライムが可哀想だ。
俺は2人に近づきーー
「ちょ、ちょっと! スライムさんが困ってるから!」
「そんなもん知らん! いっぱい叩くぞい!」
「叩くぞーー」
止めたが、なかなか止めてくれない。
俺は無理矢理2人とスライムの間に入り、スライムを背に2人をなんとか宥めた。
「ストップ! ストーーップ!」
「なんじゃ。どうしたんじゃ」
「なんか見てて、リンチにしか見えないから! スライムさんジッとしてるのに、2人はすっごい動き回って攻撃し続けてて、もうほんとリンチにしか見えないから!」
「戦闘なんじゃ。 強い者が勝つ! それだけじゃぞい!」
おぉ……ごもっともだ。
だけど折れちゃダメだ。
なんせ、スライムにダメージを与えてるようには見えない。
先ほどから2人は、もう何十回も殴っている。
なのにスライムはブヨブヨと形を変え、すぐに元に戻っているんだ。
意味があるように見えない。
「ねぇ、スライムさん! あなた、攻撃されてダメージ受けてます?!」
本人に聞く事にした。
スライムは俺を見ると、フルフルと横に身体を振った。
言葉わかんのかこいつ。
「なんで? 打撃系は効かないとか?」
今度は身体を縦に動かすスライム。
やっぱり言葉わかんだなこいつ。
俺は2人に向き直り、訴えかけた。
「打撃効かないらしいよ! これ以上やっても意味ないよ!」
「知っとるぞい」
「当たり前のこと言っちゃダメだにゃ」
こいつら知っててやってやがったのか。
尚タチが悪い。
「じゃあ、なんのためにやってるの?!」
「楽しいからじゃぞい」
「ブヨブヨして気持ちいいの」
ほんとタチが悪い。
「早くそこをどくぞい」
俺はスライムを守るために2人に立ちはだかる。
なんなのこれ。
モンスターって守るものだっけ。
鼻息荒く、無駄なリンチを続けようとする2人を目の前に固まっていると、スライムが俺のズボンの裾を ”クイクイ“ と引っ張ってきた。
そちらを見ると、スライムが俺を見てから、ヌルっと俺の前に出た。
「え? いいんですか?!」
スライムは2人に向いたまま、身体を縦に振った。
本人が良いと言ってるので、スライムさんのご厚意に甘えて、俺は再び下がる事にした。
すいませんスライムさん。
ーーそれからというもの、2人はずっとスライムを殴っている。
爆笑しながら。
なにがそんなに楽しいのかわからないが、それはもう楽しそうに殴っている。
太陽が真上に来ても、徐々に日が傾いても。
辺りが赤く染まり始めた頃、喉がピーピー鳴るほど肩で呼吸をしながら2人が俺の元に戻って来た。
それはそれは御満悦で、顔がテカテカしていた。
「もういいですか?」
「大満足だじゃぞい!」
「ディオネもう眠い」
満足だそうだ。
屈んで頬杖を着いていた俺は、ズボンを軽くはたき、スライムさんにお礼を言った。
スライムさんはペコッとお辞儀のような動きをすると、何処かへ去って行く。
「さぁて! 帰るぞい!」
「帰るー!」
帰るそうだ。
ディオネがいつもの如く俺に乗ると、バチェロはロップ村に向かって鼻歌混じりで歩き出した。
王都に行きたい……。




