六本の魔剣 ~交差する想い~
罵声、嘲笑、怒気。人々が俺を責め立てる声が聞えてくる。
どうしてお前だけ逃げてきたのか、と。
なぜ勇敢に立ち向かわなかったのか、と。
なぜお前だけ生き残ったのか、と。
自分の内側からも声が聞える。
なぜ友を見捨て一人だけ逃げたのか、と。
なぜもっと上手く立ち回れなかったのか、と。
なぜ自分だけ生き残ってしまったのか、と。
自分の内と外から聞えてくる声に
「っつ!!」
ベットで寝ていた俺は目が覚めた。
「夢、か」
窓をみるとまだ深夜だった。俺は鍛冶場で仮眠を取っていた。昼間に「それを」目撃し時が近いことを察して鍛冶場に篭り魔剣の修復を行っていた。これまでの戦闘で欠けた刃を研ぎひび割れた柄を治す。魔剣と言えど折れる事もある。だから魔剣鍛冶は常に魔剣の手入れを怠らない。
俺は道具を持ち作業に没頭した。
※
憎い敵を倒し復讐を果たした後で幸か不幸か私には愛するべき人が近くにいた。自分と同じ感情を持った男性、ミツル。
何もかも失い奴隷に落ちていた私にとって普通の人間らしく平穏に生きる人らしさだと思った。彼といる日々は大変だったがとても満ちていた。
しかし自分の復讐が果たされ穏やかな日々が続く中で、そんな彼に惹かれていた理由を思い出すことになる。復讐に駆られた私が彼に惹かれたのは同じ復讐者としての感情を共有していたがゆえのことだったからだ。
商業都市ルインでの一件を終えた私たちはギラさんと別れてミツルの家に帰った。
ミツルは私がまた魔剣を使ったことを心配していた。前回ギロウとの戦いで魔剣を使った後に私は倒れてしまった。医者の話では精神的なストレスから風邪の症状が出た、と言う診断だった。復讐を果たす為に心身ともに疲弊したのだと結論付けた。そしてミツルはこう推測を追加した。
「魔剣は使用者から魔力を吸い取る。ミネが魔剣を使った時間はわずかだがこれまで経験したことのない魔力消費だったはずだ」
「うん」
「それゆえに体が慣れない魔力消費で体調を崩したということも考えられる」
それは遠まわしにもう魔剣を貸したりはしないと言っているようにも聞えた。それから回復した私は何事もなく以前と同じ生活が続いた。
その後もミツルは私に体の異常がないか聞いてきた。魔剣の後遺症を恐れているようだったが、私は以前のように倒れることはなくまた魔剣を使用している間にも以前とは違う「自然な」感覚だったのを覚えている。
最初に使用したときは強い脱力感を覚えたが二回目はそんなことはなかった。どういう理由かは分からないが私が魔剣を扱うことに慣れてきたのだ。
それをミツルに伝えると
「魔剣を扱うことに慣れたと言うのは怒王焦滅剣に限っての話だと考えたほうがいい。もし他の魔剣を使えば何か異常が起こる可能性がある」
そう忠告された。その表情は怒っているような困っているような、複雑な表情だった。
だからだろうか、ミツルが帰って早々に鍛冶場に篭ると言い出したのは。
「帰ったばかりなのに鍛冶場に篭るの?少し休んでからでも良いんじゃない」
「いや早くこの二角穢獣の角を使って魔剣を強化しなければならない」
「魔剣を強化?」
「二角穢獣の角を魔剣に合成することでいくつかの効果を得られる。その一つに魔剣の魔力を安定させる効果ある。使用者の魔力を吸い取り過ぎないようにしなければいけないからな」
そう言ってミツルが怒王焦滅剣に二角穢獣の角を使おうとしているのを察した。
つまり私の事を思っての事だったのだ。そう言われたら私は鍛冶場に篭ることをやめろとは言えなかった。数日ミツルと話が出来なかったが我慢する事にした。
数日後ミツルは鍛冶場から出来た。久しぶりにミツルと話せると思って嬉しかったがまずお風呂に入ってもらった。
お風呂から出たミツルに食事を作り一緒に食べて他愛のない話をした。それから一緒に薪を割って生活しているととても幸せな気分になった。だから私は気付かなかったのだろう、ミツルが空を飛ぶモンスターを見て目の色を変えていたことに気付かなかったのは。
その晩に私が寝てから異変は起こった。
「ミツル?こんな夜遅くに鍛冶場に篭ってどうしたの?」
夜中に目が覚めトイレに行った帰りに鍛冶場の明かりが灯っていることに気付いた私は、鍛冶場のドアを叩く。しかし返答はなく鍵もかかっていたのでその時はそのまま鍛冶場を後にした。ミツルが鍛冶場に篭って出て来ない事はたまにある事だったからだ。
夜が明けて私は朝食を作り鍛冶場に向かう。
「ミツル、朝食を作ったから食べましょう。鍛冶場から出てきて」
話しかけるが前回と同様に返答は無かった。昼食が過ぎ、夜食の時間が過ぎてもミツルは出てこなかった。鍛冶場に篭っていても食事の時は出てきていたので昨日今日と何も口にしていないミツルの事が心配になった。しかし鍛冶の作業はミツルの大事な仕事だ。街の人たちの農具や家庭用品を作っているのだとしたら邪魔は出来ない。私はそう思いその日もミツルを鍛冶場に篭らせておくことにした。
その代わり明日出てこなければ扉を殴ってでもミツルを連れ出す。その決意の胸に私はその日は眠った。
翌日声をかけても返事のないので扉に鉄拳をぶち込んだ。
鉄拳は見えない壁に阻まれ扉には傷一つ付かなかった。
これまで鍛冶場の扉を殴ったことの無い私は鍛冶場の扉が魔法による防御を施されていることを始めて知った。
自分の鉄拳がまったく効果がなかったことに腹が立った私はそれから何度も鉄拳で扉を殴り続けたが皮が剥けても拳から血が出ても扉には傷一つ付かなかった。その頃には私は自分の拳が通用しないことよりもミツルと会えないことが悲しくて泣いていた。
「ミツル、どうして急に鍛冶場に篭たの?私のことが嫌いになったの?ミツル、会いたい。ミツルに会いたいよ・・・ミツル」
私は涙を流す自分がいたことにそれほど驚かなかった。ミツルへの思いは自分で気付いていたけどそれが予想以上に大きくなっていたことを改めて実感した。
暴走しかけた時にミツルに止めてもらった時、魔剣を貸してもらった時、私が風邪で倒れた時、自分はミツルとの積み上げた時間が深いものなのだと実感した。復讐を果たす前は復讐のことで頭がいっぱいでそれ以外の事は考えられなかったけど、今ははっきりと自覚できる。私はミツルの事が好きなのだと。だからこそミツルに会えないことが一番辛く寂びしいと感じているのだ。
そんな事を思っている間にも時は過ぎていった。
時刻は昼過ぎ頃か、私が地面に座り込み泣いているとその声が聞えてきた。
「鳥?」
空を見上げると私は大きな鳥が飛んでいるのかと思ったが、それは違った。怪鳥よりも大きな声で空気を震わせ突風を起こす「それ」が空を飛んでいた。一見すればそれは竜と呼ばれる怪物だ。しかし翼はコウモリの形に似ておりその尾は蛇のようにうねっていることが飛んでいる状態でも把握できた。竜は近くにある高い木の天辺に降り立つ。四本の足で体を支えるの姿は四足獣の証だ。
「コウモリの羽の四足獣。あれは、四足翼竜」
なぜ四足翼竜がこんなところにいるのか疑問符を浮かべていると鍛冶場の扉が急に開いた。
振り返ると凄まじい形相のミツルが一振りの剣を掲げて四足翼竜を睨みつけていた。
「お前かあああ!!!」
その声と共に四足翼竜に向かって駆け出し剣を振るう。
「飛王閃裂剣!!」
ミツルの掛け声とともに魔剣から風の刃が弧を描いて斬撃となって四足翼竜に襲い掛かる。四足翼竜は攻撃されたことに気付いて木の天辺から飛び立ったがそれよりも早く魔剣の斬撃がその片足を切断する。
「片足を切れた。ということは「やつ」ではない。斥候か。だがどちらにせよ殺す!!」
四足翼竜はこちらに気付き猛スピードで急襲してくる。
「飛王閃裂剣・四翼連牙斬!!」
一振りで四本の斬撃を生じさせ連撃を繰り出すミツル。その技を何度も放つことで無数の刃が四足翼竜を襲う。四足翼竜は器用に空中で旋回して無数の刃を回避する。しかし回避しきるには数が多くいくつかがその翼を傷つけていた。だがすでに両者の間は3mほどしかなく。体長2mになる四足翼竜の間合い内だ。
そこでミツルは
「飛王閃裂剣・一矢絶命斬!!!」
四足翼竜に向かって持っていた魔剣を投擲する。真っ直ぐに向かって投擲された魔剣を四足翼竜は難なく回避した次の瞬間。
「イイイィィ!!!」
悲鳴を上げ四足翼竜は粉々に斬られ大量の血が地面に撒き散らされた。投擲された魔剣から無数の風刃が放たれていたことに私は気付いた。恐らくは高度の風魔法を放っていたのだ。
「こいつレベルでもこの程度の威力か。やはり「やつ」相手にはあの魔剣でなければ無理か」
四足翼竜を粉々にした魔剣の威力に不満を呟きつつ投擲した魔剣に近寄り拾うミツル。
「ミ、ミツル!」
呼ぶとミツルは私の方を見た。その目はこれまで見たことの無いほど憎しみに満ちていた。
「きゅ、急に鍛冶場に篭って何日も出て来ないと思ったらいきなり出てきて魔剣で四足翼竜を倒すなんて!何のつもりよ!!」
怒る私を見てミツルは何かを考える仕草をする。それでいつものミツルが戻ってきたと勘違いした私はいつも通り悪態をついた。
「ミツルが勝手なことをするなら私も好き勝手にするわよ!!」
「ああ、それでいい」
だがミツルの返答は驚くほど素直で率直な答えとなって帰ってきた。
※
ミツルの家の前で怒鳴りあう二人。ミネがミツルを怒鳴っていた。。
「それでいいってどう言う事よミツル!!」
「そのままの意味だ。お前の好きにしろ」
「そんな、ミツルはどうするのよ」
「俺にはやることがある。だからここでお別れだ」
「やることって一体、何を」
何をといいかけてミネは気付いた。ミネが復讐に燃えていたようにミツルにも復讐すべきものが存在すること
「察したようだな。今度は俺の復讐劇だ。だがこれは俺一人でやる。お前の力は借りない。もっとも俺が挑む相手にはお前の鉄拳など通用しないがな」
いつもなら鉄拳を馬鹿にされてミツルに噛み付いていたミネだったが先ほど四足翼竜との戦闘でその相手が何者かと想像したミネは今回ばかりは何も言わずに、ただミツルを問いただした。
「ねえ、ミツルの復讐ってどんな相手って」
「それを聞いてもどうにもなら無いぜ」
「聞かせて欲しい」
ミネは真摯な瞳で問いかける。
「他人に話すようなことではない」
他人と言う言葉にショックを受けるミネ。一方で予想していた答えだったのでたとえ鉄拳に訴えても聞き出す覚悟でいた。そう思ったミネだったがミツルは意外な言葉を吐く。
「だが、それでは納得しないだろうな。いいぜ、話してやる。これも何かの縁だ。俺の復讐劇のことを」
そう言って背負っていた剣をすべて鞘から抜き地面に突き刺す。その中にはミネが使った怒王焦滅剣もあった。地面に突き刺さった剣たちに囲まれミツルは語り始める。
「10年前、俺が15の時だった。俺は生まれ育った村の兵になった。俺の出身はもっと北にある大きく強大な国家だった」
「国家」
「魔兵王国・ミュクザーク、その名は聞いたことあるだろう」
「魔兵王国!!大陸の西にある魔法戦士の国!そこがミツルの国なの?」
「そうだ。魔兵王国・ミュクザークの魔法戦士見習いとして俺は、俺たちは近場にある正統竜種の巣で竜退治を行った」
「見習いが正統竜種退治?」
「魔兵王国では伝統の行事だ。魔法戦士見習いは卒業試験に正統竜種退治をする。もちろん一人じゃない。十数人で編成された部隊での戦闘だ。だがそれには死をも伴う。見習いなのに戦死したなんて話もある。だがそれゆえに魔兵王国の魔法戦士は無類の強さを誇る。その日、竜の巣にいたのは中型の正統竜種だった。子どもと言うには大きく、かといって巨竜と言うには小さい。見習いの正統竜種退治には丁度良い標的だった。そう、その正統竜種がいたのならばな」
その時のミツルの表情でミネは先ほどの四足翼竜への視線を察した。
「そうだ、そこには正統竜種を食い殺した四足翼竜がいた。通常、四足翼竜は正統竜種よりも危険度が下と判定され四足翼竜は上級モンスター、正統竜種は最上級モンスターに分類されている。だがその四足翼竜は生まれてから何年も戦い続け闘争本能の塊となった凶悪な四足翼竜だった。
暴闘翼竜。
四足翼竜の中でも竜種に匹敵するモンスターだった。そんな暴闘翼竜に見習い戦士たちがかてるはずもなく部隊は全滅した」
「・・・」
「そう、ただ一人、俺を除いて!!」
それは悔しさだろうか、悲しさだろうか、はたまた怒りだろうか、ミツルの表情は暗く沈んでいった。
「それから俺は一人生き帰った臆病者として国のものたちから後ろ指を指されるようになった」
「そんな、生きて帰ったのに」
ミツルを罵ったものたちの大半はミツルと同じ部隊にいた者たちの親族だった。息子が、娘が、孫が、甥が、姪が、自分たちの愛するべき子孫や血族が死にただ一人生き残ったミツルを責めたのだ。自分を責めた者達にそんな心情があったことをミツルは知らないが仮に知っていても魔兵王国に生まれたミツルにとって大きな違いはなかっただろう。
「俺は魔剣鍛冶の師匠に引き取られ魔剣鍛冶としての道を歩んだ。暴闘翼竜を倒せる魔剣を作るために様々な知識と技を習得した。そこで出会った兄弟子がギラだ。やがて俺は独り立ちして自分の鍛冶場を持つようになった。師の元から独り立ちしてから二度、あの暴闘翼竜と対峙した。いずれも完敗だったが敗北の度に魔剣が増えていった。そして今度こそ暴闘翼竜を打つ。すべての魔剣を使って邪魔するすべての四足翼竜を狩ってでも」
ミツルのその言葉に周囲の魔剣が震えるように共鳴している、ミネにはミツルも魔剣も絶叫を上げているように思えた。
※
魔兵王国・ミュクザークの子どもたちに取って勇敢に戦う魔法戦士は憧れの存在だ。男女問わず魔法戦士を目指しいつか自分も子ども達が憧れる英雄になりたいと誰もが思う。子どもの頃のミツルも同じだった。
誰もが抱く憧れを胸に誰もが目指す魔法戦士の訓練を受け、同じ思いを持つ仲間とともに正統竜種退治へと向かった。
だが。
息を切らしながらミツルは逃げ回っていた。
そこでは暴闘翼竜が暴れていた。ミツルたちの部隊が到着したときには正統竜種は血を流して絶命していた。そして暴闘翼竜は物足りないと言わんばかりにミツルたちの部隊を襲ってきた。目の前で次々の仲間たちが殺されていくなかでミツルは必死に逃げ回っていた。勇敢に応戦しようとしたものもいたがそれは勇気と無謀を吐き違えた行為だった。暴闘翼竜は見習いの魔法戦士が太刀打ちできる相手ではない。硬い鱗は並みの鉄拳使いでは砕けず、高い魔法耐性を持つその体には並みの魔法は通用しない。幾千と言う戦場を経験した百戦錬磨の兵だけが挑むことができる怪物なのだ。
そう言った意味では逃げることを選択した者たちが正解だっただろう。
しかしそんな者たちを暴闘翼竜は容赦なく狩って行った。そんな光景が背後で広がっているとも知らずに逃げていたミツルだったが足元の石に躓いてこける。
「ぐっ!!」
地面に倒れて振り返った瞬間ミツルに牙をむく暴闘翼竜の姿が視界に入った。
「ハウリング・コンフュ!」
モンスターが不快とする音波を出して動きを封じる風魔法で暴闘翼竜の動きが止まる。そのわずかな隙にミツルは立ち上がり逃げる。
「ミツル!こっちだ!」
「グルス!」
グルスと呼ばれたミツルの友人は部隊の中でも一番仲の良い友人だった。魔法学校に入って少ししてからできた友人なのでそれほど長い付き合いではないが不思議とウマが合った。
しかしそんな感傷にひたる暇はなく動き出した暴闘翼竜は容赦なく仲間たちを狩って行きミツルとグルスに向かってきた。
「俺が音波で動きを封じる。お前は水で足を捕縛するんだ」
「わ、分かった」
グルスの扱う魔法は風属性、ミツルは水属性だ。またミツルは水魔法の上位魔法である氷魔法も扱うことが出来た。
「ハウリング・コンフュ!」
グルスが風魔法を打ち
「ウォーター・レストレイント!」
ミツルが敵の動きを束縛する水魔法を放つ。
水魔法で足の自由を奪われた暴闘翼竜だったがその咆哮でグルスの風魔法を打ち消す。
「風魔法が打ち消された!ミツル氷魔法だ!」
ミツルは暴闘翼竜の足元の水を凍らせて暴闘翼竜の動きを封じようとした。完全に封じる事はできずとも少しの間でも暴闘翼竜から逃げられればまだ生き残っているものたちと合流し体勢を立て直すことも可能だ。グルスもミツルもそれは頭で分かっていた。
しかし暴闘翼竜の咆哮を聞いたミツルは居竦み氷魔法を放てないでいた。
「グルウウウ!!」
その間にも暴闘翼竜は水魔法を振りほどきミツルに襲い掛かる。
「危ないミツル!!」
グルスはミツルを突き飛ばしミツルの前で上半身が暴闘翼竜に食われてしまう。その光景を見てミツルの理性は崩壊した。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
ミツルは絶叫したまま走って逃げた。背後で仲間達が殺され自分が最後の獲物となったことも分からず逃げ続けた。
「アイスネット!」
氷の網を張り暴闘翼竜の進行を阻み
「ライジング・ウォーター!!」
地下水を吹き上げる水魔法で暴闘翼竜の動きを止めた。
それでも暴闘翼竜は迫ってきた。だがミツルの視界は暗転する。自分が足元にある池に落ちたのだと気付いたミツルは浮上しようとしたが水上で暴闘翼竜がミツルを探している姿が水中から見え浮上するのを止めた。
(早くどこかに行ってくれ!!)
ミツルは息が続かずそれでも恐怖で水上に顔を出せずそのまま溺れかけてしまった。
ミツルは我慢できず池からでた。
「う・・・ゴホッ、ゴホッ!!」
咳込んだミツルは口から大量の水を吐き出す。しばらく咳が止まらず頭も朦朧としていたがやがて冷静さを取り戻し周囲を見渡す。暴闘翼竜は去り辺りは静けさを取り戻していた。
それからミツルは生存者を探そうと元の場所に戻ったが死体の山になった惨劇の光景をみて逃げ出した。
国に帰ったミツルは暴闘翼竜のことを大人たちに伝えて唯一の生き残りとして手厚く保護された。だが生き延びたミツルに待っていたのは生き地獄と言う現実だった。
一人だけ逃げ帰った臆病者として国中の者から除け者にされ家族ですらもミツルを厄介者扱いにするようになった。そんな環境に耐えられずミツルついに爆発した。
街中で町の人々を罵倒したのだ
「どうして、どうして俺が責められなければならないんだ!!あんなの誰も勝てるわけないじゃないか!誰もあそこに暴闘翼竜がいるなんて知らなかったじゃないか!!誰も知らないのに、どうしてみんな俺を責めるんだ!!そんなに言うなら自分たちも暴闘翼竜の前に行って戦ってみればいい!!!お前たちは勇敢な魔法戦士なんだろう!!」
その言葉ですべての者が沈黙した。気まずい沈黙が降りるなかで一人の男が出てきた。
「そこまでだ、ミツル君といったかね」
所々白髪を生やした男。50代くらいだろうかその瞳と顔つきで歴戦の戦士なのだと人目で分かった。
「わしはガクシュウ。これからお前はわしのもとに来てもらう」
「何だって、いきなり何を言ってる」
「お主の両親にも話はつけてある。もっともこの街に残りたいと言うなら話は別だがな」
ミツルはその言葉に恐怖を覚えた。これ以上この街に、否この国にいたくない。その思いでミツルはガクシュウとともに行くことにした。
ガクシュウはミツルの父の古い知人だ。ミツルの現状を聞いて群国国家で暮らすガクシュウに引き取ってもらうことにしたのだ。ミツルがそんな事情を聞いたのはガクシュウの元に来て気持ちが落ちついたときだった。そんな時期を狙ってガクシュウはミツルにある話を持ちかけた。
「お主、魔剣鍛冶になってみんか」
「魔剣鍛冶?」
魔剣を打つ技術を持ったものそれが魔剣鍛冶だ。
「お主には魔剣鍛冶の才能がある。どうだ、この技術を継いでみんか」
そうしてミツルは魔剣鍛冶になることにした。しかしミツルはガクシュウの言う技術を継ぐつもりはなかった。それがどんなものなのかは聞かされたことはないが、ミツルにとって大切なことは暴闘翼竜への復讐を果たすことだった。
そうしてミツルはガクシュウの元で魔剣鍛冶になる修行を行った数年後、ミツルはガクシュウの元を離れ復讐の道を歩みだす。