目が覚めると白い病室にいた。
今回の呟きには暴力描写、男女関係の描写があります。苦手な方は閲覧をご遠慮ください。
着想は椎名林檎の「おだいじに」から得ました。
目が覚めると白い病室にいた。…とりあえず、体をねじってナースコールはできるようだ。
飛んできた医師に名前や具合を訊かれながら、一緒にいた人が亡くなったと告げられた。そうか。アイツが死んだのか。私は心の中でほくそ笑む。犠牲は大きかったが、それ以上の結果を生み出したのだ。
妹が病室に飛び込んできた。勤務先に連絡がいったのだろう、そのまま駆けつけたようだった。こんなことになるなんて、お姉ちゃんにまで、と大粒の涙をこぼして謝り続けている。
妹の腕の青痣に医師が気づいたのを見やってから、私はガーゼが付いてない手で妹を撫でてあげた。
看護師から説明を。その後でぶつけた腕も診ましょうと言われ、妹は病室から連れられた。痣が腕だけではないことがすぐに分かるだろう。それが人の手によって付けられたことも。元凶のアイツは灰になった。
私は知らずのうちにため息をつく。ここまで、短いようで長かった…。
両親を早くに亡くし、広い家に二人暮らしの私たち姉妹に、男が転がり込んできた。初めは夢心地だった妹も、日毎に増える酒の空き缶と響く怒号にみるみるやつれていった。
通報したこともあったが、翌日に男が渡す安いケーキと女々しい涙に妹はほだされて、警察も迷惑そうな顔をした。
だから私は待った。男が浴びるほど酒を飲み、拳を振るい、自分の相手をしろと持ちかけるのを。寝室の枕元に口のすすけた空き缶があるのも知っていた。
「それ」だけは付けてと言うと、姉妹そろって同じことを言うと笑われて安心した。妹はコイツの遺伝子を残す気は無いのだ。
幸いだったのは、コイツの好みがうつ伏せの姿勢だったことだ。顔を見なくて済む。女の体が閉じているのは、コイツにとっては当然のことらしい。
慣れた手つきで滑りを良くさせた冷たいそれを不快に思いながら、ひたすらに待った。
早く終われ、早く終われ、早く終われ――。
あとは本当に簡単だった。やかましく鼾をたてる男のそばの、赤くくすぶる小さな灯りを、ちょっと突いてやるだけだった。
炎は私の半身を包み、顔や腕に赤く痕を残した。腹だけ青いものだから失笑ものだ。家の思い出も、傷跡も、すべては炎に浄化された。
今は泣いてばかりの妹も、時間と共に笑顔を思い出していくだろう。その笑顔だけはなにがあっても…。窓からは澄んだ青空が見えた。