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冬のどこかで
冬。
厳しい寒さの季節。
陽の光は届くものの、無意味とばかりに冷たい北風が全てを冷やす。
母親に手を引かれる少女は、真上で最後の一葉を風にもぎ取られた大きな木を、じっと見つめていた。
「さむいよ……」
少女はつぶやく。
幼い彼女にとって、ただつらいだけの季節。このあたりでは雪も降らないから楽しくもない。
冬なんて、なければいいのに。
五歳児の心で、少女はわりと本気でそう思った。
「ねえ、ママ」
だから、聞いてみた。
「冬なんて、ない方がいいよね」
それを聞いた母親は、しゃがみこんで視線を娘に合わせる。
「そんなこと、ないよ」
「どうして?」
「柊ももう五才だから理解できるかな。ちょっと難しい話だけど、よくきいてね」
「おはなし?」
「そう、お話」
そうして母親は語りだす。
かつて聞いた、あの話を。