動けません。どうやって訓練しろと言うのですか?
今回は説明回。長いですが。お付き合い下さいませ。
まあ、一応は自分の中で納得はしたよ。
でもさ、これは無いよね。
生後3ヶ月って、まだ首も据わってないじゃないか。
手足も自由に動かないし、あまりに頭や胴体との比率も悪すぎる(製作程度の低い人形体型だよ)
言葉を喋ろうにも、まだまだ発声器官そのものが未発達で、「ラ」音中心に泣き喚くしか無いコミュニケーション方法。
これで、どうやって能力や身体を鍛えろと言うのだ?
転生前の俺は、山伏の修行もやったくらいで、ある程度は鍛えてた。
それこそ、東京の秋葉原で裏道歩いて、トリップしちゃったガキ連中に脅されても全て無力化出来るくらいには、な。
密教や山岳宗教、イスラムの過激派閥にも入って日本国内で不正銃器の取り扱い訓練も極秘で受けた(廃村になった山奥でやるから、官憲にゃわからないのだ)
おかげで、無力化も半殺しも、やろうと思えばその先もやれる自信はある(生前の俺は、ね)
しかし、この状況は困ったものだ。
鍛えようにも、まだまだ身体の各部分が未発達すぎて、自由に動かすことさえ出来ないときてる。
こりゃ、根性据えて、気の長いリハビリテーションの気分でやらなきゃダメなのかね?
と、ここまで考えたら、不意に睡魔が襲ってきた。
はあ、やっぱり生後間もない赤ん坊、ミルクと排泄と、後は寝ることが仕事か。
睡魔には逆らわず、俺はすぐさま眠りに落ちた。
って、あれ?
夢の中、だよな、ここ。
なーんもない、だだっぴろい空間が広がってる。
俺はベッドに寝てるはずなんだが、空間の中に浮いてるようだ。
うん、生後間もないから、夢も構築できないのかな?
でも、俺自身の意識はあるんだから、もう少しくらいカラフルな夢でもいいんじゃないか?
【横道 至だったものよ。これは夢ではあるが、お前の夢ではない】
ん?なんだなんだ?
声が聞こえるというより、頭の中に声が響く感じなんだが。
それも、俺の夢じゃない?
じゃあ、誰の夢なんだ?
【儂の精神世界の一部に、お前の意識だけ呼び寄せたのだ。横道 至だったものよ。お前に説明だけはしておかなくては、と思ったものでな】
あ、はいはい。
このような状況に至った説明ですね。
すいませんね、お偉い方とお見受けしますが、こちら、生まれたてで身体すら自由に動かせませんので。こんなカッコで失礼します。
【お主、なかなかに性根が据わっとるな。今までに転生させた人間、ごまんといるが、そこまで瞬時に自分の状況に納得した者は、なかなかおらんかったぞ】
いえいえ、生前の修行で、ちょいと精神的にはタフガイになってますので。
で、お聞きしたいのですが、なぜに俺は輪廻転生の対象になってるんですか?
正直、地獄へ叩き落とされる運命のほうが似合う一般市民なんですけれど?
【それはな、お主の運命が関係しておる。お主、自分が生前、なぜか宗教的なものに導かれていると感じたことはないか?】
あ、はいはい、あります。
なんで特別な力もない一般市民の俺に様々な宗教が絡んでくるんだろうか?
と思ってました。
まあ、卒論が書けるくらいの恩恵はありましたけどね。
【お主が卒業論文だと自分で思い込んだ物、実は全く別の物だったんじゃよ。書いた自分でも気が付かなかったのは、まあ無理もないんだが】
はい?!なんですと?!
俺、何を数100Pに渡って書いたんでしょうか?
地球上にある既存宗教の欠点と扱き下ろしの塊だったはずなんですけれどね?!
【自分が書いたはずの物は、な。実は、お主、悪神・邪神の存在証明と、その歴史。その存在が人類に対して及ぼした悪影響を、こと細かに余すところ無く書き綴った物。いわば神の裏歴史とでも言うべき原稿を書いたのだ】
な、なんと?!
自分ながら何と大それたものを書いてしまったんでしょうか。
でも、悪神?邪神?
俺が普通に修行してきた宗教体験では、そんなものは聞いてませんが?
【それは、お主が自分で書いたものではないからの。自動書記って知っとるか?】
あ、はい。
超能力というか霊媒能力というか霊に自分の身体を貸して筆記してもらうってやつですよね。
【そうじゃ、それが強力な霊であればあるほど、自分では分からぬ現実の裏側の世界を示してくれるわけじゃ。お主の力は、そんな神の霊すら呼び込めるものなのじゃよ】
え?
こう言っちゃ何ですが、俺は世間の垢まみれですよ。
そういうのって聖女とか預言者とか言う人たちの世界じゃないですか。
とても俺のような一般市民には付いて行けませんって。
【そう自分を卑下するものではない、横道 至だったものよ。お主の力、本来は悪神や邪神に対抗できる、渡り合えて、滅することも出来るくらいのものになるはずだったのだ。しかし】
そこにたどり着く前に、まだ未熟なうちに悪神や邪神に目をつけられてしまい、その原稿を記述するのが精一杯で、やられてしまった。
と、こういうわけですね。
【そうだ。で、今の状況に至るのだが、お主の魂の力は生前と何も違ってない事が分かったので、あまりにモッタイナイと転生させることに、神々が決定したのだよ】
うーん、この俺の魂が、そんな救世主になる予定だったとは。
まあ、無理にでも納得しましょう、なっちゃったものは仕方がない。
で?
この世界は元の世界の過去ですか?
それとも、異世界?
【おう、そこまで柔軟な思考をするとはな。お主の転生後の、この世界は、生前の世界とは全く違う。生物の種類も、その力すらも。元の世界と大幅に違う点を挙げると、まずは「魔法・魔術」が使用できることだな】
わお!
どえらくファンタジーな世界に放り込まれてしまったんですな。
魔法・魔術か、いつかは使えるようになるんでしょうかね、俺も。
【まあ、そのへんは心配ないと思うぞ、お主の魂の力、そんじょそこらの人間や魔物とは比べ物にならんからね。生前の世界との大きな違い、その2。ギフトって生来の能力がある事。これは、神からの授かりものとして、生物によって違う。また、人間や魔物のような高度な生物になると各々によって違う。これは魔法や魔術とは全く違う、持ち主のみの能力となる。相手を殺してもギフトは消えるだけで盗ったり移動したりはできない】
へぇ、そんなものまであるんだ。
ギフトね。
あ、もしかして、俺にもギフトがあったりする?
【もちろん。普通は、神の代理人である僧侶や司祭によってギフトは神殿で与えられるものなんだけどね。今回は、我、神、御自らが、お主にギフトを与えに来たのだ】
あ、それはそれはご苦労様です。
ようこそ神様、こんな汚い人の世界に。
【お主、本当に肝が据わってるな。普通なら、神とわかった時点で平伏や土下座するものなのに。まあ、未来の救世主なら、それが本来じゃろうて。では、ギフトを授けるぞ】
あ、ちょっと待って下さい。
授かるギフトって、どんなものですか?
【神からの授かりものに注文つける人間なんぞ初めて見るぞ。だが、まあ今までの事を考えると仕方がないか。簡単に授けるギフトの説明をするぞ】
あ、はい。
すいません。
こういうの初体験なもんで、説明があると助かります。
【ぞわっとしたわ、今の言葉で。見た目が赤子でも、中身は30代のオッサンだから、今のは神でも引くぞ。いいから、聞きなさい】
はいはい。なんだか軽蔑と哀れみの視線が痛いのですがね。
【うるさいぞ。お主に今から与えるギフトは3つ。まずは、恐れを克服するギフト。2つ目、己を超えるギフト。3つ目、仲間を呼ぶギフト。以上、この者に、ギフトの祝福を授ける!】
眩しすぎて目が開けていられない。
思わず目をつぶった瞬間、俺は夢から覚めた。
さて、ギフト持ちになった俺だが、簡単すぎてギフトの意味がわからない。
まあ、おいおい理解できるだろうて。
ということで改めて寝直す俺であった。
だって赤ん坊だから寝るのが仕事だもの。