はじめてのおしごと。 子供じゃないよ(年齢は乳児だけど)
主人公、ようやく冒険者になります。
最初の依頼は……
はい、冒険者登録騒動から2日後です。
朝から待ち遠しくってね、ウキウキ状態ですわ、正直。
だってさ、色々なファンタジーものでお馴染みの冒険者に、自分がなるんだぜ!
まだまだ初心者の冒険者とは言っても、さ。
やっぱりウキウキワクワクなんですよ。
早朝の依頼書取り合いを避けるため、俺は少し遅い目に、冒険者ギルドの入り口に到着する。
今日から俺も、新米とは言え冒険者だよ。
気持ちを引き締めなくちゃ!
と、気持ちを新たにして、入口の扉を開ける。
うむ、朝の混雑は解消されてるけれど、まだ人は多いね。
俺は、もう少し人数が減るまで待つことにする。
それまで、依頼書でも見てみるとしますかね、今日から自分のやる仕事だし。
初心者向けの仕事は……と、ああ、この辺か。
何何?薬草採取に雑用、ドブ掃除にお届け物配達、ね。
本当に初心者向けだね、これ。
と、色々な依頼書を見ていると、人が少なくなってきたな……
もういいか。
「すいません、一昨日、冒険者登録に来ましたラスコーニコフですが。もう、冒険者登録証は、出来てますでしょうか?」
カウンターにいる受付さんに聞くと、
「あ、はいはい。ラスコーニコフさんですね。これが登録証ですが……あれ?変だな……す、すいません!登録証はあるんですが、ちょっとした間違いがありまして……すぐに確認してきますね!」
と、受付さん、俺の登録証を見るなり、それを持って奥の部屋に走っていった。
あ、数値の問題かな?
それは間違いだけど、今の俺の数値は5桁なんですよ〜っと。
隣の部屋から、何か大声で話し合ってる(怒鳴り合うって感じじゃ無いけど、何度も再確認してるようだな)
あ、ようやく受付さん登場。
「お、お待たせしました。何かの間違いではないかと思い、再度の確認を取ってきました。ラスコーニコフさん、あなた、冒険者登録するのは初めてと言うことですが間違いないですか?」
おや?
なにか資格の問題か?
冒険者に必要な資格なんて無かったと思うが?
「はい、間違いありませんよ。その前に街の大きな商会で小遣い稼ぎのアルバイトやってて、その前には神聖教会の修行僧やってました。でも宗教じゃ食えないので、こちらへ職種替えってことですよ」
「アルバイトの前には修行僧ですか。よほどの荒行やられてたみたいですね。魔力数値が3桁なんて……おっと!」
受付さん、そりゃ個人情報で漏らしちゃいかんだろうが。
ほーら、少ないとは言え、ギルドにいる冒険者たちの興味を引いちゃったじゃないか。
ざわつきだしたぞ。
「す、すいません。では、こちらが冒険者登録証になります。ついては、あなたの数値で初心者のGクラスというのは、あまりに力とクラスが合わないので支部長権限で、あなたにはCクラス冒険者の登録証が与えられます。つまり依頼として自分の一段階上までの仕事を受けることが出来ますので、あなたは今日からBクラスの依頼まで受けられる事となります」
「はい、ちょっと驚きましたが、ありがとうございます。この冒険者クラスは、どうやったら上がりますか?そのへんの仕組みを教えていただきたいのですが」
「はい。まずは本当の初心者はGクラスからになり、これはGクラスとFクラスの依頼を受けられます。この依頼を10件間違いなくこなせば次のFクラスへ上がります……こうやってCクラスまでは依頼の内容に関係なく、数で上のクラスへ行けます。問題は、ここからです。ラスコーニコフさんは現在Cクラスですが、ここからは依頼内容と達成内容によりギルドが大丈夫だと判断して、上のBクラスへ行ける資格が出来ます」
「資格が出来る?それは順調にはステップアップできないということ?」
「はい、Bクラス以上へ上がるには昇格試験が必要となります。これは、その時により試験内容が違ってきますのでご注意下さい。書類での試験はありませんが、上のクラスにふさわしい依頼だったり、その階級の方たちと実際に模擬戦闘を行っていただくものだったりしますから」
「ふーん……つまりは、ある程度の実績がないとBクラスになるための試験すら受けられないってことですね」
「はい、そうですね。では今からラスコーニコフさんはCクラス冒険者です。受けられる依頼はBクラスまでのものなら、どれでも受けられますよ。ただし、あまりにクラスの低いものは達成しても報酬が低すぎるのと初心者向けの依頼を上級者が横取りするという意味になりかねませんので、できればCクラスかBクラスの依頼にされることをお勧めします」
「はい、わかりました」
そうか、レベル低けりゃ報酬も安いのね。
俺自身、あまり金が必要な現状ではないので忘れてしまうそうになるな。
えーっと、CクラスからBクラスの依頼ね……あ、これなんていいかも。
俺は人気が無いのか、ずいぶんと古ぼけた依頼書を持って、受付カウンターへ行く。
依頼書をカウンターへ置くと受付さんの顔色が変わる。
「あ、あなた、ラスコーニコフさん、この依頼を受けるなんて正気ですか?!あ、それとも助けてくれるパーティがあるとか?」
「え?今日、冒険者になったばかりでパーティも何も。俺、一人ですよ?」
「そうですか……これは見なかったことにしましょう。別の依頼にしたほうが良いですよ、死にたくないなら」
「え?この依頼って、そこにも書いてる通り「亜竜の討伐、及び死骸の持ち帰り」ですよね?数が多ければ確かに厄介ですが、ここには一匹と書いてありますけど?」
「ああ、それでベテラン冒険者も騙されるんです。確かに依頼は一匹なんですが、それ亜竜のボスです」
「ボス一匹。そうか、群れがいるから……」
「気が付きましたか?それ亜竜の大きな群れなんです。確かに依頼はボス一匹なんですが、ボスを倒すためには群れ全体を相手にしなきゃいけません。それと、亜竜はワイバーンです。空を飛べて毒のブレス攻撃も仕掛けてくる、おまけに手足の爪も牙も、鉄剣くらいじゃかすり傷しか負わせられない頑丈な皮膚もあるとくる……30人以上のパーティならともかく、たった一人じゃ自殺行為ですよ」
「Cクラス冒険者が30人以上いるなら大丈夫じゃない?今まで、この依頼に手が着いていなかった理由は?」
「Cクラス冒険者を雇う費用に比べて、あまりにも安いからです。この報酬金額では、なんとかCクラス冒険者5名までは雇えるでしょうが、5名や6名じゃ全滅覚悟で特攻しかないですからね」
「で、この依頼書が今まで残っている理由は?」
「亜竜の群れが住み着いている場所の近くに小さな村がいくつもあるんです。その村々からの合同で出せるだけの報酬を積んで依頼書を持ってきたんですが、いかにも貧しい村ですので……世界のどこかを旅してる英雄のパーティの目に入るか、くらいの幸運で、この依頼を受けてくれる人がいるかも知れないから、てんで、そこに貼ってあるんですよ。悪いことは言わないですから、この依頼だけは止めておいたほうが良いですよ」
「ふむふむ。そうですか……」
その時、俺の後ろから声がかかる。
「あんた、亜竜の討伐依頼、受けてくれるのかや?後生だ!お願いだから、この依頼、受けておくれでないか!今も、オラ達の村じゃ赤ん坊が亜竜のエサとして攫われてるんだよ!」
オバサンの声かと思ったら、まだ小さい子供……
まあ、少女だろうな。
乳児の俺が言う言葉じゃないが。
依頼書が残ってるかどうか気になって訪ねてきてみれば、今にも冒険者が受けそう。
しかし、詳細を聞いて中止しそうだから、たまらずに声を掛けたということか……
「おいおい、ナタリー。村が心配なのは分かるが、以前からも言ってるように、この報酬じゃ討伐に必要な人数が集められないんだよ。かわいそうだとは思うがな」
「オラ達の村だけじゃねえ、あっちこっちの村から、なけなしの銭を集めても、これだけしか払えねえんだ。こっちのおっちゃんは受けてくれようとしてたんじゃねえか?」
「あのな、この人はソロ。一人なんだよ。あのワイバーンの群れ、一人で全滅なんて真似、神様でもなきゃ無理だぞ」
神様でもなきゃ無理か……よし、決まった!
「俺が亜竜討伐依頼、受ける。ソロで結構だよ、やられるもんかい」
受付さんは呆れた顔で、
「はあ、死ににいくようなものだよ、物好きな人もいたもんだ。はい、それじゃ受付印は押したよ。討伐が終わったら確認のサインを貰ってくれば報酬は渡すからね……あ、それから、亜竜の死骸はボス以外はギルドでも買うからね。少しは報酬の上乗せが出来ると思うよ。それじゃ、命を大事にしてくれ」
「ああ、せいぜい、早めに依頼達成して亜竜の死骸も持ってくるわ」
と依頼書を受け取る俺。
「さ、ナタリーとか言ったな。亜竜退治、引き受けた。村へ案内してくれるか?」
「う、うん!馬車とか持ってないのかい?おっちゃん」
「うーん……必要としなかったからな。じゃあ今から馬車と荷車を用意するんで、明日の朝にギルド前で待ち合わせするとしよう」
「わかった。オラは袋一つでダイジョブだから、明日の朝、ここの前で待ってるな」
「おう、まかせとけ」
それから馬車と荷車を5台ばかし……父さんと母さんの勤めてる商会に動いてもらって用意しましたとさ。
でかい店は顔が利くようで、あっという間に小型馬車(幌馬車でした)
と馬が2頭、荷馬車が5台、きっちり夕方までに揃ってしまいました。
費用?
もちろん、色つけて払いましたよ、現金で。
白金貨じゃないお金(日本円で数百万円)で足りてしまいましたので、まだまだ減ったという意識はないよ。
さあ、明日は亜竜討伐へ。
はじめての冒険だ。