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異世界の姫さまが空から降ってきたとき  作者: 杉乃 葵
最終章 王女ニーナ
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第百ニ十五話 『決断』

 nullさんの容態はかなり危なそうだ。

 こんたんの見立てでは、もって二、三日だそうだ。彼女は医者ではないから詳しくはわからないと言う。だとしても状況はかなり切迫している。


 nullさんは、今静かに眠っている。

 nullさんの事だから、出来だけ静かにして体力を温存しているのかもしれない。こういう事にも慣れているのかもしれない。そんな気がした。そして、こんな事に慣れる世界にこの人は居るのだと、改めて感じた。


 nullさんは眠りにつく前に自分に、「後は頼む」言った。「どのような結果になったとしても恨みはしない」とも。


 今動ける者は、自分とニーナ、それにこんたんか。


 ん? あれ?


「そういえば、麗美香はどうしたんだ? 居ないのか? 何処に行った?」


 麗美香が居たはずだ。闘いの最中、気を失って倒れたところは憶えている。


「んぁ〜、麗美香様でしたら、奥で休まれてますよの事。あのお方も凄いお人ですよねーの事。なんか部屋が揺れ始めて危なくなった途端に、自動的に起きて本棚とか本を弾き飛ばしてましたよの事。nullさん曰く能力ちからだそうですけど。それで全部収まってから、正気に戻られたみたいで、疲れたから寝るって仰って、そのままお休みに」


 nullさんの看病をしていたこんたんが、緊張感の無い間延びした声で応えた。


「そっか。良かった。死んだのかと思った。死んでどっかに埋葬されたので、何処にも居ないのかと思ったぞ」


「勝手に殺さないでよね。わたしの人生まだまだこれからなんだし。ポチと一緒にしないで」


「自分の人生もまだまだこれからだよ! って聞いてたのか? 麗美香」


 奥の方から床に散らばった本を踏み分けて彼女が現れた。

 右腕は、こんたんの応急処置でまっすぐに固定されたままだ。


「さっき目が覚めたところよ。で? 今どういう状況なの? わたし、揺れが収まってすぐに寝ちゃったから、どうなったのか知らないんだよねえ」


「自分も先程起きたばかりでよくわからないのだが―――」


「で、ありましたら、わたしからご説明いたしますよの事」


 こちらの言葉を遮って、こんたんが話し始めた。


「あんた誰よ?」


 そっか。こんたんと麗美香は面識無かったのか。


「あー、これはお初に御目に掛かりますですよの事。神鏡の御爺様の下でお世話になっておりました、古今襷と申しますですの事。しがない一介の天才科学者でございますよの事」


 自分で天才って言ったよこの人。そして何故しがない一介なのに天才なんだ?


「ふーん。まあ、いいわ。続けて」


 麗美香は、こんたんの言葉に興味無さげに先を促した。自分で訊いておいてその態度は無いと思うが。


「えーでわでわ、麗美香様がお休みになられた後、ニーナさんを起こすようにnullさんに言われましたので、起こして差し上げましたの事。それから、ここがニーナさんの世界であること―――」


「ちょっ、ちょっ、ちょっと、待って。ここがニーナちゃんの世界ってどーゆーこと?」


「ん? ああ、そうでしたそうでしたの事。麗美香様は、ご存知なかったですよねの事。怪物たちを異世界に吹っ飛ばしたときに、その、わたしたちも一緒に飛んじゃったぁ〜みたいな事でして」


 どうもこんたんは説明が下手のようだ。結果しか言わないから話が理解に及ばない。仕方がない。援護しよう。


「つまりだ麗美香、屋敷に居た怪物を異世界に吹っ飛ばしたんだよ。その結果、みんな一緒に飛んじゃったって感じだ」


「ですです」


「なんかすごーく悪夢なんだけど、夢じゃないよね?」


 麗美香にはっきりと頷き返す。確かにこれは悪夢だ。夢なら覚めてほしいところだ。


「後な、麗美香、nullさんが見てのとおりの重症でな。今動けるのは、nullさんを除いた四人だけだ」


 眠っているnullさんを示す。微動だにしないので、死んでないかと心配になり胸元を凝視すると、微かに上下していた。

 nullさんの事にも彼女は興味なさげだった。いや、既にこの状態のnullさんを見ているんだろうな。こちらが眠らされている間の出来事なのでよくわからないが。


「あのさ、嫌な答えしか返って来なさそうだから聞きたく無いんだけど訊くわ。どうやって元の世界に戻るの? 戻れるの?」


 そうだ。それが自分も一番気になっているところだ。目が覚めてからいろいろとあって訊きそびれていたのだ。


「えー、それにつきましてはですねぇ、異世界転送の機材は恐らくは元の世界に残ったままで、こちらには来ていない感じですよの事。反応が無いので。もしかするとこっちに来ててただ単に壊れてしまったのかもしれませんが、現場に行って確認しない事にはなんとも云えないの事よ。つまりは外に出て確認する必要があるわけなんですがー」


「外ねぇ。でもこの世界ってニーナちゃんの話だと、あの怪物がうじゃうじゃ居るんでしょ? どーすんのよ」


「頼む、麗美香」


「何を?」


「ちょっと外に行って確認して来てくれ」


「じょーだんよね? わたしぼろぼろよ? 右手も動かないし、能力ちからももう使えないのよ! ポチ、わたしに死ねとでも言うの?」


「そうだよなぁ。やっぱり無理か」


 一縷の望みを掛けてみたが、さすがに今の状態の麗美香では無理か。


「それに飛ばした怪物らも居るんでしょ? なんかもうわたしたち絶対絶命じゃない?」


「あー、飛ばした怪物たちは、たぶん大丈夫だと思うの事よ。こちらに飛ばされたとき、上空数十メートルから落下してると思われますので、屋敷に押し潰されてるはずですの事」


「その割には、この部屋は潰れてないんだけど、その話信じていいの?」


「この部屋は特別製ですんで、そう簡単には壊れないですよの事。核攻撃だって耐えれますよの事」


「核攻撃に耐えるってすげぇな」


「そのお陰で、わたしたちは助かったってことね」


「まあ、わたしと麗美香様は、この部屋が潰れたとしても大丈夫だったと思いますが、他の方は無理でしたでしょうねの事。nullさんがどんだけ頑張っても、無理でしたでしょうねの事」


「そういえば、自分とニーナはnullさんに助けられたみたいだし、麗美香は能力ちからで助かったらしいが、こんたんはどうやって無事に済んだんだ?」


「あー、わたしはこれですよの事」


 こんたんが、ポケットからスマホのような物を取り出すと彼女の周りに青く透き通った円型の壁が現れた。


「これ、今開発中のバリヤーですよの事。綺麗でしょー。この色に調整するのすっごく大変でしたんですよーの事。数ヶ月掛かりましたよの事」


「用意がいいな。それ、いつも持ち歩いてるのか?」


「いえいえ、たまたまこいつのテスト中に、ロボの停止信号が来てこの部屋に向かったので持ったままだったんですよの事」


 運のいいやつだな。だが、こんな状況に結局居るのだから、運が良いとは言い難いか。

 あ、そうだ!


「いい事を思い付いたぞ! こんたん、お願いがある」


「却下ですよの事! わたしはお外行きませんよの事! 絶対無理ですよの事! どうせ、バリアー有るなら外見てこいって言おうとしているに違いないのですよの事!」


 こんたんは必死になって、後退りしながら嫌々と全身で揺れて表現した。そして、しゃーっと威嚇してきた。


「あはは、さすがに行けなんて言わないよ。こんたんにお願いしたい事は」


 そう、こんたんにお願いしたい事は、たった一つ。

 ここは不安を気取られないように、あたかも自信たっぷりなように。


 そう、nullさんがいつも見せているような仕草や声音でこう告げよう。


「そのバリヤー貸してくれないか」

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