2人目の刺客が現れました。 これも経験値にしておきましょうか?
ちょいと日数を飛ばします。
次の教会本部からの闇の処刑人、審問官が来る日です。
主人公も、あれから少しは強くなっています。
今回の経験値は、いかほどかな?
闇属性を訓練してます、ラスことラスコーニコフです。
はい?
闇属性は封印するって言ってなかったか?
ですと?
はっはっは、その言葉は忘れて下さい。
精神系統の魔法・魔術の世界が面白くなってきたのです。
前世の知識で催眠術も覚えていたため、この闇属性と催眠術は相性がとてもいいことに気づいてしまったのです。
言葉を変えて言うと、洗脳や刷り込みを悪の側じゃなくて正しい側で使えばいいんじゃねーの?
って事になりました(もちろん、俺はやらないよ、俺はね)
司祭様や、この時点で、もう俺達側についてくれることとなった神殿長様に、神聖教会に巣食う病巣を取り去った後の本部運営の方法についての案を聞いていた時のことと思ってくれれば良い。
枢機卿会議は、あまりに教会中枢にガッチリ食い込んでいるシステムとなっている以上、枢機卿会議のメンバーを全て抹殺するとしても、その下部システムが立ち上がってくるだけで、元の木阿弥となりかねないと言われた。
じゃあ、と、俺が改革案を出す。
その下部システムが立ち上がってきた時に闇属性の魔法や魔術と催眠術を活用して、新しい枢機卿会議にリミッターかけちゃえば?
ということ。
元々の教会理念「神の愛を広く民衆に分け与える」から離れた思考やエゴ丸出しの指令を会議場で発言しようものなら、その途端、神の罰で言葉が出なくなるって条件付けしちゃえ!
ってことにしましょう。
まあ、新しい枢機卿会議の議長は、この神殿長様。
現場をまとめるヘッドには司祭様が着任してくれれば問題ないしね。
あ、これは俺の考えだけ(まだ、今の枢機卿会議は叩き潰してないし)
で、まだ神殿長様にも司祭様にも話してないよ。
でもって、色々と、これからのことを話し合ってたら、来客だそうだ。
「控えろ、地方神殿の者共!我は神聖教会中央本部、枢機卿会議より任を受けし、審問官である!ここに、教会の教えに反逆する子供がいるとの訴えがあり、その確認と、神の罰を与えよと枢機卿会議からの告発状があり、その子供の罪は決定事項だ!我の前に、その子供を引き出し、刑の実行を確認することを、神殿長に求めるものなり!」
はい?
いきなり何言ってるの、この、むさいオッサンは。
ヒゲもじゃで、全身が濃い体毛で覆われてる、この野人か、あるいはヒ○ラ○の雪男?またはサ○カ○チか?
まあ、こいつも審査官と同じで唯我独尊を地で行ってますな。
自分が、どれだけ異常な行動や言動とってるか、分かってないのかね?
ここは、司祭様を手で制して、神殿長様が対応してくれるようだ。
「これはこれは、教会中央本部よりの審問官様。ようこそ、このような一地方神殿へお越しくださいました。で、先ほどのお言葉ですと、ここにいる子供に教会への反逆者としての疑いがあると?」
尊大も、ここに極まれり!
ってくらいに偉そうに、審問官。
「疑いではないぞ、神殿長。その子供の教会への反逆は確定しておる。審査官なら、その言い訳くらいは聞いてやるだろうが、我々審問官は、そんな言葉を聞く耳は持っておらんのでな。有罪確定であるからして一刻も早く刑を執行しなければならんのだ」
慌てず騒がず、冷静な神殿長様。
「いえ、あまりにそれは神の愛に反するお言葉。いくら枢機卿会議への反逆という事実はあるにせよ、弁解も聞かずに即時、刑の執行とは、あまりのなさりようではありませぬか」
「ええい!その言葉は、法皇様を頂く枢機卿会議に対する侮辱ともとられかねんもの!その地位と命が惜しければ、とっとと小僧をひったてて来ぬか!」
あ、激昂しちゃったよ、審問官。
お里が知れるよね、これは。
それでも冷静な神殿長様、ちょいちょいと俺を手招きする。
「はい、何でしょうか?神殿長様」
うわ、俺も役者だ。
何するか、どうなるか、全て分かっててやってる猿芝居だ。
「ここにおられる、枢機卿会議からの処刑者、審問官様が、あなたの命を所望されていますよ。おとなしく、殺されますか?それとも」
言葉にかぶせ気味だが、俺は間髪入れずに応える。
「いいえ!審問官なぞ僕のライバルにもなりません。蹂躙してやりますとも!」
神殿長様、にっこりと、いい笑顔で。
「では、私達は退避しますからね。ラス、後は任せましたよ」
司祭様と神殿長様、次の瞬間にはいなくなる。
けっこう素早くないか?
あの二人。
「さて、僕がお目当ての小僧です。脳タリンの自意識過剰、むさいオッサンの審問官様?僕を処刑する?はっはっは、笑っちゃうね」
小僧と呼ぶべき子供に、ここまで言われて、審問官は逆に落ち着いたようだ。
それとも、あまりの怒りに言葉がないのかな?
「こ、こ、この小僧が!普通なら、遠くで見るだけで恐れおののく我ら審査官や審問官を目の前に、よくそのような減らず口が叩けるな!おのれなぞ、この闇魔法でな!」
魔力波動を打ち消してやる。
不審に思った審問官、何度も闇魔法を放ってくるが、全て打ち消してやる。
十数回、同じことをやって、ようやく俺が何をやったのか悟ったようだ。
「我が必殺の闇魔法が効かぬ、いや、打ち消されてしまっている。それも、万に一つの偶然ではなく、この小僧は秘儀とされた魔力の相殺技術を完全に使いこなしておる。これで、前任者の審査官から連絡が来ない理由がわかった!お前が審査官を倒したのか?!」
はあ、ようやく気づきましたか、やっぱ鈍いわ、このオッサン。
「倒した?そんなものは、いい勝負が出来た時に言うものだよ。僕の場合はね、あまりに弱い虫けらを蹂躙して、最後の最後で、神の御前に、言い訳せずに立てるように、あの世へ送ってあげた、それだけだよ」
言葉のやりとりの間にも、闇魔法だけじゃなく火魔法や地魔法を放ってくるが、ことごとく打ち消してやる。
ちょいと隙を見て鑑定魔法を放つと、即座に相手の情報が入ってくる。
ははーん、こいつ、魔法特化だ。
身体能力は、俺どころか司祭様の半分近くしか無い。
魔力だけは76もあるから、まともに修行すれば相当な魔導師になれたろうにな。
よし、こいつ、魔力を削りまくって、ラストは力押しと行こうか。
ーーーーこれより、審問官の視点となりますーーーー
何だ?
何なのだ、こいつは。
いくら必殺の魔法や魔術を放とうとも、全てが打ち消され無効となってしまう。
我が魔力は教会の陰の実行部隊の中で最大級である。
それは事実なのだが、この小僧は、それと同等くらいの魔力を持っているようだ。
いくら我が魔力が大きかろうと、このような数の魔法や魔術を放てば、あと数分で魔力が枯渇する。
休めば少しは回復するが、そのような暇を与えてくれるような相手ではない。
ああ、そうだ、正直に認めよう、我は、この小僧に対し恐怖を覚え始めている。
子供に対し、これだけの魔力を使ったのも初めてなら、魔力の枯渇に怯えるというのも初めての事だ。
それにしても、この小僧の魔力は底なしか?
我が魔力をも凌ぐものか?
魔法や魔術が放ちにくくなってきたな、もう魔力が枯渇する手前なのか?
魔力枯渇すると、気を失うとのことだが、もうすぐ、そんな事になりそうだ。
疲労で手足も動かなくなってきた。
魔法も魔術も、もう放てない。魔力が無くなった。もうすぐ、我は魔力枯渇で気絶するだろう。
小僧は?
無手だが、しっかりした足取りで、一歩々々、こちらへ歩いてくるな。
こいつ、魔力が尽きるような顔色も、疲れも見せぬとは、化け物か?
ああ、顔を上げたな、小僧。
な、何を笑っておる?
笑みを浮かべて殺しあうか?
いや、余裕がありすぎて、笑いがこみ上げてくるのだろう。
この我、審問官のトップにふさわしいと言われた、この我ですら、歩みを止めることすら不可能だったのか。
ああ、ついに我がすぐ傍に来た。
我は、今、目は見えているが疲労と魔力枯渇一歩手前で、指一本すら動かせぬ。
奴、子供の形をとりし死神だ。
笑っている、笑い声まで聞こえる。
ああ、そうであったか。
我は、笑われて死ぬような人間であったのか。
我が心の底から笑ったことなど無かったな。
怒りに任せるか、あるいは無表情に刑を執行してきた我に、笑いは最低の結末だ。
我は、神の御前に立ちし時、小僧が言っていた審査官の最後の言葉のように、自分の罪を言い訳せずにいられるだろうか?
たぶん、無理だろうな。
それをやるには、あまりに我は無実であったろう人を殺しすぎた。
枢機卿会議という組織の末端にあるものとして当然の行為をしたまでだが、神の前には、隠し事などできない。
ああ、人の形をとりし死神よ。
願わくば、我に速やかなる死を。
最後の最後に、心より願う。
あ、目の前が暗くなってきた。
これは気絶か?
それとも……
ーーーーーこれより、ラス視点ーーーー
拳で蹂躙してやろうと思ったら、魔力枯渇のうえ、更に無理して自分の生命力まで使ったのか知らないが、ゲンコツ食らわす前に死んでしまった。
まあ、魔力のぶつけあいという点では、結構な腕してました、審問官。
でも、これで、俺の経験値となってくれます。
ありがとさん、成仏しろ。
はい、神殿長様、司祭様、戻って来られました。
試合終了!
最後の締めに、鑑定魔法、それ!
人族 ラスコーニコフ 1歳
異名:人の形をとりし死神
レベル48 なし なし
体力 1024(890)
魔力 4799(2010)
素早さ 501
器用さ 486
賢さ 697
魔法・魔術:
適合率(高)
無属性(99%)
適合率(中)
闇属性魔法(78%)
適合率(低)
なし
武器・防具:
適合率(高)
なし
適合率(無)
なし
ギフト:
恐れを克服する、己を超える、仲間を呼ぶ
うわ!
異名なんて物騒なものが増えてる!
司祭様に聞いたら、
「あまりに強烈な印象で複数回、相手を打倒すると、それが異名となって残るそうです。ラス、おめでとう。君も将来、冒険者になれば異名の利点が理解できますよ」
冒険者にならないと逆に異名は欠点にしかならないんですね、そうすると。
俺は、急激なレベルアップのための眠りに入るため、早々に神殿を後にした。