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異世界で革命指導者  作者: 月無し
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復讐の刃


 リリアナ・セイナード。

 彼女は貴族だった。いや、元貴族と言うべきか。


 彼女が生まれたネイサード(・・・・・)家は、その時点で既に衰退の一途を辿っていた。

 当主、つまりリリアナの父親が無能だったわけではない。むしろ有能であったと言える。

 税収はギリギリまで抑え込み、そのうえで貴族として領地を守るための最大限の活動を行える人物だった。

 そしてそんな父親をリリアナは尊敬し、好いていた。


 尊き領主として領民からも好かれていたが、その方針は周囲の貴族からは目障りなものでしかなかった。

 人であれば生活が楽な地に住みたいと考えるのは自然のこと。ネイサード家の統治が民に優しければそれだけ他の貴族の領民は現状に不満を持つことになる。そして溜まった不満は反逆の種となりかねない。


 だから周囲の貴族はネイサード家に税の釣り上げなどを要求したが、もちろんそれは拒絶される。ならばとネイサード領に対する流通が禁止されるが、それでもネイサード家は方針を変えず、領民もまた苦しいながらに従った。


 そんな折、ネイサード家の隣の領地でゼルエンが爵位を継いだ。

 そして彼は周囲の貴族が止めていた流通を再び開始し、ネイサード家に感謝されることになる。


 だがそれは罠だった。


 しばらくして、大規模な盗賊たち(・・・・・・・・)がネイサード領を襲う事件が発生する。ネイサード家は自前の戦力だけでは防衛出来ないと判断し、ゼルエンに救援を要請。ゼルエンはこれに応えて派兵し盗賊たちを撃退したが、一足遅く(・・・・)ネイサード家は一族全員事切れていた。このためゼルエンは旧ネイサード領を自分の領地に取り込んだ。


 ……というのが世間に公開されている事件の顛末だったが、実際のところは違う。

 もしも事実を知る者がいれば、ゼルエンが救援のために派遣した騎士たちが出陣した時間と、盗賊ということになっている者たちの襲撃の時間が、実際と逆転しているとわかっただろう。

 要は邪魔者は潰すというシンプルな話。現実はゼルエンの軍によるネイサード領の蹂躙劇だった。


 民を守るための騎士が民を殺し。

 領地を守るための貴族が同国の領地に攻め入る。


 誰よりも民を想い、民のために奮闘したネイサード家は、それを快く思わない貴族によっていともあっさりと踏み潰された。

 そんな地獄の中で唯一生き残ったのが、生まれながらに『気配遮断』という異能力を持ち、襲撃者に気付かれなかったリリアナだった。


 彼女もその蹂躙劇をただ見ていたわけではない。女性ではあったがそれでも貴族として武術を嗜んでいたリリアナは自らの異能力を駆使して攻め込んできた騎士の数人を返り討ちにしている。

 だが出来たことはそれだけ。

 尊敬する父を生かすことも、愛する母を逃がすことも、思い出の詰まった家を守ることも、気心知れた従者たちを助けることも、何一つとして出来なかった。


 全て壊された。全て奪われた。

 残されたのは渦巻く憎悪と、燃え盛る怒り。


 ネイサードの家名をもじってセイナードという姓を名乗り、ただただ復讐のために彼女は生きる。




 ☆ ☆ ☆




 俺が『真理直結』で知ったリリアナの過去はなかなかに壮絶なものだった。

 ゼルエンを憎む気持ちも、おそらく声を掛けようと思っている四人の中で最も強い。だからこそこちらの提案に乗ってくれる可能性は高いと思っていたが、まさか俺たちが出向いたタイミングでこんなことになろうとは。現実ってのは時に唾棄したくなるほど間が悪い。


「……お前たちはここで死ね」


 吐き捨てるように呟いたリリアナが奔る。そのスピードは決して速くない。訓練された騎士なら余裕で対応出来るだろう速度だが、


「くっ!」


 騎士が振るった剣は目の前にいるリリアナから随分と横の空を切った。

 視認出来ているのに気配が感じられないから目測を誤ったのだろう。熟練の兵士であればあるだけ、気配というものには敏感になる。だからこそリリアナの『気配遮断』は強者にとってこそ脅威に違いない。


 空いた横腹にリリアナが包丁を突き出す。回避は間に合わないタイミング。しかし、


「舐めるな!」


「っ!?」


 その一撃は籠手の一振りであっさりと弾かれてしまう。


「……まずいな」


 リリアナは自らの異能力を理解している。理解しているが、荒ぶる感情がその有用性を完全に打ち消していた。

 

 リリアナの身体能力はお世辞にも高くない。武術を嗜んでいたとはいえ、それはあくまで嗜むレベル。実際に戦場で戦う騎士とは身体能力も技術も全てが比較になろうはずもない。

 それでもこれまでリリアナが何人かの騎士を倒してこれたのは、ひとえに『気配遮断』の異能力を駆使した暗殺と言っても良いレベルの奇襲があってのことだ。


 だがいまのリリアナは自ら騎士たちの前に身を晒したばかりか、荒れ狂うほどの殺意が攻撃の位置を知らせてしまっている。利点が消えてしまえば、地力で劣るリリアナが騎士たちに勝てる道理がない。

 そしていくら『気配遮断』が優秀で攻撃が当てにくいとはいっても、地力の差を考えれば、


「がはっ!」


 ――遠からずいつかは当たってしまう。


 騎士の当てずっぽうの拳に直撃してしまったリリアナはそれこそ紙のように吹っ飛び、対面の壁に激突してずるずると背中から崩れ落ちる。

 そして一般人にさえ耐久力が劣る少女の身体は、その一撃で既に立つことすらかなわなかった。


 残った二人の騎士がリリアナを囲みながら剣先を突きつける。


「言え。貴様どこの手の者だ!」


 山賊連中とはやはり違う。仲間がやられたからと逆上してすぐに斬り殺すような愚を犯さない。リリアナが何らかの組織に属する者であることを考慮して、その情報を手に入れようと自制している。

 しかもうち一人がビー玉サイズの水晶を取り出して何やら小声で喋っている。あれは元の世界でいうトランシーバーのようなものだったはずだ。近くで待機している騎士の増援を呼んだのだろう。まったく余念がない。


「……さて、どうするかな」


 遠からず、リリアナは捕縛されるか殺されてしまうだろう。

 だがそれを阻止するためには騎士たちを倒す必要がある。リリアナの情報を消し去るためには全滅も視野に入れなければいけない。

 

 しかし撃退にせよ殲滅にせよ、複数の騎士がやられたとなればどうあってもゼルエンに警戒を抱かせることになってしまう。それは今後の行動において大きな痛手となる可能性が高い。


 天秤に乗るのはリリアナと未来の困難。その二つを、俺は――、


「ユウヤ様」


 それまで黙っていたシャロンがこちらの袖を引っ張ってきた。

 続く言葉はない。だがこちらを呼ぶ声に込められた熱と、向けられる眼差しが言葉以上に物語っていた。


 ――彼女を救いたい、と。


「……言うまでもないと思うが、ここで彼女を救う選択は、シャロンの望みを叶える道筋の難易度を上げる結果になる。それでも構わないのか?」


「構いません」


 ただ強く、ハッキリと。それはシャロンらしい即答だった。


「彼女もゼルエンによって人生を狂わされたのであれば、私にとって村の皆と同じようなものです。それに……」


「それに?」


「私がユウヤ様から力をいただいたのは、こういうときに誰かに手を伸ばすためです。助けられる存在を見捨てては、私が私の人生を誇れません」


 その言葉に、俺は元の世界の自分の末路を幻視した。

 抗えない濁流に流されるがままに生きるのは、ただ死んでないだけだ。本当の意味で生きているとは言い難い。

 自ら誇れる道を歩む。彼女がその一歩を踏み出せる一助が出来たのなら……それは、俺にとっても誇れることだろう。


「その言葉を聞いたなら、もう考えることもないな」


「ユウヤ様……!」


 それに元々リリアナを捨てる選択肢なんて俺にはない。

 シャロンを救った以上、リリアナを見捨ててしまえば俺は自分に矛盾を孕んでしまう。

 助けたいから助ける。単純明快。それで良い。後顧の憂いはあるが、それとて難易度が上がるという、ただそれだけのこと。目を背けることはしないが、その程度は力と知恵でカバー出来る範囲の話だろう。

 ならばあとは行動あるのみ。


「あの騎士二人は俺が一人で対処する。シャロンはこの場に残って騎士たちの増援に備えてくれ。リリアナの情報を持って帰られると面倒だ。この地にいる騎士は全員討つぞ」


「わかりました」


 打てば響く返事を耳にしながら、俺は手近に落ちていた石を反対方向に投げつけた。

 カツン、と壁にぶつかった音に騎士二人そちらに振り向く。視線が逸れたことを見届けてから路地を駆け出した。


「『ルミナスアロー』、『ブースト』、『プロテクト』、『ソニック』」


 光の矢を生み出す『ルミナスアロー』を二人に三本ずつ、計六本発射する。狙いはそれぞれ頭、心臓、足だ。これでケリが着けば良いが、さすがにそれは高望みだろう。

 続く『ブースト』は腕力や脚力強化魔法、『プロテクト』は肌の表面に薄い防御膜を展開する魔法、『ソニック』は速度強化魔法、この三種も合わせて発動し接近戦を考慮した身体強化をはかる。


「なにっ!?」

 

 こちらの存在に気付くのが遅れたにも関わらず、案の定『ルミナスアロー』の頭と心臓を狙った攻撃は剣によって弾かれる。だがさすがに足への攻撃までは対処が間に合わなかったようで、二人揃って利き足を貫いた。

 読み通りだな。戦い慣れしている人間は致命傷となる頭や心臓への攻撃へは敏感だ。咄嗟の防御となればより顕著だろう。だからこそ足を狙うためにそちらへの攻撃も混ぜたのだ。


「ぐうっ……、新手か!」


 よし。リリアナからこちらに意識が移動した。

 こちらに向き直る騎士、その手前の一人に対し、山賊たちから回収しておいた剣を腰から抜いて斬り込む。

 横薙ぎの一撃は騎士の剣によって受け止められたが、その体勢は大きくぐらついている。


「おのれ! 何者だ!」


「名乗ると思ってるのか? 冥土の土産にくれてやるのも馬鹿らしい」


 鍔迫り合いも長くは続かない。こちらが強引に押しやれば、足の負傷もあって踏ん張りの利かない相手は大きく体勢を崩す。そこをすかさず刺し穿つ。

 三種の強化魔法が掛けられた俺の突きは相手の鎧を物ともせずに心臓諸共貫いた。


「よくもッ!」


 残った女騎士が横合いから斬りかかってくる。こちらの剣がまだ刺さったままなのを見ての良い動きだが、逆を言えば読みやすい。


「『フォトンセイバー』」


 光魔法の一つで、光の剣を生み出す魔法。それを空いた手に作り出し、その一撃を食い止める。


「詠唱無しで魔法……!?」


 一線の騎士でも『詠唱破棄』の異能力は珍しいものらしい。シャロンも習得していたからさほどでもないのかと思っていたが。

 止まった隙に刺した剣から手を放す。受け止めるだけならともかく、二刀流なんて芸当、やったことのない俺には無理な話だ。

 光の剣を両手で構え、そのまま一気に振り抜く。踏ん張りが利かない相手は上体が泳ぎ、


「恨むなら俺と、ゼルエンの騎士となった自分の運命を恨め」


 袈裟斬りに斬り捨てた。


 斜めに両断された女騎士が道端に崩れ落ちるのを一瞥し、俺は光の剣を消し去ると、未だ男騎士に刺さったままだった剣を抜き取り血を払う。


「剣でもそれなりには戦えるか……」


 魔法ではなく剣をメインに戦ったのは自分の力量を確認するためのものだ。

 今後騎士たちと戦うに当たっては魔法がメインになるだろうが、場合によっては接近戦も避けられないだろう。元の世界である程度心得があるとはいえ、それがこの世界でどれだけ通用するかは確認しておく必要があった。

 そういう意味で今回は好機だった。何せ相手はたった二人かつ先手も取れるという好条件。保険に各種強化魔法を施しはしたし、相手に手傷を負わせてから挑みはしたが、手応えの限り、このレベルの騎士相手なら魔法なしでも優位に立てそうだ。

 ……とはいえ、単純な身体能力や技術任せになると一対二くらいが限界だろう。魔法込みでも乱戦だと辛いかもしれない。あまり近接戦闘はしない方が得策かな。


 さて、考察は一旦後回しにしよう。時間も惜しい。

 剣を鞘に仕舞いながら振り返れば、そこに唖然とした様子でこちらを見つめるリリアナがいる。


「……あなたは、さっきお店にいた……」


「いろいろと俺に聞きたいこともあるだろうが、それよりまず答えて欲しいことがある」


 どうやらこちらのことを覚えていたようだが、いまはその質問は切り捨てる。

 瞳を震わせる彼女を見下ろしながら、告げる。


「リリアナ・セイナード。力が欲しいか?」


 ビクリ、と少女の肩が跳ねた。


「……それは、どういう意味で……」


「君の事情は知っている。誰を憎み、何のために騎士に刃を向けたのか。俺はそれを知っている」


 一拍。リリアナがこちらの言葉を頭の中で咀嚼する間を置いて、


「その上で改めて訊こう。復讐のための力が欲しいか? 君が望むなら、俺はそれを君に与えることが出来る。……あのようにな」


 指差した方向から、八人の騎士がこちらに駆け寄ってくる。増援として呼ばれた者たちだろう。

 こちらの足元に転がる三人の騎士の死体を見て、目を険しくして四人が剣を、二人が槍を、最後列の二人が杖を取り出す。

 剣を持った前衛の四人が勢いそのままに突っ込んでくる。やや遅れて槍の二人が、後衛の二人は立ち止まって詠唱を開始し始めた。前衛の身体が一瞬輝きを纏ったのでおそらく『プロテクション』が掛けられたのだろう。

 なるほど訓練された陣形だ。魔法を駆使しても接近戦で俺が単独で立ち向かうには苦戦しそうだが……。


「『レッドブラスト』」


 少女の声と同時に展開された圧倒的な魔法の前に、それらはあまりに無力だった。

 その魔法は通常なら術者から扇状に広がる高熱の風を生み出すもの。直接触れれば火傷は必至だが、着込めばそれだけで対処可能なくらい殺傷性の低い魔法だ。


 だがこの使い手――シャロンが扱えば、その魔法は様変わりする。


「ぐあああああ!?」


 熱風に煽られた騎士たちの肌が発火した。鎧や剣などにしても熱で炙られ正面が赤熱化し始めている。

 しかも『ファイヤーボール』などと違って集約されているわけではない広範囲の熱波。防ぐのもかわすのも困難だ。

 騎士たちが着ている鎧はある程度対魔力の加工がされているようだが、俺の『ルミナスアロー』で貫ける程度の加工、シャロンの魔法にとってはないのと変わらないだろう。


「馬鹿な! これが『レッドブラスト』だと!? こんな威力……ありえない!」


「言ってる場合か! 退くぞ!」


 一気に前衛六人が焼け爛れて絶命し、後衛二人が即座に撤退を選択する。その判断の早さはさすがと言うべきだろうが、


「逃がしません」


 その退路に立ち塞がったのはシャロンだった。


「っ……火よ、集いて我が眼前の敵を討て! 『ファイヤーボール』!」


 詠唱から放たれた『ファイヤーボール』は両者合わせて合計七発。複数展開出来るからにはそれなりに優秀な魔法使いなんだろうが、選んだ魔法が悪かった。


 火属性であると知ったシャロンは防御魔法すら使わず敢えて生身で受けて、そして何事もなかったかのようにただ立って見せる。

 もちろんシャロンの異能力を知らない騎士たちは、その光景に愕然とするしかなく。


「な、何故……」


「……あれほど恐ろしかった騎士もこの程度。これが私の力。ユウヤ様からいただいた、誰かを救い、あなたたちを討つための力」


 ゆっくりと手を掲げる。そこに集う圧倒的な魔力に気付いた騎士たちは絶望したように後ずさり、


「もう私はただ泣くしかない無力な村娘じゃない。私は戦う。戦える。これが――その証。『ファイヤーボール』!」


 具現する火球は脅威の八つ。以前見たように一つ一つが一メートルを超える規模のままに、だ。

 とても先程騎士たちが撃ったものと同じ魔法だとは思えない。シャロンはおそらくその差を見せつけるために敢えてこの魔法を選択した。


「ありえない、ありえない! こんなものが『ファイヤーボール』だなんて……!」


「ば、化け物か!」 


「あなたたちに抗うためなら、私は喜んで化け物になりましょう」


 振り下ろされた腕が号令になったように、巨大な火球の雨が騎士たちに襲い掛かる。

 オーバーキルも良いところで、悲鳴すら聞こえなかった。爆音とともに抉られた地面には死体さえ残っていないだろう。


「彼女はついこの間まで何の力も持たない村娘だった。だが現在はあのように騎士たちを凌駕している」


 改めて向き直ったとき、髪から覗くリリアナの目に変化が見えた。

 それは希望を見出した輝きの灯った瞳だ。


「……その力を、あなたが授けたと?」


「あぁ。君が望むなら同じく力を与えることも出来る」


「……見返りは?」


 この慎重さ、嫌いじゃない。


「俺からの要求はただ一つだが、君にとっても悪い話じゃない。俺は戦力を求めてる。ゼルエンと戦うための戦力だ」


「!」


「君が俺と一緒にゼルエンと戦ってくれるのなら、力を与えよう。ただある程度以上の力を欲するなら代償としていくらか寿命をいただくことにはなるが……どうする?」


「……フフッ」


 む? ここでまさか笑いが返ってくるとはまったく想定外だ。もしかして全部作り話と思われているんだろうか?

 そんな風にこちらが訝しんでいることを察したのだろう、リリアナは「ごめんなさい」と小さく前置きして、


「……寿命と引き換えに力を授けるなんて、童話に出てくる悪魔や魔王そのものだと思って」


「あー……言われてみれば確かに」


「……でも、どうでも良いわ」


 リリアナは過去を想うように瞼を閉じ、自らの胸に手を添え


「……例えあなたが本当に悪魔でも魔王でも、寿命程度であれほどの力を得られるんならわたしは喜んで契約しましょう。ゼルエンと戦うことも、願ったりだもの」


「良いんだな?」


 最終確認の問いかけは微笑によって跳ね返された。


「……こちらの事情を知っているのでしょう? 断れないように仕向けての質問で、その言い方は卑怯だし野暮だと思うのだけど、その辺り魔王様はどうお思いかしら」


「こっちも戦力は欲しいから頷いてもらえるよう努力はしたが、そういう言われ方は気が滅入るな。あと俺は魔王じゃない。ユウヤ・カイザキだ」


 膝を着き、リリアナの額に手を添えるため前髪をそっとかき上げる。

 初めてしかと顕わになったリリアナの顔は、シャロンに負けず劣らず可愛いものだった。

 前髪がない状態に慣れていないのか、リリアナは視線を彷徨わせている。頬も少し赤い。


「……恥ずかしいわ」


「我慢しろ」


 もう少し見ていたい気もしたが、異能力『才能開花』と『才能増幅』の二つを発動する。


 ――育て。


 魂の中にあるリリアナの才能。シャロンの時と違って既に蕾にはなっていたが、それを二つの異能によって一気に成長させていく。するとそれはすぐさま大きな幹となり、枝が溢れ、花がゆっくりと開いていく。シャロンは赤だったが、ふわりと満開に咲き渡るリリアナの花は鮮やかな翠色に輝いていた。


予定より大分話が膨らんでしまいました。最近よくあるなぁ。

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