4節 卑怯者
残された二人を相互に見る。どちらも余裕そうな顔である。
「では、三人の方引き続き始めます」
そう言って審判である女性は図書室で遭遇した女から順に時計回りに一枚ずつ回ってくる。私の手には十八枚のカードが来た。
「大富豪の女性の方は最下位カードを、大貧民の眼鏡さんは最上位カードを二枚ずつ交換してください」
「あの私は?」
私はなんとなく聞いてみる。予想はしていたが。
「うるせぇよ、凡人。トランプ交換しないだけありがたいと思いなさい?」
審判の女性は真顔かつ棒読みでそう言う。
何、この審判。感じ悪っと思うながら待つ。
マークは見えなかったが、三が二枚と二が二枚移動していた。
「では、大貧民の眼鏡の人からどうぞ。その次は凡人で」
審判の女性はそう言う。
「海塚!!お前のおかげでこんなの出来るんだぜ?」
そこには五枚のカードが出揃う。数字は同じ。その中にはダイヤの五が二枚。そのカードは私があの時に交換したものだ。
「これってありなのか?」
私は審判に聞く。
「ありです」と真顔で審判の女性は答えた。
私も女性も何も出せなかった。唯一出せる五枚のそれはそれだけだったからだろう。
「そして女。お前のおかげで揃ったぜ」
そこにはトランプの数が三を三枚出される。ハートとダイヤとクローバー。
私はその上に六を三枚置く。クローバーではなく、スペードを置いたため縛りはない。
「カードを交換したのはあなただけじゃないわよ」
彼女もその上に二を三枚置く。クローバーとスペードとダイヤだ。
誰も置くことは出来ない。
ハートの七とクローバーの七を二枚出してきた。
メガネ野郎はそれを同じマークの八切りで落とす。
「さて、これはどうかな?」
彼は十三を四枚出してきた。彼の手札に数字の塊が綺麗に揃っているなぁとつくづく思いながらトランプのAと書かれた一を四枚出す。他に出せる者はいない。
私はダイヤとスペースの八を出す。八切りでまた出せない。
そして十二を四枚出す。
「やるな?」
メガネ野郎は私を褒める。なんかむかつく。
ジョーカーってこんな使い方もできるよな。私はハートの九とダイヤの九を二枚出しその隣にジョーカー二枚出す。私の手元には最後の一枚が残る。
「私の手札が多いわ。みんな、燃えてしまえばいいのに……火狂物」
彼女の持っているカードが全て燃えた。
「さぁ、お嬢ちゃん。カード下さいな」
「えぇ、あげるわ」
審判の彼女はにこやかに笑って言う。
「えっ?」
「ほえ?」
私とメガネ野郎は驚いた声を出す。というか「ほえ?」って何だよ。
彼女は下に落ちた。
「魔法など使用してもいいとかは言いましたけど、負けるからと言ってそのような使用の仕方は認めてません。残念でした、このブスが!!」
私はこの時、男には分からない女同士の争いが密かにあることを改めて知らされた。目の前にいるメガネ野郎もそうだろう。なぜなら、顔が青ざめているからだ。だって審判の女性の顔が人間とは思えないような笑いの顔で私たちのテーブルを見ているのだから。まるでサキュバスが私たちを血を吸うのを笑いながら伺っているかのように。
「この試合は終了です。トランプの残りの数で決めさせていただきます」
「はい」
私たちはそう言わざるを得なかった。顔が怖すぎる。夢に出てきそうだ。
「あなたが大富豪。メガネの人は大貧民で行きたいと思います」
「はい」と私は微かに絞り切った声で言う。
「あぁ……」とメガネ野郎も同じようにしてそう言った。
サキュバスのような女が見ているこのテーブルでの最後の決着が始まろうとしていた。相手は結局、最後まで残ったこのメガネ野郎と。




