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魔剣鍛冶の剣  作者: 霜月昴
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魔剣と鉄拳


 ミネと話していたミツルの耳に「それ」は聞えてきた。

 大地を鳴らす咆哮。その声にミツルもミネも耳を塞ぐ。

 「この咆哮は」

 「一目巨人サイクロプス!!」

 二人はすぐに声のする方向に向く。そこには一つ目の巨人、一目巨人サイクロプスが二匹暴れていた。

 この世には怪物(モンスター)と呼ばれる生物が生息している。普通の獣や虫とは異なり異能の力をもった生物、それがモンスターだ。一般に危険レベルに応じて上級、中級、下級に別けられる。また上級の上には竜種のような最上級と呼ばれるモンスターが存在するがそう滅多に出会うものではない。自分から

会いに行かない限り。

 一つ目の巨人、一目巨人サイクロプスは低級モンスターに位置づけられていた。

 「低級モンスターが私の交渉を邪魔しないで!!」

 暴れる二匹の一目巨人サイクロプスに向かって彼女は駆け出した。咄嗟に止めようとしたミツルだったがミネの足は速くあっと言う間に一目巨人サイクロプスの間合いに入って行った。

 「いち!」

 ミネは拳を繰り出し一目巨人サイクロプスの腹部に打ち込む。拳を打ち込まれた一目巨人サイクロプスは動きが止まり体がくの字に曲がる。

 「に!!」

 続いてわき腹に打たれた二撃目で一目巨人サイクロプスはミネとの身長差を埋めるように前かがみの体勢になりミネはその顔面に

 「さん!!!」

 三撃目を打つ。一体目はそのまま地面に倒れた。一目巨人サイクロプスは個体差はあるが最低でも身長は2mある。眼前の二体の一目巨人サイクロプスも2m越えの身長だろう。くわえて一目巨人サイクロプスの皮膚は硬く人の拳でダメージを与えられるものではない。そのため通常は魔法攻撃や武器を用いて対抗するのが一般的だ。

 「あいつのあの拳。鉄拳か」

 しかし世には魔法にも武器にも頼らず拳のみで戦う「鉄拳使い」と言う兵が存在する。鉄の如き硬さを誇るその拳は文字通り鉄拳と言う凶器と化す。

 「少女が扱える業ではないのだがな」

 ミツルがそう独白している内にもミネはもう一体の一目巨人サイクロプスにむかって突進していった。次も同じような結果になると思ったミツルだったが一目巨人サイクロプスは後方に跳躍して岩陰に体を半分隠す。

 「逃がしません!」

 追撃するミネに一目巨人サイクロプスの目が妖しく光りそれを見てミツルが叫ぶ。

 「気をつけろ!!」

 ミツルの叫びは空しくミネの動きが急に緩慢になる。

 一目巨人サイクロプスは一つ目の巨人だ。その体は硬く魔法攻撃や武器による攻撃が有効だ。それゆえに武器や魔法が扱えれば倒せる低級モンスターに位置づけられており腕に覚えのあるものならば難なく倒せるだろう。しかし一目巨人サイクロプスの中には目を妖しく輝かせ幻術を見せる幻術使いが存在する。すべての一目巨人サイクロプスが幻術を使えるわけではなくその法則性も不明なため低級モンスターと侮り命を落とすものもいる。

 ミツルは咄嗟に駆け出していた。しかし距離があいているためミツルが全力で走ってもミネを助ける前に一目巨人サイクロプスの一撃がミネの命を奪う、はずだった。

 「嫌ああああああ!!!」

 幻術で混乱したミネは誤って一目巨人サイクロプスが隠れていた岩に拳を叩きつける。岩は粉々に砕かれ一目巨人サイクロプスはそれに怯みその攻撃はミネの腕にかすり傷を追わせる程度に留まった。その後岩を砕かれたことにビックリしたのであろう、硬直する一目巨人サイクロプスの姿があった。

 その一瞬をミツルは逃さなかった。腰に掲げた護身用の剣を抜き一撃で一目巨人サイクロプスの目を突く。絶叫とともに後ずさりした一目巨人サイクロプスはそのまま倒れ絶命した。

 「あ、ああぁぁ」

 そして地面に倒れていたミネはそのまま意識を失った。

 「これが鉄の如き拳か」

 ミツルはそう呟いて地面に倒れた少女を抱き上げた。


 ※


 闘技場と呼ばれるところに私はいる。円形の戦場リングに二人の闘士が対峙している。戦場は高い壁に囲まれておりその壁の上は階段状の作りとなっており各階段を埋め尽くす人が座っている。いわゆる観客席だ。


 戦場リングの中は生死をかけた戦場。高い壁が世界を隔てているようだ。


 対峙する闘士どれい、その一人は私。もう一人は身長180cmはあるだろう大柄な男だ。そんな私たちをみてマイクを持った男性が声を上げる。


 「さあ、今日のメインイベント!鉄拳使いの少女拳闘奴隷・ミネ!!そして同じく無敗の鉄拳使いにしてこの闘技場の頂点チャンピオン!マグライザー!!期待の新人と最強の古参!誰もが夢を見た対決の瞬間だ!!」


 歓声が闘技場の中を覆う。


 対して私は自分の両肩に乗ったプレッシャーを感じていた。闘技場最強の男。こいつを倒さなければ私は、いや私たちは前に進めない。


 (必ず勝つ)


 そう決意した瞬間戦闘開始のゴングが鳴った。


 ※


 ミネは辺境の小さな村の領主の娘だった。辺境とは言え領主の娘であったミネには村の子どもたちとは異なり気品があった。しかし不幸な事件で彼女は両親から引き離され人買いに売られて奴隷となった。

 そうして奴隷になってから彼女は奴隷にも種類があることを知った。ミネが奴隷として引き取られた雇い主は「労働奴隷」としての役割を担っていた。労働奴隷とは自分の領地の労働力を補うためのものだ。そこで朝から晩まで重労働を課された。建物の建築や補修。そう言った人手のいる労働力としてミネは労働奴隷に従事した。男女比は6対4と女性が少なかったがその比率が一方に偏りすぎていなかったことはミネにとって幸運だっただろう。

 しかしそれが裏目にでてしまう。ある日奴隷商人兼他の村の領主が訪れた。そしてミネをみて一発で気に入り買い取ったのだ。

 そうして新たな領主に買われたミネは「拳闘奴隷」になった。闘技場と呼ばれる場所で戦い観客を喜ばせる。それが「拳闘奴隷」だ。気品と美しさのある奴隷が戦う姿というのが観客に受けると言う理由でミネは買われていった。そこでミネは半年間「拳闘奴隷」としてデビューするため拳技を習った。それがミネが鉄拳をもつ理由だった。

 硬く弾力のある魔石で作られた板をひたすら拳で叩き続ける。そんな日々が続いた。最初は皮が剥けて血が出て拳を振るうのも嫌になった。しかし訓練を休めばその場で殺されてしまう。ミネはまさに拳が砕ける思いで訓練を続けた。そうして鍛えられた拳は鉄拳となっていった。

 個人差はあるが鉄拳が出来るまで最低数ヶ月から半年。その間ミネは拳を磨き続けた。それは生きるために行った事だった。奴隷になってからミネは必死に生きた。生きて生き延びて目的ふくしゅうを果たすために。

 やがて「拳闘奴隷」として名が挙がってきたころ闘技場でミネは有名な拳闘奴隷となっていた。自分と同じ境遇にある子どもたちと手を組み屈強な男たちを跪かせ、その時はやってきた。

 拳闘奴隷の反乱だ。仲間と結託して闘技場を抜け出したミネは自分の村へとやってきてギラと言う男と会い魔剣の話を聞いた。そして・・・。


 「ここは」

 ミネが気付くとベットの上で寝ていた。

 「私は!!」

 自分が一目巨人サイクロプスと戦っていたことを思い出し起き上がる。しかし部屋の中は静かでその静けさがミネを落ち着かせた。

 「気が付いたか」

 そこへミツルが部屋に入って来た。テーブルに食器を置き自分は椅子に座る。

 ミネが最初にミツルとあったときの印象は、黒髪短髪の男性であること。次に目はやや吊りあがっており少し人相が悪く、口元はへの字に曲がっていて愛想を感じないと言ったところだ。

 しかし椅子に座った眼前の男性の口元は緩み少年ぽさが感じられるとミネは思った。

 「こっちへ来いよ。飯にするとしようぜ」

 もっとも人相が悪いのに変わりはなく、ミネはそう言うミツルの言葉の裏を警戒してその誘いを無視して周囲を見渡した。そこで自分の右腕に巻かれた包帯に気付いた。

 「かすり傷だったけどな。一応手当てはしておいた。怪我を治すのにも食事が一番だ」

 再度自分を誘うミツルにミネは従った。食事はパンとコーヒーと言う質素なものだったが、パンの量が多かった。明らかに二人で食べれる量ではなかった。

 「凄い量のパン、ですね」

 「村の人からのおすそ分けだ」

 「村の人?」

 「ここから少し歩いたところにある村だ。包丁や鍬を作るかわりに食料を貰っている」

 「そうですか。頼りにされているのですね」

 そう言うミネの表情には復讐者としての面影は一切なかった。あまりにも真逆な表情を持つ彼女にミツルはどこか良いところのお嬢様かと勝手に解釈したがその勘は当たってた。

 一通り食事が終わりミネは口を開く。

 「あの、魔剣を作って欲しいと言う私の依頼なのですが」

 そう聞かれてミツルは即答する。

 「悪いが俺は俺のためだけに魔剣を作っている。他人に作るつもりは無い」

 「そうですか。ではあなたがその気になってもらうまでここに住まわせてもらいます」

 「何だと」

 「料理とか洗濯とかは一通りこなせます。それであなたの気が変るのを待ちます。それまでは何でも手伝いますよ」

 そんなことをしてもミツルはミネに協力するつもりはなかったのでその事を再度伝えたが、それでもミネは「魔剣を作ってくれるまでここに住まわせてもらいます」と言ってミツルの家に泊まりこむことになった。

 それからミツルは「何でも手伝う」と言って来たミネを武器作成の材料集めを手伝わせることにした。

 火をおこす為の薪を集めたり、魔石を作るための石や魔石の採取も手伝わせた。そんな中でミツルは久々に共同作業というものを実感していた。魔剣鍛冶の師の元から独立してから、ミツルは一人で生活を続けてきた。それゆえ誰かに頼ることもしなかったししようと思わなかった。そんな状況があったため誰かと同じ作業をするということがとても懐かしいことだと感じた。

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