乳児が常識を、ちゃぶ台返しします。 基礎が一番大事でした。
えーっと、大事なことを説明し忘れていました。
主人公、まだ歯が生えそろっていません。
ですから、いわゆる「歯を食いしばる」事が不可能です。
え?
ギフトの激痛、どうやって耐えてたの?
という質問には、だから泣き叫んで、すぐに気絶してましたよ。
一歳半では、まだ生える前か、ようやく生えてきたところって時期になりますね。
格闘技や、壮絶なる密教&山伏修行で、主人公は生前から、かなりの痛みに慣れていますから、こんな事が可能です。
世のお子様、乳児の方は決して真似しないで下さい(できるか!不可能じゃ!)
次の日の朝、今日も父さんに連れられて神殿へ。
司祭様と訓練場へ行き、昨日の疑問をぶつけてみる。
「司祭様、基礎の基礎と言いながら、魔力制御と操作、実は、もっと奥があるんじゃないでしょうか?それこそ、この魔力制御と操作の魔法だけで魔法の一分野が出来そうなくらいには」
おや?
という顔をする司祭様。
「やはり、ラスですね。そこに気が付きましたか。では、今日は一段と進んだ魔力の使い方を教えるとしましょう」
そう言うと司祭様は魔力に手を加えているような事をし始める。
魔力は見えないから分からないが、どうも粘土を練り固めているような仕草だ。
「見えないですが魔力を固めてみました。通常は波としか感じられない魔力ですが魔力制御に慣れて技術が上がると、こういうものも出来ます。ラス、触ってごらんなさい」
恐る恐る手を伸ばす。
何かある!
これが魔力を固めたものか!
というか、魔力って固めたり、波になったり、その他にも出来るってことだよな。
「司祭様、もしかして、もっと色々な形や硬さに出来るんですか、魔力というものは?」
「いい質問です。はい、そうです。魔力は見えないものですが、魔法使いや魔術師にとっては武器・道具に等しい物。確固たるイメージがあれば、どのような形態もとらせるように魔力に加工できます」
「司祭様、それってつまり、こういうことですか?」
俺は日本刀をイメージしながら魔力を放出して加工していく。
司祭様は最初、俺が何をやっているのか理解できなかったようだが、俺が魔力で何か細長いものを創りだそうとしていると感じたようだ。
「ああ、ラス。その形はイメージ固定がとても難しいよ。昨日から魔法・魔術を覚え始めた君では悪い、が、な!なんだそれ?!」
大刀クラスでは俺の未熟な身体では振ることが不可能なため、小刀クラスの刀を魔力制御と操作で造り出した。
けっこうイメージが固定しやすかったため(日本人ですから俺の生前)
小刀は楽に固定化出来たのでビュンビュン振り回していると司祭様が呆れたような声で聞いてくる。
「あ、司祭様。見えないけれど、50cmくらいの刀、片刃の剣です。結構簡単にイメージ固定できますね」
切れ味を試すため、ちょっとそこいらに転がってる10cmくらいの石を魔力刀で切ってみる。
豆腐を包丁で斬ったような軽い手応えで石が真っ二つに割れていく。
刀が見えないから何か超能力で石を斬ったように見えるな。
司祭様は呆れたような顔で、
「まあ、ラスが普通じゃないと頭では分かってたつもりでしたが、ここまでとはね。いいですか、ラス。普通、魔力は剣になどできないのです。魔力を、そこまで硬化させた人族など今まで聞いたこともありません。それに何より、その実在時間!ラス、まだ、その片刃剣は消えてませんね?」
「あ、はい、司祭様。消えるどころか、しっかりした実体の感触もします。見えませんけど」
「はあ、とんでもないな、この子は。ちなみにね、ラス。私が君と同じことをやろうとしたら片刃剣を硬化させている途中で魔力切れ起こして気絶しちゃいます。もし万が一、同じような片刃剣ができたとしても維持するのに魔力を使いますから、多分、数秒しか維持できないでしょうね。君は今までの魔力・魔法・魔術の基本常識を根底から覆してしまったんですよ」
「え?そんな大それたことを僕が?え?だって、こんなこと、誰だって思いつくはずじゃないですか。でもって、魔力、加工。あ、あああ、そうだった!」
「やっと理解しましたか。今の世界に魔力加工などという技術は存在しません。剣や槍、武器・防具ならドワーフが鍛冶で作ってくれます。魔法や魔術を使う魔道具ならエルフやノーム、生活道具や生活用魔道具の簡単なものなら人間でも作れます。でもね、ラス。君がやったような魔力を加工して武器・道具を作るというのは今までに誰も、考えたこともありません。そういう技術すら発想されなかったんです」
「うわ〜、僕、やっちゃいましたか?」
「はい、君は、やりすぎました」
しかし、と司祭様は続けた。
「君は、腐っているとは言え教会の裏の権力と戦う宿命にあります。どんなに突飛な発想でも今は君の身を守る武器・防具になります。私が援助しますから君は短期間のうちに、できるだけ強くなって下さい。そのために、どんな発想でも許します。まあ、これは本来ならば神殿に務める神職の言うべき言葉ではありませんがね」
「し、司祭様。ありがとうございます!ありがとうございます!ようやく理解者に会えました!」
「そこまでの礼は要りませんよ、私も下手すると君をかばった罪で教会から断罪される恐れは十分にあるんですから。一蓮托生です」
ということで、それからは透明な魔力矢、透明な礫、透明な盾など、思いつく限りの魔力加工武器を造り出した。
ちなみに最初に造った魔力刀は一時間ほどして気がついたら消えていた。
存在時間は30分から一時間と推定される。
これ、俺じゃない犯罪者が魔力加工武器なんて使ったら、とんでもない事になるな。
少し前まで徒手空拳だった奴が、見えない武器で次の瞬間、襲ってくるんだぜ。
下手すると暗殺者やテロリストが魔力加工をと、暗澹たる未来しか見えなくなるよ。
ちなみに、これで一日費やしたが、例えば見えない矢は回転を加えてやると破壊力が増すとか、見えない礫は大きくするとダメージが倍加し、砂のように撒けば目潰しに使えるとか、興が乗ってきて、ついには「見えない手裏剣」なんてものまで作ってしまった。
棒形手裏剣は、かなり刺突力が強く、こんなものが飛んできたら見えないから避けようがないという厄介な武器になることが分かった。
あと、武器や防具が見えないと相手にはものすごい恐怖になる事もわかった。
だってさ、剣や刀、槍の長さが分からないんだよ、間が取れませんがな。
ということで俺と司祭様は魔法の新しい一分野を切り開いたのだった。
あまりにも危険なため、これを公開して世の中に技術を広めるなんて無理だよ、ってことで2人して、この分野は封印することになりましたけど
(俺は封印しませんよ、これ。少なくとも生前の仇をとるまではね)