2節 開幕
私が学校の校門を踏み渡ろうとした時、その境となる部分に一人の女性が立っていた。
「止まれ」
私はメアちゃんを引っ張りながら止まった。
「この境目を踏み握ったら最後。君は命をかける覚悟はある?ないのなら、そこを踏まず去れ。あぁ、学校の出席システムはこちらが管理しているから安心しろ。本日は誰も欠席しない。もしあなたがここを通るなら……楽しみましょう?」
なるほど。今日は何かあるらしい。聞いてみるか。
「あの、質問ですが何があるんですか?」
「人の死」
「え?……いや、そういうことじゃなくて何のイベントなんですか?」
「うーん、運がよければ金を貰えるイベントかな。私たちはこれを『マニーロワイヤル』と呼んでるけど。ってか去年とかもやってたわよ?」
去年ねぇ。その時はまだ筆術なんてないよ。
「そうなんですね」
「あの……後ろにいる子はあなたの子どもですか?」
この女性、何言ってるの?メアちゃんの掴んでる手が痛いよ。どうしてくれるの?
「いえ、この子もここの学校ですよ」
「そうでしたか。それは失礼しました。あっ、そうそう決めましたか?」
「自分はここをくぐり抜けます。メアちゃんは?無理しなくていいんだよ?」
メアちゃんはこちらを見て何か言いたそうな顔で首を横に振ってる。そして手を前に押し出している。私に行け、と念じているようだ。
それを見定めた女性は私たちに言う。
「では、それぞれここにあるただのトランプを一枚受け取り、そこを通って下さい」
私はカードが積み重なった彼女の手から一枚のトランプを取り、その境目を踏み入る。メアちゃんも後に続いた。
「では、まっすぐ歩いた建物が会場となっております。では、デスゲームをお楽しみ下さいませ」
私はメアちゃんの手を引きながらまっすぐ歩く。
しばらく歩いたところでメアちゃんに話しかける。
「メアちゃん、どうしたの?そんなに静かになって」
「騙したわね」
「いや、ここ学校だよ?今日は何かあるらしいけど」
「違う。あなたの後ろを歩いてよくよく考えたら制服なんて着てないじゃない。それに何よ、あなたの子どもって。せめてこひひと……こりひと……」
どうやら恋人と言いたいらしい。こちらが聞くのが恥ずかしい。
私は彼女の頭に軽く手を置いて「騙してごめん」と言った。
「それなら『無攻』という技をしてくれないかな?したら許します」
「別にいいけど。なんで?」
「後でわかるから」
私は言われるままにそれを行なった。何も変わらない。
「ふーん、これは面白いじゃない。さぁ、入りましょう」
いつの間にか私たちの目の前に扉があった。いつもの建物とは違う。黄金の建物が。
私たちはその扉を開けた。
そこにはたくさんの生徒たちが集まっていた。どうやらお手洗いや自動販売機などもあるようだ。
「やられたわね」
メアちゃんは先ほど開けた扉を見ていた。しかしそこには扉など存在しなかった。
私たちはしばらくそこで待った。増えるのはそこで待っている時間と人々だった。どんなに探しても入ってきた扉はない。
メアちゃんが先ほどあった扉を目で凝らして見ていたとしてもその扉が現れる雰囲気さえない。
そんな私たちを嘲笑うかのようにアナウンスの声がした。
『皆の者、よくぞ集まった。これから、恒例とも言える『マニーロワイヤル』を開幕する。準備はいいか?金はお前達を裏切らない。さぁ、登ってくるがいい。頂上へ。ひとまず二階へ上がれ。大きな階段が目の前にあるだろう。そこからだ』
私たちはその階段を駆け上がった。しかし人数の混雑でメアちゃんと離れ離れになった。それよりもこの放送の声、どこかで聞いたような覚えがある。
『みんなが登ったのを確認した。よし、選抜ゲームをしよう。その名も『セレクトランプ』だ』
その豪快な声が部屋中に鳴り響くのだった。私は一枚のトランプを右手で握りしめてその声を聞いていた。




