冒険者証、更新。 おまけに、新しい依頼です。
あー、春ですね。
肩が楽です。
花見の季節は続いているので花粉症も続いてますが……
次の朝、ちょいと遅めに冒険者ギルドへ。
もちろん、ジャックも一緒だ。
もう、ジャックは俺の片腕状態である。
「おっはよーございまーす!」
朝の依頼書争奪状態から一段落ついて、パラパラとまばらな冒険者のいるギルドに入るなり、朝の挨拶。
俺は、さっさと受付に行き、冒険者証を出す。
「今日から変わると聞いてるんですけれど」
受付さん、聞いてますよー、とばかりに新しい冒険者証を出して、古いものとの交換をする
(以前の冒険者証も貰ってから一ヶ月も経ってないんだけどね)
「へぇ……Bクラスは銀色なんですね」
Cは銅色だった。初っ端からCクラスだったため、それ以外の冒険者証を知らないのだが、この分だと鉄とか木とかの色もありそうだな。
「BクラスですのでラスコーニコフさんはSクラスの特殊依頼以外、全ての依頼を受けることが出来ます。ちなみにBクラスからは指名依頼が入ることがありますので、ご承知下さい。指名依頼は指名された者以外は受けることが出来ません。しかし内容や状況によっては受けない自由もありますので、ご安心下さい。それとBクラス以上の冒険者には国家間の戦争になった場合の参戦義務がありますので、ご承知下さい。ただし冒険者の特権として自分の参戦する国家を自由に選べる点があります」
厄介な義務が付属してきたな。
まあ、放浪してても強い冒険者には需要があるってことか。
「その参戦義務って、その街で活動してたら要請が来るものなの?」
一応、聞いてみる。
「そうです、冒険者は自由に国家間や街を移動できますので、一応は、その現在活動している街、国家に要請されると考えて下さい」
「ふむふむ、分かりました。で、ギルド長から早速、俺への指名依頼があるって聞いてるんですが?」
Aクラスへの昇格試験となるらしいからな。
いっちょ、サクサクやったろうじゃないの!
「あ、はい。たしか、ここに……あ、ありました。こちらが、ラスコーニコフさんへの指名依頼となります。今回は商人の護衛任務ですね」
「じゃあ、見せてもらいます……ふむ、けっこうな規模の商隊ですね。これを、俺とジャックで守りきれと?」
「あ、そうじゃなくて他の冒険者と合同での護衛任務となります。ただし護衛の人数が通常の半分になってしまいましたので、ラスコーニコフさんには重荷となるかも知れませんね」
「あ、他に護衛がいるなら大丈夫だと思います。では、この依頼、受けますので」
「はい、ありがとうございます。では明日の早朝、街の開門時間少し前に、正門前に商隊が集まっていますので、その責任者と打ち合わせて詳細を聞いて下さい」
「はい、分かりました。では、失礼します」
一応、冒険者ギルドは俺の雇い主のようなものだからね、できるだけ丁寧に対応するさ。
ってことで、ジャックを連れて冒険者ギルドを出る。
うーん、護衛任務だとすると、この格好じゃ、まずいかな?
ジャックはそのままのほうが動きが鈍らないから良いかも知れないが。
俺は生まれて初めて武器屋・防具屋へ行くことにした。
金は嫌になるほどある(教会に行けば一回あたり100万G(金貨で一万枚)までは都合してくれるように法皇様と約束を交わしてる)し。
手持ちも今の状況で金貨が1000枚超してる……これも何とかしないとな。
魔法グッズ店も覗いてみるか。
まずは防具と武器。
冒険者ギルドの近くには需要と供給の関係で武器屋、防具屋、鍛冶屋が多い。
魔法グッズの店は、もう少し離れたところに固まっているのだが。
俺は、しばし、ぶらついて、店先に飾ってある刀剣や防具を片っ端から鑑定魔法で見てみる。
さすがに、あまりに安い模造品や弟子の作品を除くと、どれも値段なりの立派なものである。
俺の鉄製ナイフなんて、よくもまあ露天にならべられていたもんだね。
同じような品質のナイフには、え?というくらいの値札が付いている。
まあ、使う俺自体が、ナイフどころか剣も槍も手裏剣も、全てが魔力固定で作った透明なものしか使わないんで、どうしようもなく無駄な武器、防具だったりするんだが……
しかし今回は見た目も大事。
クライアントを信用させるには、それなりの鎧や武器が必要だ。
さて、と……一回りしたが、俺には何が良いのだろうか?
鎧は、あまり素早さを規制されたくないので上級の皮鎧で良いだろうが、問題は武器だな……
と、思考が飛んでる状態で歩いていると……
「やい!ごうつく張り!そんなにうちの店が憎いのか?!」
少年の怒鳴り声が耳に入ってきた。
おや?
あの武器店、確かに飾ってある武器の品質は良かったが、はっきり言って、あまり入りたくなる店じゃなかった……
うす汚れていると言ってもいい不人気店だな、つまり。
「憎い?おいおい、冗談言っちゃ困るぞ。俺の店にゃ客が引きも切らず。それに対してお前んところの親父の店にゃ滅多に客がこないじゃねぇか。うちが邪魔しなくたって、これじゃもうすぐ潰れるぞ、本当に」
「う、うるせーやい!うちの父ちゃんは根っからの職人なんだ!手抜きの仕事はやらねーんだよ!」
「手抜き?そりゃ違うぞ。手直しや修理だって鍛冶屋の立派な仕事。お前の親父のように一から剣や槍を造り出すことばかりやって他の仕事を断ってるようじゃ店は維持できないのさ」
ふーん。
これはオッサンのほうが正論だな。
仕事を選ぶようじゃ商売は立ち行かない。
これは父さんや母さんを見てても分かる。
しかし、俺としては、だ……
「おーい、坊主。威勢のいいタンカが気に入った。お客だよ、案内してくれ」
俺は子供に声をかける。
職人を貫く親父の仕事も見てみたいし、ね。
「ってなわけで、オヤジさん。すまないね、正論は確かにオヤジさんの方だよ」
一言だけオッサンに謝罪して、俺は子供に案内されて薄汚れた方の店へ。
「へぇ……」
外見に反して店の中は綺麗に片付けてある。
商品の扱いも丁寧だ。
これは、当たりかも知れないぞ。
「父ちゃん!出てこいよ、お客さんだぞ!」
子供が親父を呼びに行ったらしい。
この間に俺は鑑定魔法をかけまくる。
「……素晴らしい、これは良いものだ」
生前に言ってみたかった一言集から。
思わず言ってしまうほど個々の武器は質が高い。
ただし値段表も何も無いので、こりゃ店主の言い値だろうか。
「なんだあ?おっ、久々の客じゃねえか。お客さん、目利きが出来るなら、ここの全部の武器は、ちょっとしたもんだと分かるはずだがね」
客を客とも思わぬ傍若無人さ……だけど、嫌いじゃないぜ、これ。
「ああ、ちょっとやそっとじゃ通常の冒険者が手軽に買えない代物であることは分かるよ。でもって、ここの一番の代物は……こいつかな?」
無造作に他の物と一緒に大箱に放り込まれている槍、一本。
装飾も華美じゃないが、これは凄い業物だ。
神槍や魔槍とは言わないが、その一歩手前くらいにはなるだろうな。
俺は無造作に、その槍を掴んで箱から出す。
「ん……こりゃ驚いた!あんた、確かに目利きができる。そいつは、俺の打った武器の中でも2番目のものだ。1番目は残念ながら店にゃ置いてないんだが」
正解だったようだ。
「で?親父さん、こいつを売る気ある?」
「まいったな、そこまで読むか。そいつは売り物じゃない。すまんね」
やっぱり。
客の目利きを判断するためのものだな。
「親父さんの店の武器は、どれもこれも一級品だ。ただし、この槍と……」
俺は片手剣の中でも小振りな一本を取り出す。
「この剣は別口だな。この二本、明らかに切れ味も風格も違う」
「いやー、こりゃ、まいった。確かに、その二本は別物だ。兄さん本物だな」
「まあ、これも売り物じゃないんだろうが……親父さんの店の売り物の中で一番の物が欲しい」
「高いぜ?」
「いくらだ?一応、金貨で1000枚くらいなら持ってる」
「んん?そりゃ、いくらなんでもな。金貨700枚なら、こいつが売り物の中で最高だ」
親父は奥の工房から一本の片刃剣……違うな、刀を取り出してきた。
すらりと抜き放つと、妖しいまでの光がほとばしる。
「魔力を込めすぎて、どう打っても、この形と長さにしかならなかった。それも、どうやら持ち主を選ぶようで俺が持っても紙一枚、切れやしねえ。坊主もそうだった。お前さんなら、どうかな?持ち主に選ばれたら金貨700枚で売ってやるぜ」
店主から刀を受け取る。
鞘からゆっくりと抜く。
刀が俺を試しているのが分かる。
言葉には出来ないが、こいつは一種の妖刀だ。
魔力を少しづつ流しながら妖刀を屈服させていく。
最初は少量の魔力、それからだんだんと魔力を増しながら、妖刀に食わせていく。
こいつ相当なもんだ。
しかし、俺も人のレベルじゃ無いんだよ。
魔力を150超えくらいの量流したところ、さすがに腹一杯になったようで。
最初は俺の手に嫌々ながら収まっていた妖刀は今では手に吸い付くような感触となっている。
「用意は出来た。紙を放ってくれ」
俺が言うと店主が薄い羊皮紙を放ってくる。
使い込まれすぎて薄くなってしまい用を足さなくなった代物だ。
俺が斬ろうと思っただけで妖刀が自然と反応し、空中にある羊皮紙を散り散りに斬ってしまう。
ものすごい切れ味……魔力刀と、ほとんど変わらんな。
「ん(ゴクっ)……確かに、その剣の主人と認められたようだ。金貨500枚で売ろう」
「え?最初、700枚って言ってなかったか?」
「いいもん見させてもらったからな、眼福だ。おまけしてやるよ」
ってなわけで俺は妖刀を手に入れた。
どうも、この刀、詳細に鑑定してみたところ、魔力を多く流すほど切れ味が増すらしい。
さて、次は防具か……この店は武器に力を入れているようなので、別の店で揃えよう。