6節 櫻木花蓮(さくらぎかれん)
櫻木さんは私たちに二つの剣を向けてくる。
「あなたたちはこの『双』で倒す」
櫻木さんは私たちを見てそう言う。
「まだやる気か。せっかくその姿になれたのに」とボス。
「だからよ。あんたらは私の手で殺すって言ってんのよ」
彼女は私たちを見るなり、睨んでいる。
「お兄さん、傘壊れた」
私を振り返るメアちゃんはいつの間にか手放していた傘を指差しながら言う。
どうやらメアちゃんに助けられたらしい。
「双葉藻擁」
彼女が筆術を使用すると、葉が私たちを包もうとしている。
「間然無攻化」
私とメアちゃんを包もうとしている葉が消滅した。他の二組もなんとか平気のようだ。
「天双即土」
ん?何も起きてない。
「双像力」
彼女は目を閉じる。
今のうちに攻撃できるとでも思ったのだろう。クローバーさんが「葉滅」と言い、葉っぱに包まれた手を彼女に当てようとする。しかし彼女はその場で砂に足の裏で食い止めながら引きずりながら吹き飛ばされるが、「葉止芽」と彼女の後ろに葉っぱの網が出来上がる。彼女は止まった。
ジョルダーさんは「プロテインダイジェスト」と言いながら櫻木さんに続けて拳を握って襲いかかるが、葉っぱで止められる。
「無権」と私は言うが、それでも彼は吹き飛ばされてしまった。
「アニマルキル」とメアちゃんは言う。
櫻木さんの後ろにパンダが鎌を振りかざすが、その歯が折れただけだった。
「双剣舞」
櫻木さんがそう言うと空から剣がたくさん振ってくる。
「無攻化」
空に落ちてくる剣は消えた。しかし……。
「双銃」
私に向かって銃弾が二発来た。腹に二発食い込む。さすがに痛い。
「お兄さん?」
彼女は私の方を振り返った。そしてまた涙をこぼした。
「剣は銃にもなるのよ。あと私……男嫌いだから」
ジョルダーさんが彼女をまた殴ろうと飛びかかったが、彼は彼女の目の前で葉っぱに包まれて動けなくなってる。
「私はここの十武人に入って女だから見下されるのが嫌だったのよ。だからさっきあんたらに見せた奴と契約を交わし彼らをひびられた。そしたらどうしたと思う?彼らは怖気付いて腰抜けてやがるのよ。そしてトップとなったわけ。でも女一人っていうのもなんか窮屈でさぁ。そこにいる女の子を仲間にしようとしたっていうわけ」
「……っなよ」
「お兄さん?」
私の口から大量の血が吐き出る。こんな傷なんて彼女に付けられた傷より痛くねぇ。
「あら、生きてたの?」
「人間ってのは……それでも……ぶはっ……生きて……やがるんだ!!」
私の体に血が大量に吹き出るのが分かる。心臓の鼓動の音も早くなってる。もちろん、苦しい。それでも私は死なない。いや、死ねない。
私はセロリアさんを見る。なんとか立ち直ってそこにいた。私が彼女に目配りすると、分かってくれたようだ。
「そんな体で何をする気だ?」と櫻木さんは言う。
私は血を流しながら今にも倒れそうな体でジョルダーさんの前に着く。
「無限後空」
私の腹の中に入っていた銃弾二つが肉を巻き込んで回転している。そして半回転して外に出た。それと同時に激しい痛みと血が出るはずだと思っていた。しかし血は少し出たものの痛みなどなかった。それよりも前にいた櫻木さんから悲鳴があった。どんな飛び方をしたのか分からないが、私の体内にあった銃弾が彼女の胸に流れ込んだらしい。私と彼女では頭半個分しかないのに。
「ったく。あんたの体はどうなってるのかしら」
いつの間にかジョルダーさんを解放させた鎌を持つセロリアさんがいた。彼女に目配りをさせたのはこのためだ。私が移動する際に必ずジョルダーさんにまとわりつく葉っぱに血が落ちることを知ってたからだ。
私の腹はいつの間にか完全回復していた。心臓も穏やからしい。
「これが……あんたら……と私の……彼女を……思いやる……差か……」
彼女は口から血を吐いてるようだ。
「クロロクロロ。お主、わちと似た技を使用するなぁ。その点を踏まえて……」
クローバーさんがにこやかにこちらに近寄ってきた。
「見逃してくれるのか?」
「やだ」
不気味な音を流しながら彼女は頭と体と手足をバラバラに切り裂かれた。
私の顔にも返り血が降りかかる。
「出たよ、副隊長の悪趣味……公開処刑」とジョルダーさん。
「あのにたぁってする顔、夢にまた出てきそうだわ」とセロリアさん。
とにかく彼女に勝ったのだ。よかった。私の目の前は暗くなった。
「おに……おにぃさ……お兄さん!!」
私はその声で目が覚める。そこにはメアちゃんがいた。
「三日寝るとはな。怒るにも怒れなかったぜ……ん?」
ジョルダーさんの声を聞きながら私はお腹を鳴らす。
「その前に飯を食うか。よし、メア、手伝え」
そう言ってジョルダーさんはメアちゃんを連れて行く。
それと引き換えにセロリアさんが来た。私の椅子に座る。そして布団に寝ている私をじっと見つめる。
「……」
「……」
セロリアさんが黙っていられると私も困る。あの時に叩かれたことを思うとなんも言えない。それでもしっかり言わなくては。私の想いを。
「あの……」
「あの……」
私とセロリアさんは同時に言った。
「お先にどうぞ?」と私は言う。
「いえ、大したことじゃないのでそちらさんからどうぞ」
セロリアさんは私に嫌そうに言う。まだ怒ってるのだろうか。さよならと言ったからあの言葉で喜ばすか。
「セロリアさんの思いを分からずにごめんなさい。そしてただいまです」
「ごめん。やっぱり臭っ」と彼女は立ち上がるなり、そのまま部屋の外に出た。
おい、先ほどから嫌になってたのそれかよ、と思いながら自分の体を嗅いでみる。確かに臭かった。あのままの服装のまま布団に突っ込まれて三日分放置されたのだろう。
「ありがとう。そしておかえり」
彼女はそう部屋の外の壁越しから私に聞こえるくらいの声でつぶやく。
そして私は風呂に入ることにした。その前に一通り例の本を眺めるのだった。そこの文はちょっといつもと違う気がしてきたのは風呂に入りながら思うのだった。




