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異世界の姫さまが空から降ってきたとき  作者: 杉乃 葵
第八章 句由比華澄
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第百二十話 『終焉のとき』

 扉が開き、勢いよく中に飛び込んだ。

 自分はnullさんの様には成れない。成れないなら、自分なりの方法で解決策を見付けるしかない。

 今の自分は、何も考えずに突き進む。それを選択する事にした。その方がうだうだ悩まなくていい。悩んで時間を浪費した上に何の解決も出来なく終わる事を思えば、自分らしく突き進んで失敗した方がいい。そう思えた。


 部屋に飛び込むと同時に目に入った光景は、麗美香が崩れ落ちる姿だった。右腕が捻じれ折れていて血に塗れている。


 それを視たとき、身体が勝手に彼女の元へ走っていた。


「おいっ! 麗美香! 大丈夫か?! しっかりしろ!」


 彼女は、迷惑そうに顔を歪めながらも口元が嬉しそうに笑って、そのまま目を閉じた。


「金太郎は大丈夫だ。死んじゃいない。それよりも奴から眼を離すな」


 nullさんの言葉に、はっとした。

 麗美香にしか意識が行ってなかった自分を自覚する。いかんいかん。どうも動揺すると近視眼的になるようだ。


 nullさんの云う、奴を正面に視る。

 その姿は人の形をしているが、顔の半分は皮膚がずるむけ、機械のパーツが覗いている。


 こいつはロボットなのか?


「バカヤロー!」


 nullさんは奴に体当たりした。

 奴はよろけて数歩後ろに下がった。そして伸びていた脚が元に戻っていった。どうやら脚を伸ばして攻撃して来た様だ。


「ぼーっとするな! 死ぬぞ!」


 状況の展開に付いていけない。nullさんに叱責されてばかりだ。このままではいけない。しっかりしろ自分。普通に考えて普通にある経験ではない。それ故に戸惑うのは当然の事が。だが今ここで起きている事は紛れもない事実であり、秒を争う単位で次々と降りかかる火の粉を払う様に判断をし続けなければ、死あるのみなのだ。


「nullさん、こいつはいったい何ですか?」


「ああ、おそらく神鏡の爺様の影武者だ。ロボットにAIを仕込んでるんだろう。奴の脚に気を付けろ。飛び出して来るぞ!」


 神鏡の爺さんの影武者? ロボットが影武者? AIって、そんなレベル高いのか? あの麗美香がこんなにズタボロになるぐらいにだから相当ヤバイ奴に違いない。

 

 そいつはまた、ゆっくりと近付いてくる。自分に闘う術は無い。無いとはいえ、足下に倒れている麗美香を見捨てる訳にはいかない。一応、こいつも女の子だしな。


 どうする?


 ちらりと傍らに居るnullさんを視る。自分だけでは道は開けない。なら、縋れるものは何にでも縋ってやる。情けなかろうが何だろうが、今大事なのはこの場を切り抜ける事だ。


「わたしが走り出したら、これを奴に向かって投げろ」


 そう云うnullさんに、何かヨーヨーの様なものを握らされた。


「では、行くぞ!」


 nullさんは、目の前のロボットを挟んで反対側へ回る様に迂回して走り出した。


 爺さんの影武者ロボはnullさんの行動に反応し、後を追う様に身体を反転させた。


「今だ! 投げろ!」


 渡されたヨーヨーを思いっきりロボに投げつける。

 さすがAIというべきなのか? ロボは身体を捻ってヨーヨーをかわした。


 くそっ! しくじった!


 来たるべきロボの攻撃に身構える。

 そのとき、ロボの後ろから飛んで来たヨーヨーが糸を伴ってロボに絡み付き、火花を散らした。糸に電流を流したようだ。


「ナイスパスだよ、ダーリン。」


 ショートして煙を上げたロボが倒れ、後ろに居たnullさんの姿が視えた。


「こいつが避ける事は想定通りだよ。普通に投げたら避けられるだろうからな」


「nullさん、相変わらず人が悪いですよ。最初から云って下さい。変な方向に投げてたらどうするんですか?」


「お前は素直だからな。真っ直ぐ投げると信じていたよ」



   ※※※   ※※※   ※※※



 出来ればこんな所に来たくはなかったんだけど、指令が出た以上は、殺るしかない。協会の指令は絶対だ。

 幸い、混乱に乗じてここまで気付かれずにやってこれた。他の魔術師たちの協力によるところも大きい。彼らの力が無ければターゲットの位置を特定する事は出来なかっただろう。


 今、ターゲットはコンピュータの操作に夢中で私の侵入に気付いていない。たしか音戸という名のハッカーと闘っているのだろう。その隙きに乗じて、イメージの中で氷の結界を創りその中にターゲットを封印する。ひとしきり封印の檻が完成するまでの間、ターゲットがそれに気付く事はなかった。これでターゲットの魂は、その身体から逃げる事が出来ない。


「神鏡重臣」


 ターゲットに呼びかける。


 こちらに気付いたターゲットは、愛らしいキョトンとした表情を向けてきた。その姿は確かに二十代のメイドだが、正体を知っている私には不気味にしか映らない。


「えっと、ご主人様は生憎あいにく不在で御座いますが、どちら様でしょうか?」


 メイドの言葉を聞き流し、舞から託された宝石を付き出す。これだけでターゲットには充分理解出来るだろう。人の魂を移した石。それに続く他人の身体への魂の移動。それは魔術の非人道的使用だ。


「神鏡重臣、汝の魔術の不法な濫用は、これ以上看過する事能わず。よって、魔術協会の名において汝に誅伐す」


 本来のこのメイドの魂がどこへ移されたのかは解らないが、このまま神鏡重臣をのさばらせられないというのが協会の結論だ。そして移されてしまったメイドの魂に関しては協会の与り知るところではないのだ。


「あのぉ、すみません。何を仰られているのかわからないのですが?」


 あくまでもしらを切り通そうとするメイドの身体を借りたターゲットに、私は氷の矢を放った。

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