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異世界で革命指導者  作者: 月無し
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理不尽からの反抗


「……連絡が途絶えた、だと?」


「はい。増援に出した者たちとも先程から音信不通で……」


 街外れにある荷馬車置き場。本来なら十数台は置いておける場所なのだが、現在はやたら豪華な荷馬車一つに占有されている。

 それこそゼルエンが贈答用として他の貴族へ送る品物を載せた荷馬車であり、その周囲を三人の騎士が守っていた。だがその表情はどれも優れない。


 理由は食事に向かった三人が緊急性の高いトラブルに巻き込まれ、その救援として八人の騎士を向かわせたのに、どちらからも連絡が途絶えたためだろう。


「一体何があったというのか……」


 隊長格と思しき初老の騎士が顎に手をやり考え込む。その横にいたまだ若い騎士が顔を真っ青にしながら、


「そ、そもそも第一報からして「騎士が一人やられた」という聞き捨てならない内容だったんです。まさか全滅したんじゃ……!」


「馬鹿言え。だからこそ八人もの騎士を一度に向かわせたのだぞ。……とはいえ想定以上のトラブルに見舞われたのは間違いなさそう、か」


 数十秒考え込んだ隊長格は、何かを決定したのだろう顔を上げ、


「やむをえん。偵察を出そう。ルーイック。様子を見てきてくれ。もし何事かあれば速やかに戻って来るのだ」


 しかし待てど暮らせど返答がない。

 思わず隊長格と若手の騎士が顔を見合わせる。そういえばもう一人いるはずの騎士が先程から会話に加わっていないことに遅まきながら気が付いたようだ。


「ルーイック! 返事をしろ!」


 声を張り上げながら周囲を歩き回る。程なく探し人は見つけられた。


「ルーイック、そこにいたか。一体座り込んで何を……ッ!?」


 声が驚愕に取って代わる。仕方ないだろう。何せさっきまで一緒にいたはずの騎士の首から短剣が突き出ているのだから。


 ヒィ! と悲鳴をあげる若手の騎士と違い、初老の騎士は即座に剣を抜いて警戒を強め――、


「……遅い」


 何が、と声を出すことも出来ないだろう。ルーイックと呼ばれた騎士同様に喉を切り裂かれては。

 吹き出す血の前方、年端も行かぬ少女の姿がその騎士が最期に見た光景だったに違いない。

 そしてまったく気付いていなかっただろうが、追従していた若手の騎士もまた同様に喉を裂かれて後方で既に事切れていた。


「うーむ。末恐ろしくなるほどに鮮やかな手際だな」


 その一部始終を近場の民家の屋根から見下ろしていた俺は思わず唸ってしまった。


 騎士たちはゼルエン領から荷馬車の護衛でやって来た。つまりいくら危機的状況であろうとその荷馬車の護衛全員を割くわけがなく、つまりまだ残党がいるのは間違いなかった。

 その対処に向かおうとした俺たちを止め、自分でやると言ったのはリリアナだった。

 新たに彼女が得た力を確認する必要もあったし、残っているのも少数。それも良いかと頷いた俺だったが……その結果がこれである。

 元々武術の嗜みはあったうえに、人を殺した経験もある。対人戦で怯むことはないだろうとは思っていたが、それでもここまで速やかに終わらせるとは驚きだ。とはいえ、よくよくリリアナが新たに得た異能力を考えればこれくらいは出来て当然かもしれない、とも思えてしまう。


「まさか『広域掌握』でさえ集中しないと存在を認識出来ないほどとは……」


 シャロンと同様、『才能開花』と『才能増幅』を施したリリアナは複数の異能力を習得した。

 個人的に脅威なのが『探知無効』。リリアナの存在を探知するような魔法や異能力を無効化する異能力で、俺の『広域掌握』も通常状態だと感知出来なくなってしまった。どうやら本人の意思である程度コントロール出来るようだが、目覚めたばかりのリリアナがそんな芸当出来るわけもなく、俺がかなり集中しないとすぐに見失いそうになる。

 更に恐ろしいのが『距離短縮』。字面だけだと何のことかさっぱりわからないが、これは例えば五メートルの距離を本人は一メートル感覚で移動出来るというものだ。つまり傍から見ていると尋常ではない高速移動をしているように見えるという代物だ。

 もう一つ最後に『武装理解(短剣)』。これはその武器において習熟なしに熟練の使い手となれる異能力らしい。そもそも『才能開花』で技術力が最大まで引き上げられている時点であまり効果がないような気がしたが、どうもそういう次元のものではないようだ。


 ともあれ元々持っていた『気配遮断』と新たに得た『探知無効』、『距離短縮』、『武装理解(短剣)』の計四つの異能力を得たリリアナの戦闘スタイルは、


「明らかに暗殺者(アサシン)だよなぁ、これ」


 気配を感じ取れず、探知も出来ず、すぐに間合いを詰められ、短剣の扱いに秀でている。

 持っていた『気配遮断』をより一層活かすような完成されたラインナップといえよう。

 結果騎士たちが対応する暇すら与えずに戦闘を終わらせる様はまさしく暗殺者と呼ぶにふさわしい。


 むしろゼルエンと真正面からぶつかるの止めてリリアナを差し向ければそれで終わるんじゃないか、なんて考えていたところ、そのリリアナがこちらに手を振っていた。こっちに来い、という意味だろう。


 シャロンと頷き合い、屋根から跳び下りる。俺もシャロンも火魔法の『ブースト』が使えるので、この程度の高さから降りても強化された足はビクともしない。

 周囲に騎士以外の人間がいないことは既に『広域掌握』で確認済みなので、こそこそする必要もない。さっさとリリアナの元へ向かった。


「大した手際だったな、リリアナ」


 小さく拍手しつつ称賛したが、リリアナは喜ぶこともなく首を横に振る。


「……貰った力が凄いだけ。でも使いこなせるように努力はするわ。貰った恩はきちんと行動で返すつもりよ」


 返答は淡泊だが、これは単にリリアナの性格だろう。

 現に自分の力を確認するように拳を握り、更に努力してみせると断言するリリアナの表情はとても力強いものだった。


「そうか。なら期待させてもらうとしよう。……で、呼んだ理由は?」


「……荷馬車の中身。見て」


 何やらリリアナの表情が嫌悪に染まっている。

 騎士たちの会話によれば「ゼルエンお気に入りの奴隷」を運んでいるということだったが……見るに堪えない状況にでもなっているんだろうか?

 促されるままに中を覗き込むと、そこにはまったく想像していなかった光景があった。


 荷馬車のほぼ全域を占めるほど巨大で透明な箱。その存在はそこに閉じ込められていた。内部の四隅から鎖が伸びており、うち二つの鎖が翼を、二つの鎖が鉤爪鋭い脚を束縛している。

 奴隷。なるほど奴隷という表現に見合う状況だろう。だが俺はその単語から勝手に人間を想定していたのだが、その認識は甘かったらしい。


 閉じ込められていたのは、顔と胴体のみが人間で、それ以外の部分が鳥の構造をした、いわば半鳥人とでも言うべき存在だった。元の世界の神話に語られるハルピュイアが最も近いかもしれない。

 人間部分だけを見れば、それは少女だった。さらしのような物を巻いていてもなお自己主張の激しい胸と、長い桃色の髪が目立つ。可愛いと言って良いレベルだろう。


 ここは異世界で、魔法が存在するファンタジーたっぷりな世界だ。であればこういった半人半獣といった種族もいておかしくないんだろう、と解釈したのだが……。


「なっ……!」


 同じく顔を覗かせたシャロンの声が強張る。先のリリアナの表情といい、どうにも認識に齟齬がある気がしてならない。


「これは?」


 だから違和感のない形でこの存在が何かを『真理直結』に問いかける。すると返ってきた声は、


『人間と魔獣ロック鳥とのキメラ(・・・)。合成魔法による人体実験による数少ない生存個体の一つ。偶発的な成功例として度重なる実験に利用されるも成果が得られず、後に奴隷オークションに出品されたところをゼルエンが購入。その後に贈答用に送られ現状に至っている』


 まるで頭を殴られたような衝撃だった。


 キメラ。合成。人体実験。オークション。

 聞くだけで吐き気を催す単語の羅列に、感情が昂ぶるのを自覚する。

 だがそれをどうにか自制する。確認すべき重要なことがあったからだ。


「……誰がどういう意図で創った? 本人の意思は?」


『オーゼルン・ゼン・ライナット王が組織した魔法研究部隊が、不老不死へのアプローチの一つとして見出した魔獣との合成実験のために創られた。この実験に用いられた人間は全て拉致されたもので、当人たちの意思は介在していない』


 淡々と事実のみを告げていく『真理直結』に耳を傾けていると、不意に目の前の少女が瞼を開けた。

 その瞳はただ深く澱んでいる。戦時中に何度も見た瞳。それは希望を見失い生きることを諦めた者の目だ。

 口が小さく動く。箱自体が音を遮断しているのか、あるいは疲弊してて声が出ないのか、音として耳に届かないが、言いたいことは容易く読み取れた。


 ――殺して。死なせて。


「……なんでだ」


『鎖に行動阻害系の魔法が組み込まれており、自傷行為が封じられているため』


 勝手に反応する『真理直結』の内容に、拳を強く握りしめる。


 世界は綺麗ごとでは済まされない。あの地獄のような戦争を生きた俺は、そのことを身を以て知っている。

 戦争に勝つためにと、人を人と思わない非道は確かにあった。民間施設の破壊、避難民を見捨てての撤退、捕虜の虐殺……。それを聞く度に、世界を憎み、地獄を呪い、そんなことしか出来ない自らの無力を嘆いた。


 だがそれでも、破ってはいけない倫理というものはあるだろう。

 人間を獣と合成させるなど、人の尊厳を踏みにじる唾棄すべき行いだ。ましてやその理由が不老不死へのアプローチ? いかにも権力者が考えそうなチープなお題のために、多くの人間が犠牲になり、生き残ったら今度は珍品としてオークションに出展され、奴隷として買い落とされる?


「腐ってやがる」


 元の世界でさえ、おそらくここまで憤ったことはない。

 誰が何と言おうとはっきり理解した。この国は、自治領は腐ってる。


 元の世界でもそういう下種な人間はいただろう。だがそれでも極秘裏だったり水面下だったり、ともあれ表沙汰にはされない。少なくともそれが『非道』であるとわかった上での行為だからだ。

 だがこっちは違う。奴隷制度自体は合法であり、人体実験もオークションも何ら隠そうとしない。つまり当人たちにとってこれらは『非道』でもなんでもないというわけだ。何せ皆がしていることだから。

 自国の民を雑草とでも勘違いしている連中だ。おそらくこれでさえ氷山の一角に違いない。一体どれだけの人間が、彼らの供物として踏み潰されてきたのか。


 シャロンも、リリアナも、この子も、犠牲者だ。

 国家を担う存在ならば、民を守るのがその役目だ。軍人として使われ、そして使った俺は、その意志こそが寄る辺だった。例えどれだけ苦しい選択であっても、最終的には国家を、多くの国民を守る道に繋がると信じて戦った。

 そんな俺にとって、この国の在り方は到底許容出来ない。まるで自分の人生、その選択が、考え方が全て過ちだったと嘲笑われているかのようだ。

 ……いや、だからこそ神とやらは俺をこの世界に、この国に転生させたのか? だったとしたら笑うしかない。さすがは神様。素晴らしいシナリオだ。素晴らしいほどクソッタレ過ぎて殺したくなってくる。


 目の前。ただ力なく鎖に吊るされるだけの少女の瞳に俺たちは映っていない。その目に映るのは果てのない絶望だけなんだろう。

 殺せ、と。死なせてほしい、と彼女は言った。身体を散々弄ばれて、人間ではなくされて、挙句に見世物扱いされたことを考えれば、そうなってしまうのも理解出来る。いっそここで殺してやることも一種の救いだろう。


 だが、それで本当に良いのか。


「諦めるのか」


 反応はない。


「生きることを諦めるのか」


 反応はない。


「好き勝手にに扱われて、散々苦しんで、それで諦めて死ぬのか。それで本当に救われるのか」


 わずかに瞳が揺れた。


「悔しくないのか。何も出来ずに消え去ることが。悲しくないのか。ただ使い潰されて果てるだけの人生が」


 視線がこちらを向いた。俺という存在を認識した。


「お前が生まれた結果がこれで良いのか」


「……ない」


 その瞳に火が灯る。


「お前の人生がこんな理不尽で終わって良いのか」


「良いわけ、ないッ!!」


 だがその火は決して明るく力強いものではなく。黒く、鈍い、憎悪の炎だ。その絶叫は、箱越しでさえ耳を貫く。

 何も知らない人間が、偉そうに語るな。そんな激情がハッキリと伝わってくる。だがそれで構わない。例え燃料が憎悪であっても、全てどうでも良いと投げ捨てるよりよっぽど人間(・・)だ。


「私だってこんな人生嫌だよ! どうして私がこんな目に、って、一生懸命抵抗したんだよ! でもどうにもならなかった! お父さんもお母さんも弟も皆変な実験でおかしくされて、人ですらなくされて、私も身体はこんなのにされて、でも生かされて、いろいろ弄られた挙句に用済みだって晒し者にされて……。どうしろって言うんだよ!? どうすれば良かったんだよ!? どうにもならないから、どうにも出来ないから、だったらもう、私は……!」


「だからって投げ出しても、失われるのはあなたの命だけですよ」


 涙交じりの慟哭に割って入ってきたのは、それまで後ろでじっとしていたシャロンだった。

 俺以外の人間がいることに気付いていなかったようで、少女は茫然とした様子でシャロンを見ている。

 その視線をシャロンは一瞬だけ辛そうな表情で、だがすぐに毅然とした態度に直し、見返した。


「気持ちはわかります。私の境遇はあなたに比べれば大分可愛いものでしょうが、それでも理不尽に晒されて日常を壊された人間です。だからどうにも出来なかった無力感、何も出来ない悔しさ。それらは私も感じたものです」


 でも、と足を踏み出す。シャロンは少女に視線を向けたまま俺の横にまで並び、


「この人に教えてもらいました。『自ら何もしなければ決して事態は好転しない』と。だから私は戦うと決めました。ただ好き勝手にされるがままだなんて、死んでも死にきれませんしね」


「……同感」


 反対側にリリアナもまた並んだ。


「……家族を含めた大切な人たちを殺された。それも自分たちの私腹のために。そんなもの認められない。許してなんか、やらない」


 目はやはり前髪で見えない。だがその立ち姿に、言葉に、強い意志が込められている。


「……あいつらになんか屈さない。あいつらになんか負けない。ただされるがままの人生なんて、わたしは全力で否定する」


「だからどうかあなたも諦めないでください。挫けないでください。あなたをこんな目にした連中に……どうか負けないで」


 日常を破壊された二人の少女。その言葉は、きっと俺のものよりよっぽど彼女に届くだろう。

 だがそれでもまだ足りない。彼女は一瞬だけ呆けた後、すぐに首を横に振り、


「……無駄だよ。出来るわけがない。辛くて悔しくて悲しいけど、これ以上こんな思いをするならいっそ……」


「死ぬ、って? ……ならやってみせろ」


 生み出した『フォトンセイバー』で邪魔な箱と鎖を切り裂いた。


「これでお前の行動を妨害する道具はなくなった。死のうと思えばお前は自分でそれが出来る。それがお前の選択なら、そうすれば良い」


 腰から剣を取り出し、それを少女の前に放り投げる。さほど重い剣じゃない。彼女くらいの力でも首を切るくらいは造作もないだろう。


 そんな俺の行動に少女は目を見開き、シャロンやリリアナからも視線を感じた。だが二人は決して口を挟みはしなかった。


「……良いよ。死ぬ。死んでやる。もうこんな人生、これで終わらせてやるんだから!」


 剣を足で掴み、器用に反転させて刃を首に当てる。刃に翼を添えて、あとは引けばバッサリだ。

 ……だが、


「どうした? 死なないのか?」


 少女は、その刃を引けなかった。小刻みに震える刀身は首の皮を裂いてはいるが、そこから動く気配はない。

 だがそんな行動に一番驚いているのは誰でもない、当の本人だった。


「ど、どうして……。本当に、本当に死にたいって思ってるのに、どうして身体が動かないの……?」


 思考と身体が一致せずに困惑しているようだが、何も難しいことなんてない。

 俺は膝を折り、視線を合わせて、彼女の疑問に答えた。


「決まってる。それが本心じゃないからだ」


「へ……?」


「死にたいと思ったのは事実だろう。だがお前は二人の言葉を聞いた。聞いてしまった。聞いて、どう感じた? 何を思った? お前はきっと共感したはずだ。このまま負けたくないと、死にたくないと、そう思ったはずだ」


「な、なんでそんな! 私はそんなこと――!」


「じゃあどうしてお前は泣いている」


「…………え?」


 きっと気付いていなかったんだろう。だが実際その頬には隠しようもない大粒の涙がいまなお流れている。

 慌てて翼で涙を拭うが、止まらない。困惑したように何度こすっても結果は変わらない。


「なんで、なんでぇ……!?」


「誤魔化すな。自分の心から目を逸らすな。怖いんだろ? またここで諦めるのを止めて、王や貴族に抵抗して、それさえもまた折られて絶望に迎えられるのが」


「ひっ、う……」


 苦しみも、生を諦めてしまえば許容出来た。

 だがまた生を望めば、抵抗するのなら、耐え難い苦しみがまた我が身に襲い掛かるかもしれない。

 一度味わった絶望だ。それをまた味わう可能性があるとなれば、目を背けたくもなるだろう。


 だがそれで諦めてしまったら、結局クソッタレな連中の勝ちだ。

 そんなのは絶対に間違っている。だから、


「その恐怖はお前が乗り越えなくちゃいけないものだ。だが、もしもその恐怖を乗り越えられるんなら――」


 手を差し出す。


「俺たちと一緒に来い。お前をこんな目に合わせた連中、全員叩き潰してやろう」


「いえいえ叩き潰すなんて生温いですよ。地獄に叩き落としてやりましょう」


「……そうね。生まれたことを後悔させてあげるくらいにね」


 シャロンとリリアナが同調するように乗ってくる。その物騒な物言いに、いまは笑うしかない。

 だがそれで良い。そのくらいの気概がなければ、この先やっていけないだろうからな。


「……そんなことが、出来ると本気で……?」


「出来る出来ないじゃない。やるんだよ。必ず」


 俺と、シャロンと、リリアナを、それぞれにゆっくりと見渡し、再度翼で涙を拭ってから、


「……あなたたちは酷いよね。見ず知らずの、それもこんな身体の私を、もう良いって言ってるのに、引き上げようとしてくる。私単純で馬鹿だから、そんなこと言われちゃったら……やっぱ望んじゃうよ。生きたい、って。願っちゃうよ。一泡吹かせてやりたい、って」


 顔を上げた時にはもう涙は流れていなかった。

 まだ弱々しいが、それでもそこには人としての活力が見て取れる。


「……私に何が出来るかわからないし、こんな身体ですっごく不便をかけると思うけど、でも、それでも良いのなら……私も、一緒に連れてってほしい」


「あぁ。歓迎しよう」


 おずおずと差し出された翼。その翼上面を掴んだ。握手と言って良いかはやや微妙だな、これは。

 ともあれこうしてまた一人仲間が増えたわけだし、お約束の展開と行こうか。


「それに心配はいらないさ。お前もきちんと戦えるようになる」


「え、それってどういう……ってあの、なんでいきなり近付いて、って、な、なんで顔に手を添えてるの!?」


「もしもいくらかの寿命と引き換えに騎士さえ圧倒できる力が手に入ると言ったら、お前はどうする?」


「はい!? そりゃあもちろん寿命なんて熨斗つけてくれてやりますけどそれとこれと何の関係が――」


「よし、喜べ。力をくれてやる」


「なに言ってるのこの人ー!?」


 なんていうかこいつ、素は随分と明るいキャラらしい。

 それに関係あるのかないのか、こいつの魂の蕾は成長して太陽のような黄色い花を咲かせた。


今回登場の彼女の名前は次回出てきます

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