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第五十一話︰failed to tell

二学期が始まり、しばらくは何事もなく、日々が当たり前の様に過ぎていった。


 昼休み

 麗美香は、いつもニーナに会いにやって来る。相変わらず、ドアをバーンと開け放して。

「あんた、また来たの? ほんっっっとうに友達居ないのね。」

「わたしは、ニーナちゃんだけ居ればいいんでぇ〜す。」


 そして、ヤマゲンと、いがみ合う。この二人は、本当に相性が悪いな。


 ヤマゲンのグループにニーナを取り込んだので、必然的に麗美香もヤマゲンのグループに入り込む形になっている。他のメンバーとは話した事はないが、2人程女子が居る。見た目は、可もなく不可もなく、何処にでも居るような感じの女生徒だ。2人は、麗美香とヤマゲンのやり取りを、ヤレヤレといった表情で見つめていたが、口を挟む事は無かった。


「あんた、いつもこれだけ云ってるのに、懲りないのね。びっくりするわ。」

「別に気にならないから。遠慮なく勝手に騒いでください。こっちはニーナちゃんと楽しく遊んでるんで。」


 ニーナが間に挟まれて、どぎまぎしている。これは可哀想だ。だが、自分にはどうしようもない。女子のいざこざに口を突っ込んだらろくな事にはならない。こっちがボコボコにされるだけだ。したがって、ここは静観するに限る。


「ちょっっとぉ、やまねこぉぉ! こいつをなんとかして!」


 静観するって云ってるのに、ヤマゲンのやつ、こっちに振るなよ。


「いや、なんとかってぇ。別にいいじゃねぇ? 他のクラスのやつが来ても別にいいじゃん。というか、おまえら、もちょっと仲良くしろよ。ニーナが困ってんじゃないか。」


 麗美香とヤマゲンの視線がニーナに向く。ニーナは、跳び上がりそうに狼狽して、両手を突き出してブンブンと意味なく振った。

 そして、恨めしそうに碧い瞳でこっちを睨んだ。余計な事を云わないでって感じか。


 これ以上此処に居ると、どんなとばっちりを受けるかわからないから、とっとと退散する事にする。

 弁当の残りを急いで口に放り込み、教室を出る。

 後ろでヤマゲンが、逃げるのかぁ〜卑怯者〜という声が聴こえた気がしたが、無視して廊下を進んだ。


 そして、いつものように屋上の扉の前に辿り着く。

 なんだか此処が自分の場所になってしまったようだ。


 階段に腰を降ろして、しばしぼんやりと過ごす。

 貴重な青春時代をこの様に無駄に消費するのは不経済な気がするが、さりとて、他にする事も無かった。


 そういえば、自分は何がしたいのだろう。


 具体的に興味がある事とか、将来何に成りたいとか、そういったものが何も浮かばなかった。ただ漫然と日々を過ごしている。日々をただだらだらと過ごす。それがまるで目的の様に。

 それはある意味幸せなのだろう。やらないといけない事があって必死に生きている人に比べたら、やらなくてもいいし、やってもいいというのは、なんて贅沢な事なのだろう。

 大人になって自分で生きていかないといけなくなると、そうも言ってられないのだろうけど。


「お待たせぇ。」


 ニーナがゆっくりと階段を登って来た。


 最近は、ニーナも此処に来る様になった。


 此処で、昼休みが終わるまでの間、しばし二人っきりの時間。


 家での時間とは違った、なにやら特別な時間に感じられた。


 隣に、ちょこんと当たり前の様に座る。


「あのふたりには困りました。」


 麗美香とヤマゲンの仲悪さにニーナは苦言を吐いた。

 そして、言葉遣いが最近おかしい。

 どうやら、この国でのお姫様用の言葉遣いを模索している様だった。無理して、お姫様みたいに喋らなくてもいいじゃねえかと云ったが、聞き入れて貰えなかった。ニーナなりのこだわりなんだろう。


「コーイチも止めてください。あんな事云われたら、わたしが悪者じゃないですか。」


 ニーナは頬を少し赤らめて、恨めしく云った。


「悪者じゃ無いだろう。それに、困ってたのは本当だろう?」

「そーですけど、本当の事だから云えばいいってものじゃないです。」

「そっか、それはすまん。」


 ニーナは、溜息をついた後、こっちを上目遣いに見た。


 その碧い瞳に、少しドキリとした。

 本気で惚れてしまいそうだった。


 プロポーズの誤解は未だ解けずに居る。

 ニーナの様子を見れば見るほどに、言いそびれてしまっていた。

 ニーナの様子、それは、最近どうも自分への距離感を積極的に詰めている様な気がするのだ。

 いや、別に悪い気はしないが。


「そろそろ時間ですね。帰りましょう。コーイチ。」


 そう云って、立ち上がり、彼女はにこやかな笑顔を見せた。


 その笑顔に少しばかり罪悪感が沸くのを感じていた。


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