輪廻
巡る季節に、時代に
いくど時空超え、かたち変えても、紅を切望う
霞む記憶。焼け付く想い。こぼれ落ちた記憶。作為的に歪められた運命に気づくことは出来ない。
モズが贄を忘れる様に。
いつしか生まれたお伽噺。誰か見つけて。誰か助けて。
刹那に残る欠片。還って、新たに構成されるまでの。抗えない存在に見つからないよう隠すんだ。
これは神の遊戯
無情にも、無邪気にも振られるダイス
吸い上げられる砂時計
「行っておいで。愉しいお話、待ってるよ」
耳障りな嘲笑いと共に堕とされて
違う女の手を握り、空虚な僕は微笑みかえす。
交錯する道は交わらない。僕を包み込む様に、いつも君は側にいるけれど。
紅い瞳を赤くしてても。君の作られた笑顔に、自分の逸る気持ちに僕は気づかない。
幾度となく重なる既視感が。面影が。僕を襲い、責め立てる。
空費される君の魂は留まることを知らず摩耗していくのだ。それは、人に、鳥に、蝶に、花に。────風に。
いつも気付くのは遅すぎて。
「これが最後のチャンスだよ」
知らない声が嘲笑うように囁いた。
出逢ったのは唐突で。その時ばかりは独りの人生で。僕の片翼はボロボロで。
知らないはずの紅い瞳に愛しさ覚えた。
僕じゃない僕達が紡いだ願い。埋まる欠片。
だけど、つよく強く腕に抱く君からは紅い染みが広がり、大好きな紅は嫌悪の象徴へと変わっていく。降り積もった罪に押し潰されそうになりながら、なお足掻く僕はなんと滑稽に見えるのか。
憎しみと共に思い出した愛しさに餓狼の飢えは満たされ、慟哭が叫び出す。
次の生なんて惜しくはない。────君が助からないのなら。
甘い夢なんて要らない。────僕が救われるくらいなら。
奇跡なんて望みはしない。────あの神に願うぐらいなら。
これは災厄と呼ばれし男の、神殺しの物語。
【追記】
昔々、少年と少女がいた。
2人が暮らしていたのは小さな農村で、異端者に酷く排他的であった。
そのため紅い目をした少女は、村八分にされていた。
でも少年だけは違った。
父親に捨てられ母親に嫌われ、いつも1人でいる少女に、人々の目を盗んでは逢いに行っていた。
その様子を見てた神様がある遊びを思いついた。
少年が大好きな少女に気づかず、他の女とくっつく加護をかけたら、何回目の人生で、少女の存在に気づくだろうかと。
村人たちを操り2人を殺した神様は、新しく手に入れた玩具を改造する。
少女には記憶を忘れられない呪いを、少年には記憶を忘れる呪いと人として少女以外の女と幸せになる加護を与え、下界へと堕とす。
それから少年と少女は何度も生まれ変わったが、いつも結ばれることはなかった。
呪いのことを知らない少女は、気づかない少年を悲しく思ったが、自分だけが前世を覚えているのだろうと、傷む胸を抱えながら静かに傍で見守っていた。
何も覚えていない少年は、次第に違和感を抱くようになっていった。
それもそのはず、死んでからまた新たな人生を歩む、その一瞬の隙に、少女について思い出した大切な記憶を、神様から見つからないように記憶の底へ隠していたから。
時代は進む。
運命は変わらず、転生を繰り返す少年と少女。
それでも変わることはあった。
神の加護がある少年は人のまま生まれ変われたが、呪いしかない少女の魂はどんどん擦り切れて、ついには生物にさえ生まれ変わることが出来なくなっていった。
そして最後の最期。
少女の魂が消滅する寸前、奇跡的にまた人間へと生まれ変わることが出来た。
そのときの少年は若く、学生であった。
神様は使い古した玩具に飽き始め、まだ加護を発動させてはいなかった。
好条件が重なったとき、少女は少年の前で事故に遭った。
少女から流れる血のあか。
そして思い出す、かつての記憶と今までの記憶を。
フィナーレを飾るにふさわしい悲劇に、さぞあの神様はお悦びだろうと。
全てを思い出した少年は何を思い、何をしたのか。
それは誰も知らないお伽噺。