六本の魔剣 ~積年の想い ~
床に倒れたコルケをロミアに任せてミツルとギラとメリアンはブロドのいる部屋に入っていった。
「妹を倒してきたのか。今回の侵入者はなかなか手ごわいな」
部屋の中には椅子にもたれかかるように座ったブロドがいた。ブロドは20代後半だが、荒れた肌と肥えた体が年齢より上に見せていた。
「ブロドっ!!」
メリアンが声を荒げブロドに魔法を放とうとするとギラがメリアンを抱えて後方に跳ぶ。ミツルも魔剣を抜いて後方に跳んでいた。そしてミツルたちがいた場所に穴があく。そこには凶暴な獣がミツルたちの前に立ちふさがっていた。獅子と羊の頭を持ち蛇の尾を持つ獣、合成魔獣がそこにいた。
「その合成魔獣は特製か」
合成魔獣をみたギラは目を見開いてブロドに問いかけた。
「ほう、さすがは国の手の者だ。詳しいな。そうだ、これが俺たち兄妹が長年改良し続けてきた傑作だ。侵入者だ。皆殺しにしろ」
「了解しました」
「「合成魔獣が喋った!!」」
驚くミツルとメリアン。一方でギラが怒鳴る。
「傑作だと!ふざけるな!」
いつになく声を荒げるギラにミツルは眉をしかめる。いつも冷静で飄々としたギラがここまで感情をあらわにするのが珍しいからだ。それほどあの合成魔獣を敵視していると言う事だろうか。そうミツルが思っている間にギラは話す。
「合成魔獣は通常獅子と羊と蛇を掛け合わせたものだ。しかしそいつは人語を話す。つまりその合成魔獣に他のものが移植されている」
「さて、どうだろうな」
ギラの真意を分かっていると言いたげなブロドの不気味な笑みにギラは怒鳴り続ける。
「人語を理解するということは人間の体の一部が合成魔獣に移植されているんだろう。そしてその体の一部とは、脳だ」
「ククク」
まるでギラの指摘を楽しんでいるかのようだ。一方でミツルとメリアンは合成魔獣に移植されたものを聞いて驚く。
「人間の脳を、合成魔獣に、そんなことって」
「下衆め」
二人の反応にブロドは笑う。
「おいおい、人でなし呼ばわりは止めてくれ。こうみえても弟思いの兄なんだからさ」
ブロドのその一言を二人は理解できずにいた。ギラが同じ剣幕で話し始める。
「ブロド兄妹は三人。長男ブロド、長女イピーア、そして次男クレイ。ブロドとイピーアは正室の子だ。だがクレイは側室の子だった。そしてその確執は他の貴族よりも根深い」
「ちょっとまて、何を言っているギラ!」
何かを察したミツルはギラに向かって声を荒げる。
「こういう奴なんだブロドの一族っていうのは。魔道帝国・ドングラーは強力な怪物のでる地域が多い大国だ。それゆえに各地に力のある貴族を配置して防衛に当たっている。中でも南端の地域を防衛するブロドの一族の先祖は元々力の弱い魔術師だった。それを禁断の術で怪物から魔力を吸い取ることで力をつけ貴族にのし上がった。しかしそれが合成魔獣研究へのきっかけになってしまう。ブロドの一族は「身内を合成魔獣とする術」を実行してきた一族だ」
そこでこれまで呆然と話を聞いていたメリアンが悲痛な声を上げる。
「そんな!自分の家族を合成魔獣に。でもじゃあ、私が最初にあった時にみたクレイさんは!!」
「あれは、複製人間だ。キマイラ研究の副産物だ」
ブロドの返答にメリアンは口を覆う。対照的にギラはさらに追求する。
「この合成魔獣に移植された脳はお前の弟・クレイのもの。そしてそれに上位人狼の牙も移植するつもりだった、違うか!!」
「その通り!良く調べたな、さすがは国の犬だ。上位人狼の牙が手に入らなかったのは残念だが、お前達を倒すには十分な強さだ」
「外道め!そんな非道な手段で生まれた化け物なんざ、俺が滅してやる!!」
ギラは怒号とともに魔法を放つ。
「ソニック・コンフュ!」
音波で敵を混乱させる風の中魔法。だがその音波を合成魔獣は自身の咆哮でかき消す。
「ボム・ラッシュ!」
続けて合成魔獣は炎魔法であるボム・ラッシュを放つ。複数の小さな火の玉が放たれ触れたものに炸裂して爆破する炎魔法の中魔法だ。
「魔法を扱えるのか!怒王焦滅剣!!」
ミツルは魔剣から炎を出してボム・ラッシュを相殺する。
その間にも合成魔獣はミツルに接近し凶悪な獅子の口を広げて噛み付いてきた。
「怒王焦滅剣・激突炎焼斬」
魔剣の刃が合成魔獣の牙に触れた瞬間爆発がおきる。合成魔獣は後退しお互いに距離を取るが爆発をくらっても合成魔獣は傷一つ無かった。
「ウインド・シャックル!」
アルファベットのDの形を模した風が合成魔獣の後足につけられる。ギラの放った魔法は敵の俊敏さを封じる枷を作る風魔法だ。
「今だ!」
「ストーン・ブレイク!」
ギラの指示で待機していたメリアンが魔法を放つ。大きな岩で敵を攻撃する土魔法だ。大岩は合成魔獣の腹部に当たり合成魔獣を壁際まで吹き飛ばす。
「ストーン・ブレード!」
石を硬質化させて剣を作る土魔法でメリアンは追撃を仕掛ける。しかし反撃の態勢に移るのは獣である合成魔獣の方が早かった。壁際まで吹き飛ばされた合成魔獣だがすぐに体勢を立て直し、床を走ってメリアンの背後に回り前足を突き出し襲い掛かる。
メリアンはストーン・ブレードで合成魔獣の攻撃を防ぐが、ストーン・ブレードを打ち砕かれ攻撃をまともに喰らってしまう。
「きゃああっ!!」
床を転がるメリアン
「ウインド・シャックル!」
メリアンを攻撃したことで出来た合成魔獣隙を突いて前足にも枷をつけるギラ。合成魔獣は枷を外すために魔力を練っていた。その隙に床に倒れたメリアンにギラが近寄る。
「大丈夫か!」
「はい、これくらい、何ともありません」
そういって強がっているのは目に見えて分かるメリアンだったが、震える両足で立ち上がる。
「君は少し後ろに下がっていたほうがいい」
「いいえ、この戦いは誰にも譲れません。だって、だって私はもう兄さんに会うことが出来ない。どんなにどんなに願っても、もう二度と、私は兄さんに会えないし話もできない!!」
その一言は絶叫だった。メリアンが合成魔獣を見る形相が凄まじい表情へと変っていく。同時にミツルの背中にも変化があった。それはメリアンとイピーアの戦いの時から兆候があった。
「私はそうなって後悔した。こんなことになるならもっと兄さんと話しておけばよかった。大切な話も他愛ない話も、そんな兄さんとのつながりを断ったお前を!私は許さない!!」
兄を失った恨み、そしてもう兄と語らうことの出来ないことから生じる後悔
。そんな彼女の念がミツルの背中の魔剣と共鳴していた。まるで魔剣がミツルの元からメリアンの元に行きたがっているようだった。
先ほどメリアンとイピーアとの会話で兄を失った悲しみと後悔を口にしたメリアンに塵王砂門剣が反応していることを察したミツルは二人の会話に割って入った。それは自分の復讐のために使う魔剣がメリアンの言葉に反応したことを危惧したからだ。
だがミツルは再度メリアンの感情に反応する魔剣を背中から抜いた。
「お前の後悔の念、よく分かった。俺の魔剣だ。だが行きたいと言うなら行け。お前の感情は俺の感情でもあるのだから」
ミツルがそう言って魔剣を掲げると弾かれるようにメリアンの前に飛んでいく。
「これは!?」
「君の後悔の念に共鳴した俺の魔剣だ。使うといい。名は塵王砂門剣だ」
驚く間もなくメリアンに合成魔獣が襲い掛かる。
「私に力を貸して!塵王砂門剣!」
メリアンが塵王砂門剣を持つと砂が発生して盾となり合成魔獣の攻撃を防ぐ。
「やああああ!!」
そのまま盾打の要領で砂の盾を合成魔獣に打ち付ける。わずかに怯んだ合成魔獣にメリアンは攻撃の手を緩めなかった。
「塵王砂門剣・封岩飛礫斬」
無数の小石が空中に出現し合成魔獣に向かって打ち付けられる。普通の人間ならば全身打撲になるその攻撃を受け合成魔獣は倒れなかった。しかしその攻撃の本領は別のところにあった。無数の小石は合成魔獣の体に張り付きその動きを封じていたからだ。
「やあああ!!!」
そして塵王砂門剣を振り上げ、無防備になった合成魔獣の羊の頭部へと振り下ろす。羊の頭部は真っ二つに斬られ血を流す。
「ウオオオオオオン!!」
それは獣か人かどちらの絶叫だったのだろうか、合成魔獣は絶叫と共に倒れしばらく痙攣したあとで動きを止めた。
「よく羊の頭の方に人間の脳が移植されているのだと気付いたな」
「獅子の頭は積極的に攻撃を仕掛けてきました。けれどそれはまるで羊の頭を守っているようでした。だから羊の頭の方が本体だと思ったんです」
「ふむ、もう少し頭を捻る必要があったな」
そうして合成魔獣が倒されてもなお動こうとしないブロドを見てミツルもメリアンも怪訝に思った。それを察したギラが二人に話しかける。
「ブロドは現在、頭より下の体を自身の意志で動かせない状態にある」
そんな唐突な事実を聞かされて二人は驚く。
「最初は足が動かなくなったらしい。その後下半身が動かずそれが上半身まで及び、やがて首より下が動かなくなった」
「どうして」
メリアンの疑問にブロド自身が答える。
「これが我ら一族の運命だ。我々の先祖が合成魔獣研究を行っていたことは聞いたな。数多のモンスターを合成魔獣の実験にしたことでモンスターたちから恨みを買った先祖はモンスターから我々一族に呪いを掛けられた」
「呪い?」
「そうだ、生まれてくる子どもは大人になるにつれて体の自由が奪われていく呪いだ」
「!!!」
「そうして奪われた体の一部をモンスターの体の一部で代用することにした。そのことも呪いをさらに強めて行くことになるとも知らずにな。呪いは生まれてくる子ども全員に及ぶわけではなかった。しかし呪いを受けなかったものは自分が呪われたくないため合成魔獣の研究から身を引いた。一方で呪われた子は自分の体の代わりを見つけるために合成魔獣研究を続けざるを得なかった。それが更なる呪いの種になると分かっても自分の体を欲した我ら一族は合成魔獣研究に没頭した。そしてその結果がこれだ」
そう言ってブロドは苦笑する。
「クレイは優しい子だった。動物やモンスターを実験材料にする合成魔獣に反対しつつも体の不自由な俺のために義手や義足を作る技術を勉強していた。あいつは本当に純粋な思いで我ら一族と合成魔獣の呪いに立ち向かおうとしたんだ」
「そんな弟さんをどうして」
「弟の作る義手や義足よりも合成魔獣研究で得られる体の方が有用だったからだ」
「有用だった?」
「我らは貴族。凶悪なモンスターより人々を守らなくてはならない。一般の人間の手足では駄目なのだ。モンスターたちと渡り合える強靭な手足と体が必要だったのだ。それを俺が語ると弟は自分からその体を差し出した。そうして作られたのが先ほどの合成魔獣だ。だがそれも倒され俺にはもう何も残っていない。殺せ」
ブロドのその一言にメリアンの瞳が憎悪に染まる。魔剣を手にメリアンが近寄るとブロドは椅子に座ったまま微動だにしなかった。
一方のメリアンは最も大切な兄を奪った張本人、それが目の前にいることで憎しみは広がり殺意が膨らんでいった。
「覚悟!」
剣の先が光りメリアンの腕に力が入った瞬間、兄フィーロスの顔がメリアンの脳裏に浮かぶ。
「兄さん!!」
振るわれた剣はブロドの眼前で止まっていた。そしてメリアンの手から剣が離され床に落ち、メリアンは両手で顔を覆ってその場に座り込む。
「あなたを殺しても兄さんは、戻ってこない。もう、私は兄さんに会えないのよ、うああああああんん!!」
その場で泣き崩れるメリアン。それをブロドは冷たい視線で見ていた。
「殺してくれないのか。じゃあ仕方ない、代わりに俺がお前の兄に合わせてやるよ」
「え?」
メリアンが顔を上げた瞬間ブロドの腹が割れ中から牙を持った怪物が出てくる。
「塵王砂門剣・亀甲砂壁斬」
メリアンが剣を手放した瞬間からミツルは駆け出し床に落ちた魔剣を拾いブロドの腹が出てきた怪物からメリアンを守る技を出した。砂で出来た亀甲型の盾でメリアンを守りブロドの腹から出た怪物は弾かれ腹の中に戻る。
「救いようがねえねな。まあ分かっていたことだがな」
「貴様!その短剣は!!」
ギラはいつの間にかブロドの額に短剣を刺していた。
それはギラが拾っていたイピーアの魔剣だ。
「兄妹仲良くあの世に行きな。それがせめてもの手向けだ」
「止めろ!」
「蛮王赤針剣・毛細根絶斬」
「うああああ!!」
魔剣に全身の血を吸われていくブロドは全身が皺がれてていきやがてミイラのような状態になって絶命する。
「これは複製人間か!!」
絶命したブロドの亡骸を見てギラは舌打ちをした。それは人間のものとは思えない異臭を放ち人ではないものを象ったものばかりがそこにあった。
「ギラさん、これは一体」
異臭に鼻を押さえたメリアンが問いかけてくる。
「合成魔獣研究の副産物だ。ブロドの一族はこうやって複製人間を作って隠れ蓑にして来たんだ。本物は別のところにいる」
そうして蛮王赤針剣をしまいギラはメリアンを見た。
「帰ろう、君の家に」
「はい」
メリアンは割り切れない思いを抱えたまま短くそう答えることしかできなった。そうしてギラがメリアンからミツルに視線を移すとふと違和感を感じた。
「ミツル、帰るぞ・・・ミツル?」
部屋には一つだけ窓があった。
外の風景を見れるやや大きめの窓。実はマジックミラーで外から中を見る事はできないことをギラは部下の報告で知っていた。ミツルはそんな窓の一点を見つめている。ギラはミツルの視線を追った。
そこには一匹の四足翼竜が飛んでいた。それでギラはすべてを察した。
「待てミツル!!」
ギラが声を掛けると同時にミツルは窓を壊し駆けて行った。
※
四足翼竜を見たとき俺は直感的に悟った。
「やつが近くにいる」
それは俺自身の願望だったのかそれとも直感が当たっていたのかそれは分からない。ただ「現実にやつはそこにいた」と言う事実が俺に取って重要だった。四足翼竜を追いかけていくと人々が住む村から外れモンスターの領域に踏み込む。やがて開けた草原に四足翼竜の群れが見えた。その中に俺が倒すべき相手が、暴闘翼竜がそこにいた。
「今度こそ、殺す!!!飛王閃裂剣!!」
一本だけ魔剣を抜いたが背中の魔剣がすべて共鳴したような気がした。
最初に気づいた数匹が威嚇してきたが俺は一頭、二頭、三頭と四足翼竜を斬殺していった。やがて周囲の四足翼竜が脅威だと感じ始め集まってくると数の多さに手間取った。最初の時と同じ状況になりもっと広範囲にもっと殺傷力が高く四足翼竜を斬殺できる魔剣が必要だと理解した。
(前回と同じだと思うな!!)
俺は飛王閃裂剣を振るう。俺が持つ魔剣の数は最初の四足翼竜への挑戦から五倍になっていた。いくら魔剣がたくさんあってもそれを操れる腕は二本しかない。人間にはどう考えても二刀以上の剣は扱えないのだ。だが扱えずとも背負う事はできる。俺は鞘に納めた数本の魔剣を背負える金具と道具を作り背中に複数の魔剣を背負った。
牙をむき襲い掛かる四足翼竜に向けたのは刺突に向いた形の細身の剣、飛王閃裂剣。
風魔法を主体に作った魔剣で風刃による多段攻撃と遠距離攻撃を得意とする。まずはこれで雑魚の四足翼竜を斬殺する。
しかし数の多さから対処しきれない四足翼竜も出てくる。さらにこの段階で雑魚よりも強い中位の四足翼竜と言うべきものたちが襲い掛かってくる。
俺は背中から二本目の魔剣・震王雷吼剣を抜く。重量感のある両刃の大剣で振れば空気が振るえ雷を生じさせる魔剣だ。俺が扱う場合は術者を中心とした半径10m~20mほどにしか効果がなく地形によっては効果が狭くなる。この場所はたまたま草原だったため20m範囲での効果が見込めた。これで近寄ってきた四足翼竜を雷で打ち落とす。
だが四足翼竜はまだまだ数多くいた。飛王閃裂剣を背中の鞘に納め俺は三本目の魔剣・怒王焦滅剣を抜く。炎を発生させる破壊特化の近距離戦用の魔剣だ。肉厚・幅広の剣でその刃に触れれば斬撃と炎熱が敵を襲う。斬ると焼くを同時に行える剣だ。
この魔剣の威力ならば中位の四足翼竜も一撃で倒せる。近距離は怒王焦滅剣、中距離は震王雷吼剣。そして四足翼竜が距離を取ると一刀を納め飛王閃裂剣で遠距離攻撃をする。これを繰り返して四足翼竜の数を減らしていった。
その頃には上位の四足翼竜と呼ばれるものたちも戦闘に参加してきた。このレベルになれば怒王焦滅剣でも一撃でしとめる事は難しい。速さでもなく、殺傷力でもなく、破壊力でもない、別の魔剣が必要だった。すべての魔剣を鞘に納め抜いたのは一本の魔剣。剣先が幅広になっているのが特徴的な塵王砂門剣だ。
「塵王砂門剣・飛噴瀑布斬」
大量の砂が地面から盛り上がり大波のように四足翼竜たちを飲み込む。砂を操つる塵王砂門剣の大技だ。これで大半の上位四足翼竜を戦闘不能にすることが出来た。砂に埋もれても動いている四足翼竜もいるがしばらくは砂に足を取られて脱出まで時間がかかるだろう。
その間に俺は暴闘翼竜に向かって走る。遠近法で徐々に巨大化していく暴闘翼竜の姿に比例して俺の復讐心は燃え上がって行った。
「やっと、やっと届いたぞおおおおお!!!」
ついに暴闘翼竜との対決が実現した。
「塵王砂門剣・飛噴瀑布斬」
先ほどと同じ技で暴闘翼竜の動きを封じようとしたが暴闘翼竜は真っ直ぐにこちらに向かって飛んで来る。そして砂の壁を突破して突撃してきた。
「震王雷吼剣!!」
電撃を放ち暴闘翼竜を迎撃するが何事も無かったかのように電撃を浴びても無傷に飛んで来る暴闘翼竜をみて俺は逃げの一手に映る。
「塵王砂門剣・砂壁遁走斬」
砂の人形が現れそれに暴闘翼竜は爪を突きたてる。砂人形は分身でその爪は砂人形を切り裂いただけだった。戸惑う暴闘翼竜を尻目に俺は砂の中を移動して暴闘翼竜と距離を取る。分身を作りそこに注意をひきつけている間に足元の砂の中を移動する技だ。
(並みの攻撃では駄目だ)
俺は二刀をしまい怒王焦滅剣を抜く。
「怒王焦滅剣・灰燼無情斬!!」
極限まで高めた高熱の刃で敵を切り裂く怒王焦滅剣の中でも上位の攻撃力を誇る技だ。高温の刃はあらゆるものを裂き、刃が離れた後も延焼を起こして敵を焼き尽くす。イピーアを葬ったこの一撃で暴闘翼竜の死角から斬りかかる。斬撃は直撃し暴闘翼竜の体を焼く。
「やったか」
距離を取って様子を見ていた俺は舞い散る火の粉の中で立つそれを凝視する。
「化け物め」
暴闘翼竜は無傷で炎を払った。斬撃を受けた場所は黒く焦げてはいるもののかすり傷一つない。さらに炎で全身を焼いたにもかかわらず暴闘翼竜は何事もなかったかのように俺を睨みつけていた。
「まったくの無傷か。まいったな、俺の魔剣がまったく通用しないなんて」
咆哮をあげて暴闘翼竜は俺に向かって突撃してくる。俺は持っていた魔剣を収め一本の魔剣を抜く。
「お前が頼りだ。無王虚空剣」
俺が最初に作った魔剣・無王虚空剣。通常の大きさの両手剣で特別な力も属性の加護も受けていない、無名の剣。
そんなほとんど何の効果もない魔剣で俺に襲い掛かる暴闘翼竜の爪に斬りかかった。
通常の剣ならば暴闘翼竜はこれまでのように何事もなく斬撃を弾きその爪で俺の命を奪っていただろう。
だが無王虚空剣の刃はまるで豆腐を斬るように暴闘翼竜の片手の爪を斬った。
「ウオオオン!!」
暴闘翼竜は何が起こったのかわからないと言うように咆哮を上げる。その隙に俺は斬りかかる。そのまま剣を切り上げて腕を切り裂く。血が舞い暴闘翼竜は腕を引っ込める。後ろ足のみで立ち上がる体勢になった暴闘翼竜の足を次は狙った。足首の部分から膝までにかけて切り裂く。
再び鮮血が舞う。これまでまったく傷つけることが出来なかった暴闘翼竜の体に次々と傷が出来ていった。
無王虚空剣、特別な力もない属性の加護も受けていない。遠距離攻撃すらも出来ない通常の大きさの両手剣。その能力は
暴闘翼竜を斬ることのみに特化した魔剣。
余分な能力は一切ない。ただ暴闘翼竜を斬ることのみに特化したその魔剣は、大地を砕く鉄拳使いの拳や最上級の超絶魔法でなければ傷つけられない暴闘翼竜の体を斬り裂いていった。
暴闘翼竜が咆哮を上げる中で俺はその足を切り、その翼を削り、その牙と爪を折ったが、それでも荒ぶる暴闘翼竜に俺は苦戦した。
結果、大怪我を負わせることに成功したが暴闘翼竜はそのまま撤退していき他の四足翼竜もそれに付いて去っていった。その時の俺はそこから追撃できる余裕はなくその場で力尽きた。
その後、俺は駆けつけたギラに助けられ救助してから一週間ほど眠っていた。目が覚めてからは再び暴闘翼竜を倒せなかった悔しさが募り涙が出た。
「お前の復讐心は本物だ。本当に戦いを挑むとはな」
そんなギラの言葉も今は耳障りだった。
「だが目的を遂げたいなら冷静になれ。復讐を果たすには冷静さも時には必要だ」
「冷静になれだと、そんなこと」
「よく自分のことを見つめ返してみることだ。復讐を決意したときのことをじっくり考えてみろ」
そう言ってギラは部屋から出て行った。
「復讐を決意した時のことだとっ!!」
俺は今までまともに思い出そうとしなかった過去を思い返した。忘れたくても忘れない仲間を助けれず置き去りにした過去。
※
声が聞えてきた。
「ハウリング・コンフュ!」
モンスターが不快とする音波を出して動きを封じる風魔法で暴闘翼竜の動きが止まる。
ミツルの一番仲の良い友人グルスの声だ。
「俺が音波で動きを封じる。お前は水で足を捕縛するんだ!ハウリング・コンフュ!」
グルスが風魔法を打ち
「ウォーター・レストレイント!」
ミツルが敵の動きを束縛する水魔法を放つ。
「風魔法が打ち消された!ミツル氷魔法だ!」
ミツルは暴闘翼竜の動きを封じようとしたが体が居竦み氷魔法を放てなかった。
※
「うわああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
苦い過去を思い返し恐怖が俺を支配した。
俺に取って過去とは直視できない目を背けたい恐怖でしかない。その恐怖を見続けていれば俺は精神が崩壊しただろう。だから俺はすぐに鍛冶場に篭った。湧き上がる恐怖をかき消すようために剣を打つ。
氷魔法が打てずに友を見殺しにしてしまった俺は本来なら扱えた氷魔法を扱えなくなってしまった。氷魔法を使おうとすると手と体が震え魔法を使うことに体が拒否反応を起こすのだ。
俺は恐れた。暴闘翼竜を倒せないかもしれないということを。復讐を果たせずこのまま朽ちてしまうことを。二回の戦闘を得て復讐を果たせなかった俺の脳裏にそんな不安が過ぎっていた。そしてかつて自分の失態で助けられなかった友があの世で自分を恨んでいるのではないか、そう思った。
今まで俺が目を背けてきた自分の感情。大波のように襲い掛かる恐怖を糧にした魔石から六本目の魔剣を作られた。それが波打つ刀身の魔剣、流王波紋剣だった。
そうして俺は六本の魔剣を背負い今に至る。
※
ミツルの話を聞き終えてミネも沈黙する。何と声をかけいいか分からなかったからだ。それでもミネは何とかミツルとのつながりを保とうと会話を続ける。
「それが魔剣を作った経緯、ミツルの復讐の道のり」
「そうだ。俺が魔剣を複数持つのはそう言った経緯だ。そして復讐は一人で果たす。誰の力も借りない。俺には背中に背負った魔剣たちがいるからだ」
誰も寄せ付けようとしないミツルの言葉にミネは圧倒されたがここで退くわけにいかないと再度思い会話を続ける。
「暴闘翼竜を倒すのは故郷に帰るため?」
「帰ることは出来ない。暴闘翼竜を倒せばもしかしたら受け入れてくれるかもしれないが、俺は故郷に帰りたいとは思わない。ただあの暴闘翼竜は俺の手で倒す。理由なんてない、それが俺の生きる理由だからだ。誰にも止められない」
理屈ではない。それは復讐者としての感情。
「止める気なんてないわ。あなたが進むなら私も行く。たとえ地獄に向かうことになっても」
自分の復讐を手伝ってくれた男性。自分の感情を理解してくれ彼だからこそ彼自身の復讐を止めるなどもっての他だ。だからこそミネは口を開く。
「次は私が手伝う番だから」
「言ったはずだ。これは俺一人でやると」
「でも暴闘翼竜にたどり着くには取り巻きの四足翼竜を倒さねばならないのでしょ。鉄拳は上級モンスターにも通用するわ。私の技量でどこまで通用するか分かないけど」
「ミネ」
「戦いましょう。一緒に。あなたが復讐を果たすために私は何でもしますよ」
そういってミネは決意を固めた。ミツルが何と言おうと自分は彼についてく、その決意を固めた。
「それはそうとして、先ほどの話しから推察するにミツルの年齢は25歳と言う事?」
「ああ、そうだ。そういえばお互いに詳しい年齢の事は知らないな」
「私は18です。つまりミツルよりも7つ年下になるわね」
そう言ってからミネはふと思う。
(ミツルって年上の女性が好みだったりするのかな?)
ミネがそんなことを思っていると内心を察したのだろうか、ミツルが口を開く。
「そうだな。だが年齢なんて関係ない」
「え?!」
ミネはミツルが好意を抱くのに年齢など関係ないと言ったのだと受け取り胸が高鳴る、が
「強さに年齢は関係ない。だからお前の鉄拳が四足翼竜に通用すると言うなら期待しているぜ」
それはどうやら強さに関しての事だった。
「バカ・・・」
ミツルに聞えないようにそう呟いたミネだったが、復讐の手伝いをさせてもらえるのだと思ってまた気持ちが昂ぶった。
復讐者の復讐を手伝わせてもらうのは信頼されているという証なのだとミネは理解していたからだ。