目覚めと困惑 5
「なんじゃ。お主、魔法珠を知らんのか」
「はぁ……」
「魔法珠はなぁ、あっという間にスキルを身に付ける為のものじゃぞい」
「ス、スキル……ですか?」
「そうじゃ。スキルじゃぞい。能力ってやつじゃな。お主が授かったのは言語のスキルじゃぞい」
あの不思議な玉は、魔法珠と言うらしい。
自分の持っていない能力を覚えるための物だそうだ。
……そんなの聞いたことない。
ここは地球じゃないのか?
地球上にそんな物があれば、有名になっているはずだ。
21年間生きてきて、そんなの……
生きてきて……俺は……自分の家で死んだのか?
「聞いとるんか」
「あ、あの!ここは死後の世界とかですか?!」
「んん?あーはっはっはっは!何を言っとるんじゃぞい!」
違うようだ。
「ここはロップ村じゃぞい」
「ロップ村……どこの国ですか?」
「ホーランド王国じゃぞい」
……知らない。
聞いたこともない。
地球ではないのはわかる。
俺は……地球ではない、異世界に飛ばされたようだ。
「あの、お名前は?」
「わしの名前か? わしの名前はバチェロじゃぞい。お主は?」
「俺の名前は山本コウタです。多分……違う所……皆さんが知らない所から来ました」
「わしらが知らん所はたくさんあるでなぁ。ま、言葉が通じんほど遠い所から来たのはわかるぞい!」
そう言うと、バチェロだけでなく、今まで俺たちの話を聞いていた周りの人達も声を上げて笑った。
俺を食うためじゃなく、コミュニケーションを取るために、ここへ連れて来てくれたバチェロ。
悪い人じゃなさそうだ。
なんだか悪いことをしたな。
見た目が怖いから、何かされると思っていた。
どこかのタイミングで謝ろう。
俺は人を見た目で判断したクソ野郎だ。
「ついてこい。わしがこの村を案内してやるぞい」
「い、今からですか?」
「んー。そうじゃな。もう夜じゃし、案内は明日にするか。コウタ!今日はわしの家に来ると良いぞい」
バチェロが俺を案内しようとしてくれるが、村人に止められている。
今は夜。
たしかに薄暗い中を案内されても理解出来ないかもしれない。
俺はこの場所がどこなのか見て回りたいが、聞きたい事もたくさんある。
今日は大人しくバチェロの家にお世話になる事にした。
村の人達に助けてくれたお礼を言うと「また明日ね」とそれぞれが自宅に戻って行く。
バチェロにもお礼を言ったが、恥ずかしい事は止めろ、と照れていた。