1節 店と妖術
私は親に頼まれるといつも寄るスーパーに来た。
「何とか無事に着いたか」
そう呟いて中に入る。するとそこには人形が無数に転がっていた。私はどうしようもなくそれらを踏んで歩いて行く。
店の中を入っていくと、商品の棚にも人形があった。それにしても私以外人はいない。
その時だった。
『メルヘン♪メルヘン♪なにか楽しいことは起きないかな♪例えば店の中に入った一人の男が♪人形を踏んで♪その子達が泣いちゃったりして♪』
店のアナウンスから少女らしき陽気の歌が聴こえてくる。そしてその歌に答えるかのように人形たちが「痛いよ……どうして踏むの……」という泣き声で私に訴えかけてくる。
『あらあら♪かわいそうに♪そうだ♪その痛みを闇に包んであげましょう♪さぁ、お椅子さん♪出番よ♪デビルチェア♪』
何かが隣の棚から聞こえて来る。
(悪魔の椅子……まさかこれって?)
私は持っている本を開いてみた。
『これは妖術だな。日本にもこの魔法が伝統しているとは……』
私は呑気なこの本に対して素早くペンを走らせる。
『感心してる場合じゃない』
『そうだな。だが、私は筆術以外専門外だ』
『この役立たずが!!』
『分かった。お前に技の使い方を教える』
私はこの本に技の使い方を教えてもらった。向こうから禍々しい羽の付いた椅子が私に向かって走って来る。
「そこはせめて飛べよ。無樹緑……」
相変わらず走ってくる。
(漢字間違えたか……)
本によると技名によっては漢字を間違えると発動しないのもある。 それに漢字が多いければ多いほど効果はあるそうだ。
(ならばこれでどうだ?)
「無木良駆」
椅子は私との棚一つ分の間で止まっていた。そして禍々しいオーラや羽は取れてこの店内で見かける木で出来た椅子になっていた。
『お見事♪お見事♪でも人形さんたちはお怒りが爆発しそう♪だって元はそこにいた人間たちなんだから♪その怒りを元に人形たちは動き出す♪あなたを殺すためにね♪ヒューマンアウト♪』
全ての人形がゆっくり起き上がっていく。
(こんなの相手にしてたらキリないんじゃないか?)
私は本に書く。
『どうすればいい?』
『選択肢は二つだ。逃げるか、戦うか』
『勝てる確率はあるか?』
『面白いことを聞くね。だが無いよ、1%しか』
『1%もあるのか……なら、戦うよ』
『お前はバカか?』
『あんた、忘れてないだろうな……タイトルを』
『なるほど、そういうことか……あぁ、もう一度書いてやるよ。この本を持った者は全て変えれる』
『じゃあ、人形たちも解放しなくちゃな』
私は飛び交って来る人形たちに言う。
「全力で行くぞ?人形たち」
私は指で文字を書く。
「無自亞名、無争」
人形たちは私にぶつかることなく、いきなり出来た穴に落ちていった。
「どうだ、お嬢ちゃん?」
「あらあら♪役立たずのクズ共♪」
「来たか……って外人かーい」
金髪のロングヘアに黒いドレスを来た背の低い女の子は言う。
「ハーフよ♪ハーフ♪これからあなたの体もハーフにしましょ♪」
私は背後から殺気を感じたので素早く交わす。
「何だ、これ?」
「ゴミ箱♪それはあなたも刻めば餌も同然♪その名もトラッシュマン♪」
「いや、そこはどうでもいいから。何で刃物持ってんだよ!!」
「人は刃物って言うけどね♪それはほうき何だよ♪凄いでしょ♪」
「殺す気なのは変わんねーだろうが!!」
「だってあなたはゴミだもん♪さぁ、あなたも中へ♪お入りなさい♪」
(待てよ、この子。さっき、人形たちをゴミのように扱っていたような……奴らは人間なはず……)
私は本に書く。
『人形を守りながら戦うにはどうすればよい?』
『向こうの様子を見れば何とかなるだろ?』
『そうか……向こうか。ありがとう』
私は本をしまった。そして話ながら指で綴る。
「お嬢ちゃん、無攻に面白いおもちゃがあったよ」
「お兄さん♪騙されないよ♪さぁ、やってしまいなさい♪……どうしたの?」
「そいつはもう動かないよ」
「まさかあんたが……なるほど、その本を手にしてるということは。あの筆術師なのね?」
「何かダサいネーミング……」
「やっと会えた。私はメアよ、以後お見知りおきを。でも、こうしては居られないわ。逃げて……早く……」
「えっ?」
「いいから!!」
私は言われるがままに店を出た。一応、この勝負は私の勝ちのようだ。
結局、何も買えなかった。
店の外で本を開く。
『先ほどは凄いことをしたな』
『なにが?』
『会話の中にまさか技を組み込んでくるとは……』
『あぁ……』
『彼女の妖術は見た目の判断で説明なしにさせてもらいたい。君が使った技は次のだな。
無樹良駆(無気力 ムキリョク)……木で出来てるなら気力を全て無くす
無自亞名(無地穴 ムジアナ)……その場にいた自分以外の者を穴に入れる。しかし名前が認識できるものに限る。本当はムジナでもある。
無争(無双 ムソウ)……争いを止めるためのポーズとして床に倒れ込む。
そして会話の中に入れてた技がこれだな。
無攻(無効 ムコウ)……攻撃による効果を消滅させる。
この四つだな。早く家に戻った方が良さそうだな』
『なぜ?』
『今日会った眼鏡の野郎が来るぜ』
『マジか?』
『ここで嘘ついて俺が得するか?』
『はいはい、言う通りにします』
そして言われた通りに私は家に向かうのだった。