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異世界の姫さまが空から降ってきたとき  作者: 杉乃 葵
第八章 句由比華澄
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第百十七話 『視えるもの』

「nullさん、どうしましょう? このままじゃ屍魔に殺られます。何か、よい案は無いでしょうか?」


 結局、nullさんに頼らざるを得ない自分に苦笑する。分相応といえばそうなのだが、なんとも情けない気分に支配される。

 真っ暗で何も視えない。そしてここは狭い抜け道の通路上。逃げ場はない。ここで襲われたらひとたまりもない。


「お前たちに渡したい物がある。そのままじっとしていろよ」


 nullさんの言葉に従いじっとしていると、手に何かを握らされた。手で触って確認すると、ゴーグルのような物だった。


「それを付けろ。暗視ゴーグルだ」


 え? 暗視ゴーグルの予備は無いって云ってたはずだ。何故在る? 何処で手に入れたのだろうか?


「急げ時間がないぞ!」


 慌てて暗視ゴーグルを装着する。


「もたもたするな! 付けてやるから、屈め。手が届かん」


 その場でしゃがみ、nullさんに装着を任せた。

 スコープ越しに緑色に映像が浮かぶ。結構視えるモノなんだと感心する。暗視ゴーグルなんて初めて使った。


 周りを確認すると、nullさんがニーナにゴーグルを装着しているのが視えた。

 視えるようになったとはいえ、何も視るものがない。ただ真っ直ぐに通路が前後に続いているだけだ。上を見上げてみるも、飾りっ気のない天井があるだけだ。


「一つヒントをやろう。今とさっき、どう状況が変わったかな?」


 予備のゴーグルを隠し持っていた件を問い質したとき、nullさんは謎掛けを返してきた。

 どう変わったか? それは自分とニーナが視えるようになった事だけじゃないか?


「視えるとどうなる?」


「速く進めます」


「正解だ。お前は賢いなぁ」


 馬鹿にされている。珍しくnullさんの云い様に、ムッとしてしまった。nullさんらしいいつも通りの云い様なのだが、どうにも消化出来なかった。


「では何故わたしは最初に渡さなかったと思う?」


「えーっと、その流れで云えば、速く進ませたくなかったという事ですか? でも何故?」


「一つ情報が抜けているぞ。さっきと今。速さだけでは無かろう?」


 そうだ。残る違いは、メイドさんの有無だ。つまり、メイドさんが居る時は遅くしたかったという事か? でもそれは何故?


「恐らくあのメイドもゴーグルのように夜目が訊く何かを隠し持っていたのだろうな。我々を出し抜くチャンスを待っていたのだろう」


「初めからあのメイドさんを怪しいと思っていたんですか?」


「当然の事だろう? あいつはこの屋敷に居た者だ。疑うに充分な理由だと思うがね。どんなに頼りなさそうに振る舞っていようが、どんなに馬鹿に視える言動をしていたとしてもな」


 そうだった。nullさんは初めて会った時からそうだった。服装を視て性別を判断した事をたしなめられたんだった。nullさんに教えられていたのに、自分はまだ駄目なんだ。自分の至らなさにがっくりする。完全にあのメイドさんを視たままの人だと思い、まったく疑いを持たなかった。


「あいつは、我々の移動速度が遅いと思っているはずだ。故に、それに基づいた企みをもって攻めて来るだろう。以上だ」


 nullさんは、ぽんっとこちらの尻を叩いた。


「さて、隊長どの、どうするね?」


 視えるようになった空間で、nullさんのニヤニヤ顔が浮かぶ。

 どうするっていわれても。それを訊きたいのは自分の方だ。


「nullさん、何かいい案無いですか? さっきも訊きましたけど」


「案なら今、出したじゃないか。これ以上のものは無いと思うがな。あー、そうそう、情報をニつ提供しておこう。怪物たちは我々が来た方向に集まっている。そこからこちらを目掛けて突進して来るだろう。そして我々が向かおうとしている場所は、走れば10分も掛からずに到着するぞ」


「それはつまり、このまま前に進めと?」


「それを決めるのは隊長のお前だよ。わたしはきみの指示に従うさ」


 ニーナの方をちら見する。ゴーグルに遮られて、その瞳は視えないがnullさんと同じ決意を硬く握りしめた手に感じた。


「解りました。前へ進みましょう」


「よし、決まった! ではわたしが先導する。全力疾走するぞ! 遅れるなよ」


 そう云うやいなや、nullさんは走りだした。

 慌てて自分とニーナも後を追った。

 暗視ゴーグルの視界は狭く走るのが躊躇われたが、次第にそれも慣れてきた。

 ニーナが付いて来ていることをその足音で確認する。後ろを振り返る余裕はなかった。振り返りながら走れば脇の壁に激突する事が充分予想されるからだ。ここで転びでもすれば後ろのニーナを巻き込む惨事になるだろう。

 とっさに走りだしたとはいえ、ニーナを一番後ろにした事を後悔した。ここは一番後ろは、自分が護るべきだったと。


「もう時期目的地に着くぞ! ゴーグルに気を付けろ。灯りが強ければ目がやられる。いつでも外せるようにしておけ!」


 いよいよ到着かと思った時だった。


 ニーナの足音以外の音が、大群が走ってくる音が聞こえた。


「nullさん! 来ました! 奴らが来ました!」


「構うな! 走り抜けろ!」


 怖がれば怖がるほど、速く走ろうと思えば思うほど、脚は空回りして速度が出ない。よく夢の中で何かに追われて逃げるとき、全然思うように進まないという経験があるが、まさにそんな感じた。


「前方の防護壁が降りるぞ! 遅れるなよ。潜り抜けろ!」


 nullさんの激が飛ぶ。

 間に合わなければ、ここに閉じ込められて屍魔の餌になる未来しか視えない。


 ガガガという音と共に前方の壁が降りてくる。


 nullさんに続いて潜り抜ける。


 後ろを振り返ったとき


 胸を穿かれたニーナの姿が眼前にあった。


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