2節 失われる人々
黒い檻の中から見てもその敵の数と仲間の数の差は明らかだった。私を抜いて二十二人に比べて億単位の人数は多過ぎる。それでもあらゆるところで戦闘が行われている。少しでもここから出られるようになれれば。私はいつまでも繋がっている小さな手の主に向かって言う。
「メアちゃん、離していいよ」
「嫌です、絶対に」
私は一瞬だけ唇を噛み締める。
「メアちゃん、ずっとそばにいてウザイんだよ。キモいんだよ。だからどっか行けよ」
「それでも嫌です」
彼女はそう言っているが、怒っているのは私の掴んでいる手に爪を立てているのが分かる。私だってこんなことは言いたくなかった。それでも言わなくちゃいけなかった。なぜなら、それほど緊急事態だからだ。
「そのまま掴んでろ。お前らは俺らが守る。なぁ、セロリア」
「そうね。あなた筆術あまり使えないのに大丈夫かしら?」
「うっせーよ、ジョルダーの名においてそんなのに頼らない主義なんだよ」
そこにはジョルダーとセロリアさんが私たちを守るかのようにいた。
「ここに来てまで、イチャイチャすんな……だが、お前らのそれを見れて今はよかった」とボスは私たちに向かって言う。
「クロロクロロ。しみじみしてるところ悪いんだけどね。あの世へ行って語りなよ。葉見餓鬼」
「お前の相手は俺だ、クローバー!!」
彼女に向かってボスは駆け寄る。そして体術を駆使して彼女の攻撃を交わしていく。そして彼女に無理矢理抱きつく。彼女が仕掛けていた罠である鋭い弦の鎖がボスの背中をめがけて刺さる。そして貫通してクローバーさんも刺した。彼は私たちに向かって一言かすれた声で「ありがとう」と言って彼女と共に光と化して散った。
「ふざけんなっ!!かっこよく死にやがって!!」とジョルダーさん。
「うっさいから落ち着きなさいよ」
ジョルダーをなだめるかのようにセロリアさんは言う。
(ここから出られれば……)
私は心の中で唱える。すると頭の中で上から聞こえきた声が私に向けて話す。頭が痛くなる。
(出る必要は無い。使っちゃいなよ、アレを)
私はそのまま奴に言葉を返す。
(何をだよ)
(”無我”を)
確かにあの技を使えばたくさんの敵を倒せるかもしれない。しかし目の前にいるメアちゃんを前にしてそれは使いたくない。
(ふざけんな。俺は俺なりにここを出る)
(ふっ。まぁ、頑張れよ)
私は思いっきり片方の拳を黒い鉄越しに強打させる。
「痛っ。すぐに治れよ、いつものように!!」
私は座り込んで両足で蹴っ飛ばす。これも無理だった。しかも態勢を崩したメアちゃんは頭をぶつける。それでも離さなかった。
「離せよ!!」
「……」
メアちゃんは後ろを向いてるまま、無言で立っている。彼女の顔はどんな顔をしているのか分からない。少なくとも喜んだりはしていないだろう。
「メアちゃん、後ろ向いて鍵とか開ける方法探してくれないかなぁ?」
「私のことをひどく嫌ってるならそのままでいいでしょう?このままあなたの手を繋いで死ねば嬉しいでしょうね?」
彼女の爪が私の皮膚を切り裂く。そこから血が滲み出る。血?そう思った途端、セロリアさんがそこから出てきた。思わず頭と頭をぶつけそうになったが。
「メア、離していいよ。そっちに連れてくから」
「お姉ちゃん、ありがとう」
私の手から彼女の手が離される。そして私はセロリアさんの手に連れられてどういう原理かは不明だが、血の中に引き込まれて外に出た。そして後ろを振り替えるとジョルダーさんの手に血が流れていた。
「脱出成功だな。さぁ、反撃開始だ」
「そうですね」
「そうですね?違うでしょ?死ね!!」
メアちゃんは顔をぐしゃぐしゃにして泣きべそをあげている。
「ごめん」
「そう、それよ。その他の言葉はいらない」
メアちゃんは微笑んだ。その微笑みがいつまでも続けばいいのにと思った。しかし今もなお、この近くで失う人々を見ていたらそのようなことが言えないのは口に出さずとも分かっていたのだった。




