ミネの刻
暴走してしまった私をミツルは止めてくれた。冷静になれといった彼の言葉が私の「別の部分」から冷静さを失なわせていた。しかし今は復讐を果たすことに集中したかったのであえて「別の部分」は頭の片隅に追いやった。
屋敷の中に侵入した私たちはギロウの元へと向かっていた。ギラさんの部下が屋敷にはすでに潜伏しており暗殺がスムーズに行けるように段取りしてくれていたのだ。そしてギロウのいる部屋の前まで来ると私たちは立ち止まりギラさんが口を開く。
「情報ではギロウのいる部屋の周囲には結界が張られている。それは三つの部屋に置かれた魔石から張られていてそれぞれ三人の護衛が待機している。それらすべてを倒して魔石を破壊しない限りギロウには触れることすらできない。俺たちは三人いる。だから各時一人ずつ速やかに護衛を倒して魔石を破壊する」
「護衛を倒すって言うのは、暗殺っていう割りには真正面な作戦だな」
ミツルがギラさんにそんな疑問を打ち明ける。
「揚げ足を取るな。ギロウは自分が恨みを買っているのは知っている。だから信頼のおける者に結界を張らせているんだ。ギロウはその結界内でのみ熟睡すると言う情報で、そのためか結界には防音効果もある。だから護衛を倒すのに多少騒いでもギロウは気付かないだろう」
「なるほど、そういう状況なら護衛を倒して結界を解除してから倒すのもありか」
納得したミツルと私は右・中央・左と三箇所に分かれた部屋に誰が行くのかをギラさんが指示を出し、その後それぞれ分かれて術師の部屋に向かった。
私は忍び足で左の部屋に向かった。扉越しに人の気配が感じる。私は一呼吸してから扉をあけて中を見る。中には黒髪の髭を生やした男が一人いた。もみあげが頬にかかるまで長いと言う奇抜な格好の男に向かって私は鉄拳を繰り出す。
先手必勝。部屋の中に入って一撃で決めるつもりだ。鉄拳をまともに受けれる者は少ない。基本はかわすかいなすかのどちらかになる。その気持ちで繰り出した私の鉄拳を男は同じように拳をぶつけて対抗してきた。それで直感的に理解した。
(この人も鉄拳使い!!)
そう理解した瞬間、私の頭の中は鉄拳対策で占められた。
「「いち!」」
「「に!!」」
「さん!!!」」
三連打のコンビネーション。それを男も同じように繰り出し相殺してからお互いに距離を取る。そして再び間合いを詰め
「「攻之壱式!!」」
男も私と同じ技を放つ。鉄拳による正拳突き。ぶつかり合う拳。その威力は互角だった、しかし男はぶつけた拳を引いて逆の腕で正拳突きを繰り出す。
「攻之参式!!」
攻之参式。攻之壱式が受けられた後、その反動を利用して逆の腕から放つ技だ。
「攻之弐式!」
私は回転して男の攻撃を回避する。攻防一体の裏拳で男の顔面を狙う。
「守之二式」
すると男は手首から肘までの部位を使って防御する。鉄拳は拳だけを鍛えるわけではなく、鉄拳に耐えうる肘と肩をそして体幹を鍛える。そのため鉄拳使いの腕は接近戦において堅固な盾となる。
相手は私の裏拳を受けきる。これらすべての流れは私も男も読めることだ。鉄拳の技を知るがゆえに同門同士では技の掛け合いでは互角にしかならない。勝敗を決するのは鉄拳の強さ。つまり先に鉄拳が壊れた方が敗北となる。
しかし私は鉄拳を鍛えてはいたが拳闘奴隷としての戦いが基本だったため使える技は鉄拳に限らず何でも取り込んできた。それが生き残る方法だったからだ。拳闘奴隷の時代に同じ鉄拳使いと戦うこともありその時の対策が・・・
「攻之壱式!」
・・・防御から一点して正拳突きで攻撃に転じた男の拳をすり抜けその腕を掴み引っ張ることで男の体勢を崩す。防御の硬い相手でも的確に急所に鉄拳を打ち込めるこの崩しの技が鉄拳対策だ。
「!!」
私はそのまま男の重心を崩して横に投げる。
「くっ!」
投げられまいと足を踏ん張り無防備になったところに
「攻之四式!」
私は男のこめかみに掌底を打つ。四式は強烈な掌底だ。他の技に比べて威力は格段に弱くなるがその目的は相手の三半器官を揺らせ動きを崩すことが目的だ。
「守之壱式!」
眩暈がする中で男は両腕を使って顔面と心臓部をガードしてきた。鍛え抜かれた鉄拳使いの両腕によるガードはまさに盾だ。私は腹部に鉄拳を放つしかなかった。だが鉄拳使いの腹筋は強靭だ。ゆえに男は致命打になりえる顔面と心臓部を守ったのだ。
しかしそれが油断だった。私は男の腹部に全力で正拳突きを放つ。
「攻之壱式!」
「っつ!!」
短い呻き声をあげて男は私を見て、そのまま倒れた。男が倒れたのを確認して奥にある魔石を壊す。それと同時に部屋に充満していた魔力の気配が消えたことを察して私は部屋から出て行った。
※
右の部屋に入った俺は剣を構える剣士と対峙する。相手も侵入者だと即座に理解したのだろう剣を構える。鞘にも納められてないその剣は細長い片刃の剣だ。その刀身からはただならぬ気配が感じ取れた。
(こいつ、魔剣使いか)
「流王波紋剣」
俺は魔剣を抜いて先制攻撃をする。
「流王波紋剣・螺旋水縛斬」
剣先から出た水流が渦を巻き敵の動きを封じる技だ。敵の魔剣がどのような性質か分からないなら戦う前にその力を無力化すればよいと思い放った技だった。
「拘王沈静剣」
水の渦は力を失ったように床に落ちてその足場を濡らす。
(今のは落ちたというよりも落とされた?)
「拘王沈静剣・四足黙声斬」
黒い靄がかかった球状のものが四つ投げられてくる。それをすべて流王波紋剣で切ると剣が突如重たくなり俺は剣をそのまま床に投げ捨てた。
(これは対象を重たくする重力魔法!樹属性を操る魔剣?!やつの剣の衝撃波に触れれば武器も俺も無力化される!)
「拘王沈静剣・五体黙声斬」
さらに数を増した黒い靄がかかった球状のものに俺は二本目の魔剣を抜く。
「震王雷吼剣・飛電万千斬!」
複数の電撃が敵の黒球に触れお互いをかき消す。
だが敵は動揺せず無言で斬りかかってくる。俺も魔剣をぶつけ鍔競り合いをしている間に男は技を放ってきた。
「拘王沈静剣・四足黙声斬」
鍔競り合いの中でも剣は重たさを増していく。
「くっ!!」
俺は渾身の力で剣を弾いて間合いを取る。
(衝撃波に当たっても鍔競り合いになっても剣に重力魔法がかかる。だが剣に触れなければ重力魔法の効果は受けない)
軽くなった剣を振るい俺は反撃する。
「震王雷吼剣・照魔鏡光斬!」
剣を振ると剣から光が照りつけ敵の視界だけをを一時的に奪う技だ。敵は当然持っている武器で目を隠し光りから目を守ろうとする。その一瞬の隙が攻撃のチャンスだ。
「震王雷吼剣・飛電万千斬!」
複数の電撃を放ち魔剣使いの男を貫くはずだった。しかし男は剣を手放し
「拘王沈静剣・黒星重核斬」
剣は回転し始め重力場を生み電撃はすべてそこに吸い込まれてかき消されていく。それだけではなく俺や男も魔剣の重力に引きずられていく。
(こいつ相打ち狙いか!)
そう思った瞬間、これまでの戦闘で砕かれた床が男の魔剣の重力に反応していない場所があることに気付いた。重力場は球状になっておりその形状の都合で部屋の隅にはまでは重力場が届いてかないのだ。すかさず俺は攻撃を仕掛ける。
「震王雷吼剣・地走伝網斬!」
地を這い弧を描いて敵に向かっていく電撃。予想通り部屋の隅は重力場の影響外だったようで電流は男の足元にまで到達すると網目のように広がり敵に覆いかぶさる。そして網状のネットで捕らえ電気ショックで気を失わせる技だ。
男は電気ショックを浴びせられ声をあげて気絶し、その直後魔剣の重力場はなくなっていった。すかさず俺は魔剣で奥にある魔石を切る。部屋に充満していた魔力の気配が消え俺は結界が解除されたことを察して床に落ちた魔剣を拾ってから部屋の外へと出た。
集合場所に行くとギラがすでに立っており、俺が合流して間もなくしてミネも合流した。
「どうやら無事結界が解けたようだ。行くぞ」
俺もミネも無言で頷きギラがゆっくりとギロウのいる部屋の扉を開けた。
※
扉を開けるとギロウが仁王立ちで立っていた。
「結界が消えたのでもしやと思ったが侵入者か。まさかあの三人を倒すとは相当な手だれだな。何者だ」
ギラがギロウの言葉に返答しようとする前にミネは前に出る。
「私はミルノ村の領主の娘、ミネ」
「ミルノ村。魔石の村の娘か。せっかく俺の国に取り込んでやったというのに恩を仇で返すか」
「ふざけないで!あなたさえ来なければあの村は今もあった。あなたが私たちから居場所を奪ったのよ!」
「何が居場所だ。大陸の隅、その辺境で細々と暮らすところが居場所だというのか!俺の村に取り込まれてからどれだけの人間が俺の村に移住してきたとおもう!小娘の小さな視野で語るな!」
「たとえ貧しくてもあそこが私たちの居場所なの!それを奪う権利なんて誰にもありはしない!!あなたは自分の行いを正当化しているだけ。人にはやってはいけないことがあるの。そんなあなたを討つために私はこの手を汚してきた。すべてはこのときのため」
「復讐の信者か。ここで返り討ちにしてくれる!!」
そういってギロウが抜いた剣は異様な気配を放っていた。その気配を感じてミツルは一発の察した。
「魔剣か」
「そうだ。だから彼女をお前のところに向かわせたんだ」
ミツルの言葉をギラが肯定する。ミツルは背中が疼いていることに気付いていた。
「ここで喰王頂山剣の糧にしてくれる!」
「覚悟!!」
真正面から鉄拳を繰り出すミネ。その拳を交わし床が砕かれる光景をみてギロウは表情を険しくする。
「あなたを許さない!」
そういってミネはギロウに殴りかかる。
「喰王頂山剣」
そういってギロウは鉄拳を魔剣で受け止めた。
「!!」
それを見てミツルは驚く。魔剣はそれぞれに能力差が存在する。ミネの鉄拳を受け止めたミツルの魔剣・塵王砂門剣は防御型で地属性の魔剣だ。もしそれ以外の魔剣で鉄拳を受け止めていたなら刀身になんらかの影響がでていただろうとミツルは思っていた。事実ここに来る前にミネの拳を受けた怒王焦滅剣の刃はわずかに欠けていたのを鞘に納める前に確認していた。そして眼前の喰王頂山剣もミツルの見立てでは防御型の剣ではないと踏んでいた。
「恐らくあの喰王頂山剣は魔力を吸収する能力を持った魔剣。ミネの鉄拳を受け止めるはずはないと思ったが」
ミツルの疑問にギラが答える。
「彼女の鉄拳から魔力を奪い取り鉄拳の攻撃力を弱体化させたのだろう」
「弱体化?鉄拳は素手の状態で鍛えた拳のはずだ。なのになぜやつの魔剣の影響を受けるんだ?」
「通常鉄拳は長い鍛錬のすえに鍛えられた拳を言う。しかし彼女は拳闘奴隷として鉄拳を学んだ。その期間は半年だと言う。たしかに半年鍛えれば鉄拳は出来る。しかしそれは初期段階でしかない。長い間鍛錬をつんだ真の鉄拳には程遠い。だが拳闘奴隷は戦えればよかった。だから初期段階でも充分な「見世物」になる。けれど彼女が拳闘奴隷として生き延びるにはそれだけは足りない。他の要素を取り込み強くなっていかなければならなかった。それが魔力による肉体強化だ。拳を強化する事で自分より鍛錬が上の鉄拳使いとも渡り合ってきた。しかしギロウの喰王頂山剣は魔力を吸い取る。つまり彼女の鉄拳は初期段階の鉄拳に落ちたと言うわけだ」
ギラの言葉を聞いてギロウは剣を下ろす。
「そこの男の言うとおりだ。貴様は真の鉄拳使いではないな。その腕でここまで来れた事は褒めてやるが魔力がなければ半人前の貴様では俺を殺せぬどころか魔剣に傷一つすら入れれぬ。諦めろ。そしてこの魔剣の糧になれ。モンスターを相手に魔力を吸っていたがたまには人間の魔力を吸わせてやらんとな」
そう言うギロウにミツルとギラは魔力切れで倒れていた一目巨人を思い出す。その間にもミネに止めを刺すためにギロウの魔剣が再び振り上げられた。
ミネは拳を握る力を吸い取られ鉄拳の力は減少させられた状態でもその瞳は復讐の炎を絶やさずにいた。
「絶対に許さない」
怒りが彼女の体を支配していた。ギラは隙を見て加勢に入るつもりだったが隣に立っているミツルがそれを阻んでいた。
「ミツル、どういうつもりだ」
「これは彼女の復讐だ。手出しはさせない」
「それで彼女が死んでもか?」
「復讐者は復讐を果たすことが目的だ。命を永らえることではない」
「それはお前の見解だろう。彼女は生きたがっているかもしれないじゃないか」
「お前こそ自分の任務と他人の感情を一緒にするな。ただギロウを暗殺できればよいなら黙ってみていろ」
お互いをけん制しあう中でミツルは背中の疼きが止まらないことを感じていた。魔剣とは人間の負の感情を取り込んだ魔石を元に練成した剣だ。魔剣には魔石に念を込めた者に由来する力が宿り同類の力に反応する。
「お前の怒りに俺の怒りが反応したんだな」
ミツルはミネを見ながらゆっくりと背中剣の柄に手をかける。
それをみて隣でギラが目を見開いて驚く。
「ならば行け。お前を呼ぶ声の元に」
そうして魔剣を抜き天に掲げる。魔剣はミツルの手から弾かれるように飛んで行きミネの眼前の床に突き刺さる。
「これは!」
「お前の怒りに俺の魔剣が強く反応した。そいつを使え。名は怒王焦滅剣だ」
「怒王、焦滅剣」
ミネは怒王焦滅剣を握り床から引き抜く。
「両親の仇!そして無くなったミルノ村の仇!お前を討つ!怒王焦滅剣!!」
「魔剣を持とうとも俺には勝てん。すべて喰らい尽くし、俺が頂点を極めるのだ!」
「黙れええええ!!」
振り下ろした魔剣の切っ先から炎が迸りギロウを捕らえる。
「喰王頂山剣・登山八方斬」
自分の周囲の魔力を悉く吸収する技でギロウは自分を捕らえる炎をかき消す。
「喰王頂山剣・下山豪勢斬」
ギロウの強烈な一撃を魔剣で受けたミネだったが、魔剣ごと吹き飛ばされてしまう。
「なるほど魔剣で魔力を吸い、それで魔剣自体を強化できるのか」
ミツルの冷静な分析にギロウは嬉々として語る。
「そのとおりだ。あらゆる力をを喰らう俺こそが頂点に立つに相応しい」
「だから国家転覆なんて大それたことをするのか?」
「本来上に立つべきものが不遇の地位にあるだけだ」
ギラの疑問にギロウは尊大な態度で答える。だがそれを否定するかのようにミネは強く足を踏みしめ立ち上がる。
「あなたのどこに上に資格があるというの。お前は強奪者、ただの盗賊よ!!」
「小娘が、俺を愚弄するか!!」
「こんな言葉ではお前に奪われた人たちの慰めにもならないけど、それでも何度でも愚弄してやる!!小者め!」
「小娘が!死ね!!」
いまだ強大な魔力を放つ喰王頂山剣がミネに振り下ろされる光景をミネ自身はスローモーションのような光景で見ていた。
(もっと、もっと怒りを!!あいつを倒す力を!!!)
ミネの怒りに反応して怒王焦滅剣は炎を吐く。
「何!」
ギロウの攻撃を魔剣で受け止めたミネ。お互いの魔剣の力は互角になっていた。
「私の怒りが魔剣を強くする。覚悟!!」
「小娘が!!」
それから魔剣同士が火花を散らせ打ち合うこと十数合、決着の時が来た。
怒王焦滅剣を振り下ろすミネに対して喰王頂山剣を振り上げギロウはミネから魔剣を弾く。
「あ!」
「もらった!」
ミネから魔剣を手放すことに集中していたギロウは失念していた。ミネが鉄拳使いであることを。ミネは体を小さく丸めギロウの懐に入り
「攻之壱式」
「!!」
ギロウが自分の判断ミスを悟ったときすでに手遅れだった。ミネの鉄拳はギロウの腹部の急所を直撃しその衝撃は体内の肋骨を全損させギロウの動きを止めた。
「ごふ!」
ギロウは口から吐血する。
「すべての思いを込めて」
そしてミネは再び正拳突きをギロウの心臓へと打つ。
「ぐう!!」
短いうめき声を上げてギロウはそのまま倒れる。
「父さん、母さん、みんな、私、やった、よ」
「こ、の、ままで、終わる、ものか」
しかしギロウは最後の力を振り搾って声を放つ。
「皆殺しだっ」
そう言うとギロウは歯を強く噛む。すると「カチリ」と言う音の後に地響きが起こる。
「貴様!何をした!!」
ミツルがギロウを見るとギロウはすでに息絶えていた。
「二人共、一旦外に逃げるぞ!」
地響きで屋敷が揺れ崩れ始める中で、何かが下からやって来るそんな雰囲気だった。危険を察知したギラは二人に声をかけ一同は屋敷の外へ逃げた。屋敷の外に出ると見知った顔がいた。ミネが戦った鉄拳使いとミツルが戦った魔剣使いだ。
「お前たち何をした!」
そういって怒鳴ってくる剣士にギラが状況を説明する。それを聞いた剣士は表情を蒼くし話し始める。
「彼が口の中に仕込んでいたのは爆弾を起動させるスイッチだ」
「爆弾?」
「地下に眠らせている古岩人形を封じていたものを壊すための爆弾だ」
「古岩人形だと!」
剣士の言葉にギラが目を見開く。
「馬鹿な、古岩人形は結界を守っていた三人の内の一人ではなかったのか!」
「それは本体からつくった分身だ」
「では俺が倒したのは分身の方だと言うのか!」
「そうだ。本物の古岩人形は体長三mはある巨体だ」
「「「!!!」」」
剣士の言葉に驚くギラたちは壊れる屋敷から出てきた巨大な古岩人形を見上げた。
「ギラ!こいつは何だ!」
「岩石人形とは岩石に魔力が宿りそれがモンスター化したものだ。それは自然界の中で生成される産物の一つだった。しかしどこぞの馬鹿が岩石人形に古石を融合させたんだ。古石は魔力を得た魔石が長い年月、魔力を保持し続け堅固な石になった自然の産物だ。それゆえに希少価値の高い石として有名だがそれで作られた武器防具は鋭利な刃と化し堅固な鎧となる。それでできたゴーレムということは相当厄介だ」
体長三mの巨体がその姿を現し咆哮を上げる。
「古岩人形には破壊衝動しかない。このままではこの周辺の村を破壊しつくす災厄になってしまう」
鉄拳使いが古岩人形の脅威を口にする。そこへギラが前に出る。
「言われるまでもない。ここでこいつを仕留める」
「正気か」
「この災害を世に出すわけには行かない。あんたちもどちらにせよ被害を被るんだろう。だったら協力してくれ」
「我らだけでは」
「策はある。古岩人形の倒し方を教える。それに戦ったのなら分かるだろう。魔剣使いが二人、鉄拳使いが二人いるんだから。俺はギラ、魔術師だ」
二人はお互いに目を合わせて頷く。
「魔剣使い、ホーネス」
「鉄拳使い、ゴダイム」
二人が名乗るとミツルとミネも続く。
「魔剣使い、ミツル」
「鉄拳使い、ミネです。よろしくお願いします」
そう言って緊張した面持ちのミネを見てゴダイムは話しかける。
「お嬢さんとはまた拳を交えてみたいな」
「はい、その時はよろしくお願いします」
「だが今は眼前の敵を倒すことが優先だな」
そう言ってゴダイムは古岩人形を見る。咆哮と共に古岩人形はゆっくりと動き出す。拳を振り上げそれを地面に向けて打ってくる。
「来るぞ!回避しろ!散開!!」
五人はそれぞれ散り散りになって攻撃を回避する。しかし古岩人形の拳は地面に食い込み地面が揺れる。その攻撃にゴダイムが唸る。
「攻撃のスピードは速くないがまともに喰らえばひとたまりも無いな」
ギラが間髪をいれず指示を出す。
「ミネとゴダイムが前衛で敵をかく乱、後方からミツルとホーネスが魔剣で援護。俺が指示を出す、いいな」
一同はギラの言葉に頷きゴダイムとミネが駆ける。二人は突撃するが古岩人形は足を動かして一歩前に進む。それだけの動作だが緩慢で踏み潰されることはないだろう。しかし踏み出した足からは衝撃が走り砂煙が舞いミネは近寄れないでいた。そこへ古岩人形が一歩を踏み出した衝撃で隣で壊れていた建物がミネとゴダイムの方に崩れてくる。二人は俊敏な動きで回避し古岩人形から距離を取る。
「近づけぬな」
「はい。どうすれば」
戸惑う二人にミツルが声をかけてきた。
「ミネ、こっちに来い!」
「え!?」
ミツルに手を引かれてミネは古岩人形から離れたところに向かう。
そこではギラたちが集まっていた。ギラは全員に向かって言う。
「作戦変更だ。古岩人形は大きくで重量がある。先ほどのように一歩踏み出すだけで近寄れない。だから連携を取ってまずは古岩人形の動きを封じる。そしてその後止めを刺す。古岩人形は全身が古石と言うわけではない。幾つかの「核」となる部分だけが古石であり、他の部分は古石の影響を受けて硬度を増しているの過ぎない。ゆえに核をすべて破壊できれば単なる巨大な岩石人形だ」
「その核とはどこに」
「両肘と両膝そして脳天だ」
合計五箇所。そしてミネたちは五人いる。
「まずは魔剣使い二人で動きを封じてもらう。その間に鉄拳使い二人が両膝の古石を砕いてくれ。その後両肘を魔剣使い二人で砕き、脳天は俺がやる」
ギラの言葉にホーネスは疑問を呈する。
「出来るのか?古岩人形は脳天の古石が一番硬いと聞いたことがあるぞ」
「分かっている。だが任せておけ」
全員は頷きそれぞれ動き始める。
ミツルは背中から魔剣を抜く。
「塵王砂門剣」
ホーネスも魔剣を構える。
「拘王沈静剣」
その間にも古岩人形は歩みを進め大地に傷痕を残していく。
「拘王沈静剣・黒星点核斬」
対象の足元だけに重力魔法を掛ける技で古岩人形は動きを止める。ホーネスに続いてミツルが技を打つ。
「塵王砂門剣・獄砂重縛斬」
両手両足を縛る巨大な砂の鎖が古岩人形の自由を奪う。そこへ二人の鉄拳使いが走る。
お互いに集中して目を凝らす。鉄拳は鉄の如き拳であらゆるものを砕く。しかしそれだけでは大地を砕くといわれる鉄拳には至れない。鉄拳を「急所」へ打ち込む。そうすることで鉄拳は最大の破壊力を発揮する。人間ならば人体の急所。大地ならば大地の急所。そして古石ならば古石の急所を見つけ拳を打つ。二人の鉄拳使いは集中して目を凝らし古石の急所を探し当てた。そしてその急所に向かって全力で拳を打つ。
「「攻之壱式」」
動きの止まった古石の膝に鉄拳を打つミネとゴダイム。それぞれの鉄拳が古石を砕いた。
「倒れるぞ!回避!!」
ギラの指示で一同は足を失い地面に倒れる古岩人形から遠ざかる。地響きを立てて古岩人形は倒れ動きを止める。
そこへすかさず二人の魔剣使いが突撃していった。
「拘王沈静剣・黒渦牙斬」
特定の場所に重力場を発生させその一点のみを砕く技。肘の部分に集中的に重力場を発生させることで硬度のある古石を破壊した。
一方ミツルは魔剣を変えていた。
「怒王焦滅剣・灼炎滅却斬!」
高温の熱を纏った刀身はあらゆるものを切り裂く斬撃と化す。シンプルだがそれゆえに使い勝手の良い技だ。古石は真っ二つに斬られその後で炎に包まれ炭と化す。
両肘から古石を失った古岩人形は頭部を残して崩壊し始めていた。体は維持できず岩となって解体していく。その中で古岩人形の頭部を目掛けてギラが走っていた。そんなギラに古岩人形は口を開ける。
「ギラ!避けろ!!」
ミツルの警告と同時に古岩人形の口から魔力の砲撃が放たれる。大砲のような一撃が放たれギラに直撃し爆発を起こす。
「やられたか」
ホーネスが追撃をかけようとするのをミツルは制する。
「どうした早く助けに行かねば」
「ギラに助けなんて必要ない。あいつはやるといったら必ずやる男だ。俺たちはそれぞれの役目を全うする。それがあいつにとって一番の助けだ」
「ずいぶん評価しているのだな」
「散々苦労させられたからな」
そうして一堂は爆発の中から駆け出すギラを見つけた。ギラは走りながら魔法の詠唱に入っていた。
「風の精霊たるシルフ 形無きその姿を現し 天地を繋ぐ巨大なる嵐を以って 我が瞳に映る景色を 森羅万象あるべき姿へと戻し賜え! リダクション・トルネード!!」
竜巻を発生させて対象を包み込み、対象の魔力を自然界に還元させる風魔法。風魔法の中でも最高位に属する超絶魔法の一つだ。魔力を還元させられた古石はただの石となり古岩人形は咆哮と共に崩れ落ち岩の山が後に残っただけだった。
「やった、か」
ギラはその場に寝転がった。そこへ数人の兵士がやってきた。
「良いタイミングだ」
それはギラと同じ国家機密部隊の隊員たちだった。ギロウを暗殺したあとで合流し密かに古岩人形を探して仕留める段取りだったのだが急遽戦うことになった。
「一つは何とかなったな」
ギラはそう呟いて瓦礫後になったギロウの屋敷を見た。