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日常と変化 10

カフェの店員さんがいた。


大学生くらいだろうか。

髪を後ろでまとめ、制服姿で、手には何かが入ったコンビニ袋を持っていた。


「ひゃい!」


あまりにも驚いて変な声を出してしまった。


そんな俺を見て、その店員さんはクスクスと笑い、コンビニ袋を俺に差し出してくる。

「へ?」

「これ、夕方忘れて行きましたよ」


それは、行きに買ったスポーツドリンクだった。

そういえば、いつのまにかなくなってた。

「あ、ありがとうございます」

俺がスポーツドリンクを受け取ると、店員さんは笑顔でお店へと戻って行った。


「ビビった……ババアかと思った……ババアかと思ったら、天使だった……」

そんな事を口走りながら俺は自宅に向かった。


マンションの自室に入ると、昨日とは違い、窓は閉まっていた。

やっぱりただ単に、閉め忘れて出かけていた様だ。


俺は財布とスマートフォンをテーブルに置くと、天使が届けてくれたスポーツドリンクを一口飲んだ。

体調が悪いからか、身体に染み渡るのがわかった。

「うまっ」

身体が欲しているのか、一口、また一口と進み、気付けばスポーツドリンクは半分以上無くなっていた。

残りを冷蔵庫に入れるでもなく、ベッドの脇に置き、俺はジャージに着替え、すぐにベッドに横になった。


気が抜けたからだろうか。

ベッドに横になったら、ドンドン体調が悪くなった気がした。

「もう……寝よう……」

ボソっと独り言を言うと、俺は、すぐに眠りについた。


ーー翌日

目を覚ますと、夕陽が少しだけ窓から差し込んでいるのがわかった。

「何時間寝てんだよ」

自分で自分にツッこんでいると、たったそれだけで体力を使い切った。


頭がボーっとし、明らかに体温が高い。

咳をしてはいるが、咳をする体力がないのか、(かす)れた焼けた様な息だけが出る。

そして、いつのまにか、また眠っていた。


何時間眠ったんだろう。

突然苦しくなり、目が覚めた。

太陽の光はすでに無く、いつもの不気味なほど静かな夜が来ていた。


「……苦しい……苦しい……。」

俺は自室のベッドの上で、か細い声を出していた。

心拍数が明らかに高く、肺が握り潰されているような感覚に襲われている。

「ハァ……ハァ……ハァ……クソッ……」

どれだけ懸命に呼吸をしようとしても、極細(ごくぼそ)のストローを(くわ)えて呼吸をしている様な感覚。

このままでは、死んでしまう。

意識が薄れる中、2日前の出来事が頭に()ぎるーー


あの時からだ。

それまではどこも悪くなかった。

きっと何かされたんだ。

朦朧としながらも、ベッド脇にあるスポーツドリンクに手を伸ばす。

蓋がなかなか開けられずにいると、部屋のカーテンがフワッと揺れた。


窓は閉まっているはず。

なのに風が吹いたかの様にカーテンは揺れている。

その揺れはドンドン大きくなり、その勢いでカーテンが開いた。

するとそこにはーー


ババアがいた。

不気味に月明りに照らされた、あの時公園で出会ったババアが。


マンションの3Fにもかかわらず、ババアはこちらに向かって右手を伸ばし、手のひらを俺に向けていた。

その姿を見た俺は、視界がゆっくり暗くなり気を失った。


時間がどれだけ経ったのかなんてわからない。

あの後どうなったのかもわからない。

俺は死んだのか? なんだか暖かい。

体調は……悪くない……なんでだ?

俺は、ババアを見て……


「ババア!!」


目を見開くと、目の前には木の壁があった。

後ろにも木の壁。

俺は、木の壁にもたれる様に座っていた。

夜だったはずが、太陽が真上にあり、秋だったはずが暖かい。


自分がいた場所とは違うことだけはわかった。

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