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異世界の姫さまが空から降ってきたとき  作者: 杉乃 葵
最終章 王女ニーナ
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第百三十二話 『謀略』

 鬱蒼とした山道をひたすら登ってる。

 ただひたすらに、延々と。


 巨大な亀の様な生き物の上に乗って揺られている。この世界での一番の乗り物なのだろうか? 他にも何匹? 亀って匹だっけ? まあどうでもいいわ、そんなこと。この亀みたいなものは何匹か居て、ぞろぞろと列をなして、進んでいる。位の高い者が乗っている感じ。仮面の男も前の方の亀に乗っている。他にもいかにも偉そうな服装をしているやつらが亀に乗っている。そして他の騎士たちは徒歩で付いて来ている。騎士って馬に乗ってるイメージだけど、この世界じゃ徒歩なのね。そしてどんだけ居るん? って思うほど、たくさんの騎士が歩いている。このまま戦争でもしそうな勢いだわ。こいつら蹴散らして逃げようって考えてたけど、やらなくてよかったわ。流石に絶好調のわたしでも、こんだけの人数相手じゃ無理だわ。万単位は余裕で居るよね。こいつら。

 それにしても、この亀みたいなやつは亀ほど遅くはないけど、かと言って馬ほど速いわけでもないからちょっとイライラする。まあ、乗り心地は悪くないけどね。甲羅が深く削られていて椅子のようになっているので座ったまま移動出来る。この椅子はまるで大理石で出来た椅子みたいだ。クッションとかこの世界に無いのかしら? 硬い椅子だからお尻が痛くて仕方がない。そして、亀こんだけ甲羅削られて大丈夫なんか?! 痛くないの?!


 っと、亀の心配している場合じゃなかったわ。


「ねぇ、いったいいつになったら王都に着くのよ! もう何日目?! っていうか、今日は何月の何日なのよ!?」


「そう吠えるな金太郎。お前はまだマシじゃないか。我々は徒歩なんだぞ。乗り物にただ揺られてるだけではないか? 出来れば、代わって欲しいもんだよ。なあ? こん」


「同意しづらい内容で、同意を求めないでくださいよのこと。わたしの評価が下がってしまっては困りまするよのこと。せっかく翻訳で評価を上げたばかりなんですから、ここは大事にいきたいのですよのこと」


 そうなのよ。このこんとかいう奴は、とうとうここの奴ら言葉を解読しちゃたんだよね。完全ではないけど、充分に実用性がある。その点だけは、ほんとーーーうにその点だけに限って言えば、こんはいい仕事をしたと認めてあげる。おかげで、奴らとのコミュニケーションがスムーズに進んだから。奴らはこれから王都へ帰還する事や、奴らが王命で屍魔を退治に来た軍隊である事。そして……


「40日ですよのこと」


「何がよ?」


「わたしたちがこの世界に来てから経った日数です」


「ああ、そう。ありがと」


 律儀という、抜けてるというか、そりゃもう何日経ったのかと訊いたけど、別に答えが知りたかったわけじゃない。なんかそーいうところがなんというかこーイライラさせられるのよね。


 でももう40日も経ったのかぁ。ひと月とちょっと。振り返ればあっと言う間だった気がする。ニーナちゃんやポチとは未だ合流出来てないし。まあ合流してもどうなの? って気もするけど。まあ、ニーナちゃんが居れば、ここの奴らとの話も今以上にスムーズになるだろうけど。ポチは役に立ちそうにないな。うん。ポチは要らない。一時間で戻って来なかったし。あ、でもそーなら、ポチに罰与えないと。そうだわ。その為にポチと合流しないとね。


「それで代わる気は無さそうだな。金太郎王女は慈悲の欠片もないとは。嘆かわしい。そんな事では人心を掌握できんぞ」


「うるさいわね、ヌル公! 人心なんか掌握してどーすんのよ! そんな事より、あんた等はどーやったら元の世界に戻れるか考えなさいよ!」


「なんだ。まだ帰る気でいたのか? 随分と楽天家なのだな。どう考えても、その可能性は殆どないぞ。そんなあるかどうかわからない様な可能性に掛ける時間は勿体無いと思うのだがな。それならば今出来る事に全精力を傾けるべきだと思うが」


「今出来る事ってなによ? こいつらに従って王都に行って王に謁見してそれからどうなるってゆーのよ?」


「どうなると思うのだ?」


「わたしが訊いてるのよ! 質問を質問で返すな!」


「そんなに青筋を立てるな。軽く視られるぞ。なにせお前は今、地球国の王女なんだからな。自覚を持って欲しいもんだ」


「それはただのふりでしょ! なにまだ引っ張ってんのよ!」


「冗談や酔狂でそんなふりをさせたと思っているのか? やれやれ。うちの王女様ときたら……」


 ヌル公は歩きながら両手を広げて大袈裟に項垂れた。


「いいか? 金太郎。今、我々が優先すべきは我々の安全の確保だ。元の世界に戻る為にもな。ここで死んでしまったらそもそも戻れなくなるではないか。戻る為には、ここに居る彼らを利用するしかない。我々のバックに強い力がある様に思わせるのだ。少なくとも次の手が打てるようになるまではだ。それに幸いにも、いや、元々はそっちの方が彼らには重要だったようだが……」


 ヌル公は勿体ぶって、わざとらしく溜めを作る。まったくこいつはいつも芝居掛かってる。素なのか、ブラフなのか。


「彼らが我々を生かした理由、そして今の厚遇の理由は、お前のその強さだ。つまり、その武力だよ」


 ヌル公の言葉に正直、複雑な気持ちになる。わたしは自分の強さには自信がある。むしろ、それを取ったらポチ以下だ。だから、それを評価されるのは嬉しいし、当然だとも思う。思うけれど、なんだろう? このもやもやした感じは。そりゃーそれ以外の魅力無い事ぐらい自覚してるけどさぁ。


「戦力として欲しがってるって言うのね? あんた。でもさぁ、屍魔はこいつらでも退治出来てるみたいだし、殊更必要じゃ無いんじゃないの?」


 こんの奴が通訳出来る様になって解ったんだけど、彼らはわたしたちと一緒に落ちて来た屍魔の大群と闘い、それを退治したらしい。もちろん彼らにも多数の死傷者を出したらしい。それを聞いても聞かなくてもだけど、わたしたちが連れて来た事は言わない様に、こんの奴には厳命しておいた。そうしないとあの子、いや25歳ぐらいだったからあの子っていうのはおかしいかな? まあ、どうでもいいや。こんの奴なら何も考えずにサラッとバラしちゃうに違いない。ニーナちゃんが飛び掛かったのを見るとね。やばいと思うのだ。それにしてもこんのやつ、わたし以上に考え無しの子なんて初めてだわ。


 あれ? 


 今なんか違和感が。何かおかしい。でも何がおかしいのか、さっぱりわからない。きっと何かを見落としてる。


「おい! 聞いているのか? まったく。質問してきたのはお前の方だというのに」


「あ? ごめん。考え事してたのよ。で? なんだって?」


「屍魔退治用というのは無くはないが、それ以外に、切り札、いや、隠し玉として使うつもりではないかな?」


「どー言う事よそれ? 全然わかんないわよ! ちゃんとわたしに解るように説明しなさいよ!」


「いや、まあ、まだ推測の段階だ。もう少しハッキリしたら小学生でも解るように説明してやるよ」


「わたしが小学生並って言いたいの! あんた!」


「呼びましたか? のこと」


「こん! あんたの事じゃないよ!」


「やれやれ、騒がしいことだな。そんなことより、そろそろ次の野営地に着くようだぞ。これでまたひと休憩出来るな。あ、そうそう。先程わたしは元の世界に戻れる可能性は殆ど無い様な事を言ったが、実は一つだけ大きな可能性を持った方法がある」


「有るんだったらさっさと言いなさいよ! なに勿体ぶってんの! あんたの為にそーいうところ、大嫌いよ!」


「まあそう言うな。これも雲を掴む様な話だ。話す前に充分に吟味せずに伝えてしまって、変な希望を持たれても困るからな」


「いいから早く言え!」


「へぃへぃ。王女様。では申し上げよう。なに簡単な事さ。ニーナの奴と合流するんだ。あいつはこの世界から我々の世界に来たと聞いた。ならば、我々も同じ様にして戻れるんじゃないかな?」


「なっ?! おぅ。そうね。そうだわ。そんな簡単な事、なんで気付けなかったのかしら。ていうか、もっと早く言いなさいよ! じゃあこんなところで亀に乗ってる場合じゃないじゃない! すぐにニーナちゃんと合流するよ!」


「ほぅ? おまえはニーナの奴が何処に居るのか知っているというのか?」


「元の場所に居るんじゃないの? 他に行く所ないし。わたしたちが帰って来るのを待ってんじゃないの? ポチだって居るし」


「40日もか? 忠犬ハチ公だな。まあ、山根の奴ならそうかも知れんが、ニーナの奴は大人しく待ってないだろうさ。今頃、自分の國にご帰還遊ばれておられるのではないかな?」


「はぁ? 何言ってんのあんた? ニーナちゃんの國は滅んだのよ。わたしはそう聞いたわよ」


「だが、この世界には、こいつ等のように生存している奴らも居る。なら、あいつの國の民も生きてる可能性はあるさ」


「ねぇ、今あんたと話してて気付いたんだけど、こいつ等はニーナちゃんの國の人じゃないの?」


「可能性はなくはない。だが、今の所、ニーナの奴がこいつらと接触した様子はない。それに王都まで40日以上の道程である事を考えれば、怪物の落下地点から遠過ぎる。ニーナは当時王都もしくは王都の近くに居たはずだ。そうでなければ、國が滅んだと思う様な惨状を目にしていない筈だ。滅んだと思う程の状況とはつまり王都が襲われ、崩壊したと考えるのが妥当だろうさ。そして怪物は突然現れたという。なら、長い道程を怪物が走って来たとは考え難いだろう」


「じゃあ、わたしたちが最初に居た場所ってつまり……」


「ニーナの國の王都の中、若しくはその傍だ。そして今、ニーナの奴はそこに居るんじゃないかな」


 亀の上で後ろを振り返る。わたしたちの後に続く徒歩の騎士たちと、その周りの鬱蒼とした木々しか見えない。40日の道程。真逆の方向。


「どうすんのよ。反対方向じゃないの。それに、もうだいぶん移動しちゃってるし」


「そう気弱になるな。急がば回れという言葉があるだろう。それに一番重要な事は、ニーナの奴が我々の味方かどうかだ。味方でなければ、会った所で我々の命運が尽きるだけだ。お前はあいつが敵なわけがないと言うだろうが、どんなときでも最悪の展開を想定して置くんだよ。会ってから敵でした、ではどうしようもないだろう? その時の為の対策も整えておくんだ」


「あんた、いったい何を考えてるの?」


「ん? わたしか? わたしは、そうだなあ。無事に家に帰る事、かな」


 ヌル公とのやり取りが終わる頃、仮面の男の号令でわたしたちを含む一行は山頂に陣を引いた。彼らは皆、手慣れた動きでテキパキと休憩所や見張り台等を設置していく。まるでこれから闘いでも始まるかの様だ。軍隊ってこーいうもんなんかな。よく知らないけど。


 それにしても、ヌル公のやつはいったい何を考えてるんだろうか。事の発端のひとつは、こいつがうちに潜入したからだ。


「ねえ、あんた。なんでうちに潜入したの? 目的はなに? あんた何者?」


「その話は、我々が無事に帰れたらにしないか? 今ここでいがみ合ってはお互いの為にならんぞ。少なくとも、この世界から脱出するまでは、わたしはお前の味方だ。それだけは保障するよ」


 ヌル公のにやけ顔から顔を背けると、視界の先に仮面の男がやって来るのが視えた。

 仮面の男は、わたしが亀から降りるのを手伝いに来たのだ。こいつも律儀よねえ。まあ本気でわたしが王女だと思ってるからだろうけど。ああ、そんなわたしじゃなく、本当のわたしを視て欲しいわ……なんてね。ガラじゃないわ。アホらしい。

 それにしても、こいつの仮面の奥はイケメンなのよね。こういうときは仮面外してくれてもいいのに。


 差し出された手にそっと手を添える。見た目の冷たさとは真逆に、その手からは温もりが伝わってくる。


 別に手伝って貰わなくても飛び降りればいいんだろうけど、こいつがいつも直ぐに降ろしに来るから。それに悪い気はしない。こんな扱いを受けた事は今まで無いし。まあ、あのジジイの孫だからってそれなりの厚遇は有ったんだろうけどね。それにしてもこんなお姫様の様な扱いは流石になかったわ。


「金太郎、顔が強張ってるぞ。お前もやっぱり女なんだなぁ。それでもだ。もっと王女然としないと、お里が知れるぞ」


「う、うる、うるさいわね、いま、はなしかけないでちょーだい」


 ヌル公が余計な事言うから、変に意識しちゃうじゃないの。身体中がかぁーっと熱くなるのを感じる。きっと顔中真っ赤に違いない。


 深呼吸 深呼吸よ 麗美香。


 仮面の男の腕を支えにして、ふわりと優雅に。わたしの感覚としては優雅に降り立つ。王女の降り方なんて知らないけど。


 よし。まあ、こんなもんでしょ。


「麗美香様がドヤ顔ですよのこと、ヌル様」


「だいぶ様になって来たじゃないか。次はもっと面白い降り方を頼む」


「あんたら愉しんでるてしょ! 他に愉しみが無いからって、わたしを出汁にすんな!」


 そのとき、真横で仮面の男が何かわたしに話し掛けた。くっそー。この人の真横で悪態をついてしまったじゃないの! 恥ずかしい。せっかく王女っぽく振る舞ったのに!


「ちょっと、こん! さっさと通訳しなさいよ!」


 こんがここの言語を解読したとはいえ、わたしはまだよく理解出来ていない。話せないし、聴き取れないのは変わっていない。結局は、こんに通訳してもらわないとだめなのが現状。


「えーと、この方はですねー、麗美香様に案内したい所があるそうでー、付いて来てほしいと仰ってますよのこと」


「あ、案内したい所?! なにそれ? 変な事するつもりじゃないでしょーね! いや、まあ、それでもいいけど」


「いいから付いて行こう。ほら、こんも来い。お前が居ないと話ができん」


「ちょっとあんたたち、なんでわたしを置いて先に行ってんのよ! それにスルーすんな!」


 遅れて付いて行くと、少し山を登った先にある岩場に出た。こんな岩場になんの用かと訝しんでいると、仮面の男が指差す先、遠く山を降ったところに都らしきものが視えた。


 四方を城門で固く守り、静かに佇んでいる。


「あれが王都なの?」


「どうやらその様だな。そしてこれからが本番だぞ、金太郎。期待してるぞ」


「そのニヤケ顔腹立つわ! 本番ってなに?! わたしこれから何するの?!」


「それは彼が説明するだろうさ。その為にここに呼んだんだろう」


 仮面の男は、仮面を外し、イケメンになって何かを話した。その瞳は碧く真剣で、まるで口説かれてると錯覚しそうな程だ。


 彼の言をこんがたどたどしく通訳する。


「えーっと、長い旅路をお疲れ様でした。これから貴方様には王に謁見していただきます。その際は、私が同行いたします。とのこと。えーっと、それでですねえー、貴方様が王に謁見中に、我々の軍勢が事を起こしますから、その……えーっと」


「なによ? 早く訳しなさいよ」


 こんは、青ざめて中々続きを伝えない。何度か彼に聞き直している。ヌル公は、しれっと明後日の方向を見ていやがる。まったく関心が無いって感じだ。


 彼との話しがようやく話がまとまった様子で、こんは勇気を振り絞る様に口を開いた。


「ええーっとですねー、つまりぃ、貴方様が王に謁見中に我々の軍勢が事を起こしますからその隙きに……王の首を落して欲しい。だそうですよのことよ!」

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